はじめに
コンサルティング業界における行動や仕組み、慣習のほとんどは、クライアントに対して最大の価値を提供するにはどうすれば良いのか、という一貫した思想に基づいて設計されています。そのため、お気づきの通りとなりますが、本稿テーマとなる「コンサルはなぜタクシーを使うのか」も根底にはクライアントへの最大価値提供という思想の下での行動となります。
大事な点ですが、根底にあるこの価値観とコンサルティング業務のオペレーション設計が一貫していない、整合性がとれていないコンサルティングファームは上手く成長しません。ここ数年は、需要が供給に追いつかないので、その点がかみ合ってなくても成長しているファームが多いのも事実ではありますが......
2000年代に入り、
● メーカ系子会社として出発したコンサルティングファーム
● SE人材派遣から発展する形で上流のIT戦略、業務設計へ成長していったコンサルティングファーム
● 総研系から業務範囲を拡大する形で成長していったコンサルティングファーム
といった、純粋なコンサルティングファームとして出発した以外にも様々な出自でのファームが登場をしてきました。
しかし、「クライアントに対して最大価値の提供」という思想を理解しない親会社から来た役員、異業界から転身してきた経営陣が主導するコンサルティングファームは、あまり上手く成長軌道に乗っている印象はありません。設立当初、声高に掲げていた目標や看板は静かにおろされており、世の中に多大な影響を与えるほどのポジショニングを得ていないのが現実です。
尚、実際の現場や中堅層をコンサルティングファーム出身者で固めることで、プロジェクト自体は、その場その場で上手くデリバリー出来ているかとは思います。しかし、そのプロジェクトをリードした人材の定着や次に活かす仕組みは、上手くいっていると聞く機会は少ないです。
今回のテーマに関連する「タクシー」を例にすれば、リーマンショック後、そのような出自のファームは業績見通し不透明に伴いタクシー利用の自粛をしていました。一方、根底の価値と仕組みとの一貫性・整合性を考えるファームでは、タクシー自粛の話をあまり聞くことはありませんでした。
そのような背景を踏まえつつも、タクシーを良く使う理由を、説明していきたいと思います。
実務上の理由
深夜遅くまで仕事をしている為、仕方なくタクシーを使用している例は除くとして、日中に使用する理由は大きく2つあるのではないでしょうか。
1つは、時間の節約です。
直前まで作業を行うことができる点、そして移動中も最終のすり合わせや、他案件に関する認識のすり合わせといった業務時間として使うことができるのがタクシーの利点です。そのため、常にタクシー使用にこだわる訳ではなく、電車移動のほうが早い場合は電車を優先的に使用しています。
もう1つの理由は、疲労の軽減です。
SDGsの時代に逆行する話ではありますが、打ち合わせのたびに、それなりの量の紙で印刷された資料を準備します。その持ち運びが重労働であり、また公共交通機関に忘れるといったリスクも回避したいために、タクシーを好んで利用する傾向があります。
オペレーション上の理由
使う理由が明確であったとしても、事業会社の場合はタクシー代が使いにくい環境にあるのではないでしょうか。その点、コンサルティングファームが一般的に採用しているプロジェクト採算性が、タクシー代を使い易い環境を作っているかと思います。
プロジェクト採算性とは、大雑把に言うと各プロジェクトで黒字になるようにマネジメントしていく仕組みです。黒字にするために各プロジェクトのフィーを算出ロジックへ、コンサルタントのチャージレートや経費、グローバル本社への上納金を含む取り分をあらかじめ設定します。そして、一定水準を超えなければコンサルティングサービスを提案してはいけない、という運用が一般的です。
各プロジェクトにおける経費に構成される交通費や宿泊費、図書費や調査費用等々が設定額を超えないように、プロジェクトリーダーがマネジメントをしています。そのため、範囲内である限り、その用途はそこまで厳しく言われることはありません。
最後に
基本、プロジェクトリーダーは、タスクやクライアントへの期待値をコントロールしつつ、業務量やその手順の調整・再設計を行うことができる立場です。そのため、プロジェクトリーダーがマネジメントを工夫すれば、残業は減らせます。
一方で、スタッフが深夜残業でタクシー代を使用せざる得ない原因を作り出しているのもプロジェクトリーダーです。
突き詰めると全てプロジェクトリーダーの力量しだいとも言えるので、スタッフの時にタクシーを使用するなと言われた経験はほぼなかったと記憶しています。皆さんも、コンサルタントである内は、目いっぱい時間を気にせずに働くことができるものの、プロジェクトリーダーになると、胃の痛い日を過ごすかもしれません。