はじめに
「レビュー(資料の確認)」「アベイラブル(プロジェクトに入ることが可能な状態)」「タッチポイント(次の打ち合わせタイミング)」というように、コンサル業界では昔から独特の横文字文化が存在します。その理由は諸説ありますが、2000年代以前のTier1戦略ファームを中心に、海外本社から日本支社へのコンサル業務の現地化を促進するための外国人パートナーが多く在籍しておりました。その残滓で、日本語+横文字(上手くニュアンスを捉えた日本語がない用語)での会話が浸透していったのではないかと考えています。
その1つとして、ジュニア・シニアという用語が存在します。この用語は、年齢的な意味で若手のことをジュニア、一定の年齢層以上をシニアという意味で使うこともあれば、経験・実績的な意味で入りたての方をジュニア、一定の成果を残して上位役職となった方をシニアという意味で使用する場合もあります。
今回お伝えしたいと考えている、「シニアコンサルタントの役割とキャリアパス」は、経験・実績的な意味合いで使用されるシニアという意味を冠した役職の話となります。ファームによっては、シニアコンサルタントという役職名ではなく、アソシエイトマネージャーと呼称する場合もあります。しかし、実務の観点では、プロジェクトやファーム内で果たす機能は、ほぼ同じと理解して頂いて問題はありません。
余談ですが、シニアコンサルタントではなくアソシエイトマネージャーという役職名を使用する理由として、その役割を規程で上手く定めると、管理職としてみなせる利点があるとも聞きます。つまり、残業代を含む労務管理上の位置付けや、プロジェクトにおけるフィードバックや負荷のかけ方が若干異なります。もちろん、マネージャー予備軍として成長期待を持つという思想で役職名を設定することもあります。その様な観点で各社の役職名を見ると、表には語られない設計思想が透けて見えてくることがあります。
プロジェクトの結節点
本論に戻りますと、シニアコンサルタントへのファーム運営の側面での期待は、そこまで高くはありません。但し、ファーム内の所属組織やチームでの運営補佐として、業務を分担し始める方は、ちらほら出始めます。
次に、プロジェクトの側面での期待は、
①1人のコンサルタントとして自走し、クライアントへの価値提供を実現出来ること
②マネージャーの補佐(予備軍)として、プロジェクトマネジメント業務の一部を遂行出来ること
③プロジェクトチーム内でのゲートキーパー機能を果たすこと
の3点となります。念のため、耳慣れない単語と想像されるゲートキーパー機能について補足をしておきます。
1つ目は上から下へ(マネージャーからジュニアメンバーへ)のコミュニケーションにおける、言葉や意味合いの解釈と翻訳、2つ目は下から上へのコミュニケーションにおける、情報(資料といった作成物も含まれます)の取捨選択と精査の役割を意味します。尚、この機能は②の一部として整理される方もいますが、少しプロジェクトマネージャーとして主に果たすべき機能とは異なりますので、3つ目の役割として、あえて分けて整理をしています。
尚、"業界あるある"ですが、マネージャー以上とジュニアの2人体制でプロジェクト組成された場合、お互いに不幸な結果となるケースが散見されます。あまりに経験や知見、考え方の観点に乖離するため、マネージャー以上側の考える「これぐらいは出来るでしょう?」「この期間で終わるでしょう」といった期待に、ジュニアの実際のパフォーマンスが応えることはほぼありません。
結果、ジュニア側は自身の能力を大幅に超えたワークボリュームやレベルの仕事をしている(プロジェクトマネジメントをしっかりとされていない)といった被害者意識が高まります。一方、マネージャー以上も満足しないアウトプットに対し、クライアントへの期待に応えるという名目の下、ハンズオンかつマイクロマネジメントに乗り出し、セールス等の他活動の時間が少なくなります。この現状は、ジュニアが離職を考える1つのきっかになることが多いと、肌感としては持ちます。
そのような不幸を防ぐ1つの機能として、結節点にシニアコンサルタントが存在し、マネージャー以上側とジュニアを繋ぐ上でのゲートキーパー機能を果たすことを重要な役割として期待されます。
キャリアにおける役割変化の節目
マネージャーになると、ファーム運営、プロジェクトマネジメント、セールスといったように、果たすべき役割のレベルと幅が急に増えます。その予備軍としてシニアコンサルタントが存在し、コンサル業界を本格的に続けていくか否かに迷う時期になると思います。また、シニア側もこの人は将来パートナーになれるだろう、といった伸びしろを含めた目線で評価をするタイミングとなります。
但し、最近はコンサル業界の裾野拡大に伴い、各役職の重みや期待役割に対する地盤沈下も生じています。その結果、シニアコンサルタントをマネージャーに昇格させることに対し、正直以前ほど、厳しい目線で見ていません。例えば、マネージャーがセールス責任を負わないファームが、ほとんどになってきている感覚を持っており、誰でも一定の経験を重ねれば、将来の伸びしろの有無に関わらず、マネージャーになれる環境ではあります。
その為、相対的な転職市場におけるマネージャーの価値も以前より低下しており、正直な感覚で書くと、キャリアパス視点で見ても、そこまで深く考えるタイミングではなくなっています。また、コンサル業界以外への転職を考えると、役職付への転職は以前より更に難しくはなってきている感覚を持ちます。
最後に
今回は、「シニアコンサルタントの役割とキャリアパス」というテーマで、その現実をお伝えしてきました。改めて思うのが、以前よりUp or Outも言われなくなってきており、自分のペースでキャリア構築を出来る幅や余裕は生じています。その意味で、改めて自分自身を見つめて、修行できる場がコンサル業界の魅力の1つではあるので、そのような、コンサルタントのキャリア形成の仕方に興味を持たれたのであれば、是非挑戦をしてみる価値はあるかと思います。