はじめに
最近、面接時にコンサルティングファームの経営形態に関する質問を受ける機会が減ってきたように感じています。戦略コンサルティング業界を目指される方にとって、パートナーシップによる経営形態はほぼ前提の知識として受け入れられてきている、とも言えるかもしれません。
一方、各コンサルティングファームを見ていると、パートナーシップ形態ではない経営・ガバナンス体制を採用するファームも増え始めています。
これは個人的な考えではありますが、パートナーシップ形態での経営では、現在のコンサルティング業界の競争環境で生き抜けないかもしれないという危機感のシグナルかもしれないな、とも思っています。
実際、ダイナミック且つスピーディに変化する市場環境に対応する上では、"頭の良い"人たちが、互いに"尊重"し合う経営形態では、"身を切るような思い切った"意思決定を行うには難しい場面が多々あります。
以前より生じている、プロフェッショナル業務に関する意識の低下も1つの要因かもしれません。
そのような状況下にあるコンサルティングファームの経営形態は「今後どうあるべきか?」と、再考するにしても、現在のパートナーシップ形態を実際に担うパートナーが「何をしているのか?」「どのような機能を担っているのか?」について、理解をしていなければ考えようもありません。
あまり聞いたことも意識したことも少ないかと思いますが、本日は、皆さんにその点をお伝え出来ればと思います。
パートナーの果たす5つの機能
パートナーの果たす機能とは、大別すると
(1)「ファームのコンサルティング領域に関するポートフォリオ戦略立案・実行・モニタリング機能」
(2)「ポートフォリオに基づく事業領域別の事業戦略立案・実行・モニタリング機能」
(3)「事業戦略を実行する人員計画立案・実行・モニタリング機能」
(4)「全社、並びに領域別のプル型のマーケティング戦略の立案・実行・モニタリング機能」
(5)「全社のリスク・品質・コンプライアンス・倫理感のガバナンス機能」
の5つに分類することが出来るのではないでしょうか。
整理軸の話ではあるので、説明するコンサルタントによっては多少の差異はあるかと思います。
しかし、感覚的には、この5つでほぼすべての機能をカバー出来ているかと思います。
尚、グローバルファームの場合は、「各ローカルオフィスの利益代表者としてのグローバルオフィスとの交渉機能」が追加されます。
お分かりの通り、コンサルティングファームを経営する立場としての機能と、各コンサルティング領域の担当事業部門長の立場としての機能という、2つの時に相反する意思決定に迫られる機能を各パートナーが夫々に担う構造となります。
ここが、経営と執行が分離されていないパートナーシップ形態の限界であり、昨今の事業環境変化のスピード感とインパクトについていけなくなりつつある構造の原因を見て取れます。
例えばですが、1つ目の「全社コンサルティング領域のポートフォリオ戦略立案・実行・モニタリング機能」は、ファームとして新規に進出する分野(自動車・金融といった産業軸、SCM・ITといった機能軸、投資・成功報酬モデルといった労働集約型ではない事業軸、等)の内、どこに進出していくか、既に取り組む分野の内、どこから撤退していくかといったことを決めていきます。
新分野への進出は、比較的すんなりと決まります。基本的には、その分野でコンサルティング経験の長いプロフェッショナルを採用し、その方を中心にチーミングしていくようなことを決めていくのが通常の流れとなります。
一方、難しいのは撤退や今後注力しない意思決定を行う場合です。
完全に撤退する意思決定は"頭の良い"人たちがお互いに"尊重"する環境下では、ほぼ不可能なのが現実です。
その為、暗に非注力分野として"なんとなくの共通認識"を察して、人員採用をそれとなくしなくなる、徐々に他注力分野へコンサルタントを異動させるアサインメント組みをするといったことを行います。
結果、その分野を預かるシニアはデリバリー体制が脆弱になることから、BD(Business Development)活動も出来なくなり、徐々に居場所や活躍機会が減っていきます。そして、そのシニアは転職し、その分野は自然消滅していく道筋を辿ることとなります。
経営と執行が分離している場合、比較的ダイナミック且つスピーディに事業領域単位の入れ替えが出来るのですが、パートナーシップの場合は、この1例の通り、時間をかけて対応せざるを得なく、新たな経営形態、又は既存の経営形態の下で、その課題点を解決する仕組みの設計・導入が必要になってきていると感じる次第です。
最後に
紙面の都合から、今後のコンサルティングファームの経営形態の在り方に係る再考は皆さんにお任せをしたいと思います。
現在、各社ともに環境変化に対応する為に、あり方を模索中なのが現状です。
「コンサルティングファームにこそコンサルティングが必要だ」ではありませんが、今は次の10年、20年の業界で如何に生き残り、勝ち残っているかを再考している面白い時期ではないでしょうか。
皆さんも、そのようなコンサルティング業界に興味を持たれたのであれば、是非挑戦してみる価値はあるかと思います。