はじめに
新型コロナウイルスの影響からか、働き方を含む生き方にも変化が見られます。住む場所も以前は都心一択であったところが郊外、あるいは思い切って三島や軽井沢といった選択肢に拡大しています。
そして、住む場所だけでなく「なぜ働くのか?」「働くことを通じて何を得たいのか?」といった点でも変化も肌感覚として中途採用での面接を通じて感じています。
以前より、QoLやUp or Stayといった、一言で言うと安定を重視する方が増えていると感じています。一昔前には社会に影響を与える大きな仕事やそれに見合った報酬、そして最近では自分らしいやりがいや成長といった点が重視されてきましたが、それから更に変化してきているのではないでしょうか。
結果、各コンサルティングファームの求人需要は旺盛なものの、世間的には厳しいと言われているコンサル業界にわざわざ安定する現職を離れて流入する転職者数は感覚的に減少してきている印象を持ちます。結果、昔よりも面接が通りやすい状況になっている状態かと思います。
この「面接が通りやすい状況」というのは、面接での選考基準を下げていることを意味するわけではありません。「面接が通りやすい状況」を作り出す上での各ファームの設計思想は異なりますし、まったく以前と変わらない採用を続けるファームも存在します。
ただし、各ファームの設計思想として最も多い対応は「役職(アナリスト→コンサルタント→マネージャー、等)」を増やす、あるいはそれぞれの役職に求める期待を一段下げるという設計思想です。端的に言うと"役職の地盤沈下"が起きている状況ですが、つまり、ある役職に求める能力水準を下げることで、以前はコンサルタントとしては不採用であったがアナリストレベルの実力を持ち、かつ実力通りアナリストとしてオファーを出したら候補者からは断られる候補者を、コンサルタントとしてオファーして採用可能にする設計思想です。
戦略コンサルタントは"コスパ"が悪い?
コンサルティングファームは各役職に求める能力水準、並びに期待役割を下げてきている一方で、私の知る限りはクライアントへの請求フィー水準を下げる、といった動きはありません。このことと、現在進行中の働き方改革のダブルパンチで、プロジェクトに責任を持つマネージャークラス以上、または最近であるとこれまでの説明の通りシニアマネージャークラス以上が過負荷な状況に構造的に陥っています。特に顕著なのは戦略ファームです。
なお、戦略ファームにカテゴリーされていないファーム(総合系、等)では、そこまで過負荷な状況には陥ってないようには見受けられます。もちろん、アサインされるプロジェクトにより状況が異なるのですが、総論では比較論としてマネージャークラス以上が疲弊していない模様です。
背景としては、以前よりERP導入やJ-SOX対応、最近だとデジタル化といった社会的要請に従い、それらのファームは大人数を必要とするプロジェクト領域へ進出してきました。
結果、大規模プロジェクトに対応できる人材数を確保するために、より上流領域にキャリアをシフトしたいというSIerを大量採用してきた歴史があります。そのため、プロジェクトにおけるマインドは「短期間でハイレベルの成果を導出」というよりは、「余裕を持ったスケジュール(一日の労働時間を含む)で、期待値を超える成果を導出」に早くから転換していた歴史が、現在の比較論としての疲弊感の少なさとしてあらわれているのではないでしょうか。
コンサル転職の観点に戻すと、このような事情から最近は「戦略コンサルは稼ぎと生活バランスの"コスパ"が悪い」という言葉を聞くようになりました。
コンサル業界はファーム間での異動(=転職)は日常の光景です。そのため、業界に長くいる人たちは、ファームを跨いでネットワークが出来ています。
このネットワークを通じて、戦略ファームのコンサルがその他ファームのコンサルに「戦略ファームに転職しない?」と誘っても、「上記の"コスパ"が悪いからパス」と言われますし、「なんで、わざわざ大変なところにいく?"コスパ"悪くない?」と、転職の引き留め文句にもなってきています。
昔は「いつかは戦略ファームで経営陣との深い関係を築き、より社会的な影響を及ぼす、意義のあるイシューを解いていきたい」といったコンサルが多かったと言うと、"レガシーコンサル"と言われるかもしれませんが、本当にそういう状況でした。
しかし、現在はサラリーマン的に、プロシージャ―に従って分解されたタスクを期限内に淡々と対応し、そして他業界と比較して良い給与をもらえることが、一つの成功モデルと捉えられてきています。
最後に
戦略ファームに所属する一個人としては非常に寂しい想いを持ちますが、この時代の流れは不可逆なものかもしれないと諦めの気持ちもあります。ただし、これからのコンサルティングの社会的機能やコンサルタントの未来のあり姿を模索する産業のトランジション期に入ったと捉えることもできます。
このトランジション期において、挑戦してみたい方はコンサルタントを目指してはいかがでしょうか。