はじめに
私が知る限りにおいては戦略ファームでは、あまりFIREムーブメント(Financial Independence, Retire Early movement。経済的独立と早期退職を目標とするライフスタイルを目指す動き)が話題になることはありません。一方で総合系ファームでは"コスパ"の良い働き方(良い収入とそこそこの忙しさの両立)をするコンサルタントが一般的な姿として受け入れられつつあります。そのため、その流れでFIRE達成を目指される方も一定数存在しているとも聞きます。
なぜ、FIREムーブメントは戦略ファームではあまり話題にならないのでしょうか。それはFIREの意味合いを紐解いていくと、コンサルタントの働き方がFIREと似たような状態であるからかもしれません。
FIREは経済的独立と早期退職の2つの用語を組み合わせた造語です。そしてFIRE達成に向けた基本的な動き方は、収入を増やして支出を減らしていくことで余剰資金を創出。そして、不動産や株式といった商品への投資による余剰資金自体に働いてもらうことで、経済的独立と早期退職を目指すことと言われています。
この経済的自立と早期退職に対する欲求が強ければ強いほど、また現状の働き方の延長として経済的自立と早期退職が見えなければ、話題になるし、目指したくなるムーブメントであると言えます。
例えば、早期退職により会社組織のルールや労働という絶対的な時間の拘束から自由になるというのは、ある意味、労働時間よりも創出した成果(価値)に重きを置くコンサルタントの働き方で既に実現されているとも言えます。つまり、早期退職は仕事を辞めて何もしない状態になることのみを指すわけではありません。その目指すところは、時短勤務や週3〜4日だけ働く、働く場所も選べる、といったように自由に働き方やペースを選択できる状態にしていくこととなります。
一定の成果を出し続ける限り、コンサルタントはこの働き方を既に実現しています。もちろん、クライアントとのミーティングや社内でのレビュータイミングといったように決められてしまうものもありますが、基本はいつ、どこで、どのように働いても成果を出し続ける限りにおいては、そこまで口煩く言われることはありません。
経済的自立の側面
それでは、経済的自立の側面ではコンサルタントは既に実現していると言えるのでしょうか。結論から書くと、FIREの状態は実現しづらいが、将来のキャリアの選択肢は広がるので、次のタイミングで稼ぐチャンスがあるかも、という感じではないでしょうか。
なぜFIREの状態を実現しづらいかというと、収入と共に生活水準も上がってしまう、という基本的な構造があるからです。以前、あるコンサルタントが「(話を簡略化するために税金の話は無視していますが)200万円/月で給与をもらっているコンサルタントのあなたが不慮の事故で亡くなったとします。それで死亡保険が5,000万円入っても、私たち家族は2年しか生きられない」と言われた、というエピソードを聞いたことがあります。
大金のように見える5,000万円というお金でさえも、シニアマネージャーにとっては特別な額でもない月収200万円(年収で2,400万円)での生活水準に照らしてみると物足りないものです。一体、いくらの金額を創出すれば経済的自立を実現したと言えるのか、非常に遠い道のりと言えます。
なお、インサイダー情報を多く扱うことになるコンサルティングファームは株式の購入を禁止されているケースがほとんどです。監査法人系のコンサルティングファームだとそれ以上に独立性の担保のために厳しい縛りがあるので、お金に働いてもらう選択肢は現実的ではないと考えた方がよいでしょう。
最後に
常に働いていないとダメになってしまうような、常に泳ぎ続けないと窒息して死んでしまうマグロのようなコンサルタントは、働き方改革まっさかりな今でも多く見かけます。そして、以前はそういうコンサルタントに引っ張られる形で、そうでないコンサルタントも働いていました。
本稿では「コンサルタントの働き方がFIREと似たような状態」だから、あまり話題にならないという論調ではありますが、そもそも論としてFIREムーブメントに興味を示さないワーカホリックな人たちが多いというのも実態かもしれません。