はじめに
常駐プロジェクトと聞くと、"ぱちぱち君"や"高級人材派遣"と言われるような、クライアントに言われたままの資料を綺麗に作成するコンサルタントを思い浮かべる方が多い印象を持ちます。しかし、以前の常駐プロジェクトには、そのようなタイプのコンサルティングはほぼなかったと思います。それは、コンサルティング自体の認知度の低さや、わざわざ資料作成にお金を払う必要があるか、というような当時の空気感に起因しているのではないでしょうか。
改めてコンサルティング業界の歴史を振り返ると、ERP(Enterprise Resource Planning)パッケージの導入プロジェクトが流行っていた2000年代以前から前半よりも、2000年代後半のJ-SOX(内部統制報告制度)導入のコンサルティングが流行りだした時期から、良く常駐プロジェクト="資料作成屋さん"のようなイメージを持たれるようになってきている印象を持っています。
当時はコンサルタントの専門領域がそこまで細分化されていなかったことから、ERPパッケージの導入プロジェクトの内容に、今でいう業務系コンサルティングのテーマが含まれていました。
そのため、同じパッケージシステムの導入のプロジェクトのように見えますが、実態は異なっていました。朝から晩までインタビューと討議を繰り返し、夜中に資料を作成し続ける働き方が主流であったことから、効率性の観点から常駐することで、いつでもクライアントと討議できる状態できるようにしていました。
もちろん現在においても、クライアントに寄り添い、膝詰めで討議することを目的とした常駐や、チェンジマネジメントを促すことを目的とした常駐といった、"資料作成屋さん"以外の常駐プロジェクトは存在しています。私自身も、あるクライアントに対して中期経営計画を立案した後、その実行推進の為に経営企画部に席をもらい、密に連携をとりつつ支援を行っています。
そのような背景を踏まえた上で、今回は、"資料作成屋さん"ではない常駐プロジェクトにおけるメリット・デメリットをお伝え出来ればと思います。
メリット・デメリット
週に1度の定例といったプロジェクトの対比でのメリットと言えば、良い意味でアジャイル的にプロジェクトが進む点にあります。当然、常駐型であってもプロジェクト開始時に進め方を設計して開始します。しかし、常駐することを通じて、コミュニケーション量を増やし、またインサイダー化によりクライアント状況を急速に知るようになります。このスピード感は週に1度会うだけでは、実現しないのではないでしょうか。そして、その結果、当初の進め方に拘らずに状況に合わせた最適なタスクをクライアントと再設計しつつ、プロジェクトをアジャイル的に進めることが出来ます。
一方で良いことだらけに見える常駐プロジェクトではありますが、この進め方はクライアントに一定の工数負担(プロジェクトへの専任人材の選出を含む)をお願いします。また、相手がエグゼクティブクラスの場合、なかなか、常駐をしていてもそのメリットを感じる場面はありません。そのため、常にプロジェクトに際しては、常駐プロジェクトがハマるケースとハマらないシチュエーションを見極めて設計することが重要なポイントです。
一方のデメリットですが、常にクライアントと接点を持つため、常駐する人材を選ぶことになります。週に1度の定例であれば、少しその役職に対して能力が不足していたとしても、上手くフォローすることでコンサルティングフィーを正当化するお化粧は出来ます。しかし、常駐をした場合、コンサルタントの力量がすぐにクライアントに知られることとなります。結果、プロジェクト途中でリリースされることも多々散見されます。これは、ファームのブランド毀損にも繋がるリスクがあると言えるでしょう。
また、力量が分かることから、良いコンサルタントは、ずっと名指しで指名され続け、他プロジェクトの経験ができなくなるというケースもあります。これは、色々な業界を見てみたい、色々なテーマのコンサルティングをしてみたいと考えているコンサルタントにとっては、デメリットになるのではないでしょうか。
なお、私事で恐縮ですが、1つのクライアントに対して戦略から実行まで支援できる経験は、非常に貴重な機会だと思っており、また楽しみを覚えているのでデメリットとは捉えていません。
最後に
現在、クライアントの一部企業ではコンサルティングファームに対して、単なるアドバイスを超えた、事業推進のパートナー的な位置付けを求めることがあります。常駐から始まり、クライアントとコンサルティングファームが共同出資する会社への出向という形へ発展しているケースもあり、今後は、"資料作成屋さん"とは異なる常駐プロジェクトが増えてくると予想されます。
それは、コンサルティングファームでは経験できないと言われていた事業としての手触り感ある現場の経験と、一方で事業会社によくある年功序列やスピード感の遅さを感じない、"新たな働く場所"が誕生しつつあるとも言えます。皆さんも、そのような"新たな働く場所"を1つのキャリアの選択肢として考えてみてはいかがでしょうか。