[12]過去に体験した最大の試練やストレッチされたご経験について教えてください。
常に試練は体験してきましたが、特に大きかったと思うのはBCGでの日々です。「サラリーマン」ではなくて「プロフェッショナル」であるということはどういうことなのか、この時期にたたき込まれました。
[13]経営者を志す者には、どのような努力や学びが必要でしょうか?
今どのような仕事をどのような立場で行っているにせよ、人間力とリーダーシップと実行能力というものを常に意識して行動する。それが何よりの学びになると思いますし、今すぐにでも始められることだと考えています。[14]今までに影響を受けた先輩や師匠といえるかたはいらっしゃいますか?
誰か1人、特別な存在がいて......というのはありません。三菱商事でもBCGでも多くの人に影響を受けました。あらためて当時を振り返ってみると、やはり近い距離にいたかたがたに特に影響を受けていたように思います。
言い換えると、常に近い場所に影響力のある一流の人がいた、ということ。私はとても恵まれた環境にいたのだなと思います。[15]キャリアの成功とは「計画的に努力して成し遂げるもの」でしょうか?
それとも、「偶然や人との出会いなど、運が影響するもの」だとお思いですか?
究極の選択としてどちらかを選ぶなら、後者のほうですね。「運」や「ご縁」はとても大事です。ただし、何もせずに待っていたって「ご縁」は、やってくるものではない。目標を持って、計画を立てて、そうして努力を積み重ねていく道筋に「ご縁」が生まれると考えています。
例えば、何かで努力をしているうちに自分と同じ課題を抱えて苦労している人と出会い、それが後になって大きな「ご縁」に発展したりする。「運や縁は大事だけれど、それは努力している人にしかやってこないよ」というのが私の考え方です。[16]なぜ起業ではなかったのでしょうか?
「起業する」ということ自体が、当時の私にとってはピンとくるものではなかった。それが答えです。三菱商事の時代に新規事業開拓を任されたことがあり、起業をしたら味わうであろうエキサイトメントを疑似体験したことはあります。その独特の醍醐味に魅せられる気持ちもわからないではないんです。しかし、それでもやっぱり私にとっては「どうしてもしたい」と思える事柄ではなかったようです。[17]特別な信条やモットー、哲学などをお持ちですか?
今までお話してきたように、大切にしている想いやこだわりはたくさんあります。けれども、それらを一言で表すようなものを座右の銘にしているかというと、そうではないですし、自分が置かれている状況や、会社の状況などなどで「今、大切にすべき考え方」というのも変化するので、この質問に対しては「持っていません」とお答えしておきます。[18]経営者となった今、何を成し遂げたいとお考えでしょうか?
事業を通じて成し遂げたいのは「社会にインパクトを与えたい」です。1人の経営者として会社で何を成し遂げたいかといえば「関わった従業員の皆が繰り返し語りたくなるようなインパクトを彼ら彼女らの心に残すこと」です。社員の家族や知人が「またその話をするのかよ」と、その社員に言いたくなるくらい、繰り返し口にしたがる素晴らしい経験をしてもらえたら、私も嬉しい。皆にそういう経験をしてもらえるような経営者になりたい、と願っています。[19]現在のポジションを去る時、どういう経営者として記憶されたいですか?
私の場合、レインズでもUSENでも厳しい局面で経営者の立場になってきました。再生してV字回復を目指すような局面ばかりですから、厳然と数字、つまり結果が問われてきました。ビジネスの世界ですから、こうした結果が記憶されます。しかし、私が望んでいるのは、先にも申し上げた通り、自分と関わった社員の皆の心の中に存在感を残すことです。「あの時は楽しかったな、充実していたな」というような存在感を多くの社員に残せたら嬉しいです。[20]20代、30代のビジネスパーソンにメッセージをお願いします。
とれるリスクはどんどんとっていった方がいいよ、と伝えたいですね。「何がしたいか」がわかっていて、それでも動いていないのだとしたら、それは本当にやりたいとは思っていないか、やる前からリスクを気にしているかでしょう。しかし、そもそも何かにトライして成功しようが失敗しようが、どちらに転んでも得るものはたくさんあります。つまり、トライすることにはリスクなんてない。あるのは「やらないリスク」だけ。だから、グズグズしていないで、今すぐにでも退路を断って飛び込んで行け、と言いたいです。※この記事は2013年8月にインタビューした内容です。
2013年11月の総会で任期満了に伴い退任されました。