はじめに
コンサルティングサービスでは成果物として資料の納品は行いますが、その本当の成果(価値)はプロセスを通じて発見されたインサイトや獲得した思考パターンといった無形のモノにあります。そのため、目に見える形として存在し、性能の比較評価が可能なモノを納品する企業と比較すると、期待値コントロールの重要性は高くなります。
戦略・経営という日々刻々と状況が変化するレイヤーに対してサービスを提供するコンサルティング業界は、以前の知らなかった情報を探して提供していくことが価値であった時代から、よりトップライン/ボトムラインに目に見える影響を与えた成果が実行を通じて求められるようになってきています。そのため、確かに期待される成果自体はクリアになりつつあります。手触り感のない新規事業案や当たるかどうか分からない戦略的方向性よりも、よっぽど分かり易く評価出来ます。
但し、変数の多い実行phaseにまで踏み込んだサービスへの期待が増えるにつれて、
「プロジェクト期間中に、何をどの程度達成すれば良いか?」
「創出された成果にコンサルティングサービスが、どのように、どの程度寄与しているのか?」
といった、期待値コントロールの面で更に難しいイシューは発生してきており、期待値コントロールの重要性は依然として高いと言えるでしょう。
ここまでの話を踏まえると期待値コントロールは非常に難しく感じられるかもしれません。しかし、コンサルティング業界は期待値コントロールと向き合い続けてきた歴史とも言い換えることが出来るので、押さえるべき要点はほぼ経験則的に整理はされています。本日は、その要点をいくつかピックアップして、皆さんへその現実をお伝えできればと思います。
進め方への期待値コントロール
プロジェクトの進め方を押さえてコントロールしていくことが鉄則です。
一方で、進め方はプロジェクトのイシューによるところが大きいことから、わざわざ確認しない方も多いです。しかし、私の経験を通じて言えることは、同じイシューでも例えば大企業と中小企業の創業者では、進め方に対する期待は異なるのが実態です。
意味があるかは別として、中小企業の場合、"同じ釜の飯を食う"感覚を持つ方が多く、常駐する方が進めやすくなります。ここを掛け違えることにより、良い成果を出したとしても、進め方の点で不満がくすぶり、その成果を受け入れてもらえない、というケースも散見されます。
進め方を確認する際の切り口として、例えば
「ジュニア・シニアの比率(パワーワークを期待するのか、知見・示唆を期待するのか)」
「訪問or常駐(Outside-In / Inside-Outが正確な表現。一定纏めて示唆を出した結果が欲しいのか、その考える過程を含めて一緒に考えていきたいのか)」
といったような点があり、イシューに照らし合わせつつ、確認をしていきます。
スコープ・内容への期待値コントロール
プロジェクトのスコープ・内容を押さえてコントロールしていくことも重要な点です。常に生じますが、プロジェクトが一定期間過ぎると、当初設定したイシューに対する大まかな結論が見えてきます。その段階と、更にそのイシューを解いた後に生じるイシューも、現在のプロジェクト期間内で範囲に含めて検討をして欲しいと依頼してくるクライアントがおります。
この時に、曖昧な返答をすることでプロジェクトの成果物に対する期待値コントロールに失敗するケースは後を絶ちません。
つまり、今のプロジェクトでの成果とエクストラワークで実施した部分での成果品質を混同されること、またメンバーへの負荷が増加し今のプロジェクトにおける成果に対して影響が生じること、といった事象により炎上手前になることが多いのではないでしょうか。
最後に
今回は、2つの観点に関する期待値コントロールのコツをお伝えしました。但し、この2つの観点においても、現実問題として非常に厄介なことがあります。それは、「クライアントとは誰のことを指すのか?」問題です。
つまり、クライアントのプロジェクトオーナーとこの2つの観点を合意し握ったとしても、クライアント内のメンバーが異なる考えを持っている場合、その異なる考えをコンサルタントへ要望し、そして不満を抱いていくケースが存在します。必ずしも、クライアント内も一枚岩という訳ではありません。
その際、クライアントはコンサルフィーを払う、プロジェクトに責任を持つオーナーのみ、という考えのコンサルタントもいれば、対面するチーム全員がクライアントという考えのコンサルタントもいます。決して1つの正解が存在する問いではありませんが、クライアントに対してどのように価値提供をしていくかという価値観の違いにより、対応の仕方は変わっていきます。
皆さんもコンサルタントになると、期待値コントロールといったテクニックを学ぶと同時に、どのようなスタンスでクライアントに価値提供するかという"価値観"を形成することを求められます。皆さんも、コンサルタントのキャリアを選択される場合は、今の内から、どのようなコンサルタントになりたいかを考え始めても良いのではないかと思います。