はじめに
コンサルティング業界では事業会社と比較すると高頻度で引き継ぎが行われています。事業会社では異動時に引き継ぎが発生することが一般的と思います。一方のコンサルティングファームでは、定型業務は少なくプロジェクトベースで働くことが大半であることから、プロジェクトの終了時や期間中に発生しています。
例えば、プロジェクトが継続する場合にコンサルタントがスイッチ又は追加されると、前phaseの内容を引き継ぎますし、プロジェクト期間中にコンサルタントが各種事情(病気、離職、クライアント要望、等)によりスイッチする場合にも引き継ぎが発生します。
クライアントの立場としては、どのコンサルタントがサービス提供するかは本質的な問題ではありません。それはイシューを解くことにコンサルティングフィーを支払うためです。そのため、コンサルタントがスイッチする場合、コンサルティングファーム側の責任で、その前の業務内容を把握させていくことが必須となります。
コンサルティングファームでは、この引き継ぎが上手くいかなかったり工数が取られてしまったりすると、レピュテーションリスクを負い、非生産的な時間を費やすことになります。そのため、プロジェクトマネージャーはいつコンサルタントがスイッチしても良い形でプロジェクトを設計し、推進をしています。
つまり、「引き継ぎのための引き継ぎ」を最低限に抑え込む進め方をすることで、高頻度で発生する引き継ぎのリスクを減らしています。但し、最近はプロジェクトマネージャーに求められる役割が一段落ちていることから、そこら辺の設計はシニアなマネージャーたちが担うことが多いのも現実です。
押さえるべきポイント
上述の通り、基本はプロジェクト中に、急なコンサルタントのスイッチが発生しても大丈夫な進め方で設計、並びに推進をすることとなります。そのため、プロジェクト中にプロジェクトマネージャーとメンバーが設定するタッチポイント(所謂、ファーム内でのレビューや報告の接点)で押さえるポイントと引き継ぎにおける押さえるべきポイントは重複します。
その押さえるべきポイントを大別すると、「クライアントとの関係性」、「イシューの濃淡」、「作業設計思想」となります。
1つ目のクライアントとの関係性とは、そのコンサルタントのみが接点を持つクライアントメンバーがいないか、という点です。基本、各クライアントメンバーとは複数接点を持つことを通じて関係悪化のリスクヘッジを行います。あるクライアントとメンバーが関係を損ねたとしても、解決への行動、又は解決への行動を取らなくてもプロジェクト自体は支障なく進めていくことが出来ます。
次にイシューの濃淡となりますが、プロジェクトの進展に伴い、初期仮説が棄却されたり、新たなイシューが設定されたりします。基本、限られたプロジェクト期間の中では、ある程度検証を進めた段階で結論が明白なイシューはその時点で検証を止めます。また、ある程度検証を進めることで発生する新たな重要なイシューがあれば、その検証を進める必要があります。このようにダイナミックに動くイシューの最新状況を担当メンバーのみが把握していると引き継ぎにおけるリスクとなりますので、そのイシューの濃淡は常に把握が必要となります。尚、引き継ぎとは関係なくプロジェクトにおけるレビュー時には必須の事項なので、この点を外す人はほぼいません。
最後の作業設計思想とは、そのコンサルタントのみしか編集できないファイル(特にエクセル)はないか、という点です。良く聞く話かもしれませんが、その人が抜けたら誰もそのエクセルを編集できなくなった・・・ということが、コンサルティングのプロジェクトにおいても、たまに見かけることがあります。
これは非常にイケてないことです。なぜイケてないかと言うと、プロジェクトマネージャーがエクセルにおいて計算間違いがないことや、設計通りにエクセルを組めて行くかの品質担保ができていないことの裏返しと言えるためです。
訓練されたプロジェクトマネージャーは、エクセルの計算の正しさもレビューしています。但し、1つ1つの関数や全てのシートを確認することはありません。エクセルのシート間の構成をレビュー、各シートにおける表構成や位置をレビュー、そして引用箇所とダブルチェック用の関数をレビューといったように、オペレーティブな作業を実施する準備工程を重点的にレビューしています。結果、忙しいプロジェクトマネージャーも一目で理解できるエクセルとなり、また引き継ぎを受ける方も短期での理解が可能となります。
最後に
「クライアントの立場としては、どのコンサルタントがサービス提供するかは本質的な問題ではありません」とは書いたものの、現実問題としてクライアントはコンサルタントがスイッチすることを嫌がります(クライアントから外してほしいと依頼される場合は別)。そのため、なるべくスイッチが起きないようにするのもプロジェクトマネージャーの力量ではあるものの、やはりコンサルタントは自身のキャリア形成に貪欲であることから、一定数のスイッチは発生してしまいます。
私自身もこのようなケースを多々経験する中、プロジェクトマネージャーの立場としては困ったなぁっとは思うものの、そのコンサルタントの意思決定を辞めさせることはしません。それは、私自身もチャンスがあれば同じ行動を取ると簡単に想像できるためです。ある意味、このようにお互い様とういことで、個人のキャリア形成を尊重する土壌がコンサルティング業界には存在しているとも言い換えることが出来るのではないでしょうか。皆さんもそのようなコンサルティング業界に興味を持たれたのであれば、チャレンジすることも良いかもしれません。