はじめに
コンサルティング業界も変化を続けています。
以前はコンサルティングという職業自体も確立されていない中で、コンサルティング業界には他業種ではありえないようなエピソードが溢れていました。
私自身も10年以上前にコンサルティング業界へ本格的に踏み込んだ際は、「寝るまでが今日だ」というありがたい迷言と共に土日関係なく仕事をしていたり、タクシーで帰っても20分程度の距離に住んでいたにもかかわらず帰る時間がもったいないという気持ちの問題で近隣のホテルで泊まれと言われたりと、とにかく、クライアントに対する価値提供への執念に驚きました。
コンサルティング業界で聞かれる驚くべきエピソードの数々の根底には、このクライアントに対する価値提供への執念があります。この執念は、時には他業界では非常識とされるような振る舞いであっても正当化してきたようにも見受けられます。
ただ、冒頭で述べた通り、コンサルティング業界が変化を続ける中で、この執念は薄まってきていると肌感覚で感じています。また、コンサルタントという職業自体が確立される中で、業界全体の仕組みやコンサルティング業界を目指す人の質も変化してきている背景があるからかもしれません。
本日は、驚いたエピソードを中心にお伝えします。
エピソード自体から「変わった業界だな」と面白おかしくとらえるだけでなく、エピソードにおける振る舞いの根底に存在するクライアントに対する価値提供への執念に思いを巡らせつつ読んでいただければと思います。
クライアントを怒鳴りつける
「ふざけた資料作ってんじゃねー!」と、プロジェクトルーム内で怒声が響く、丸めた報告書資料で頭を叩かれる、作った資料を目の前で破られる。こんな事は、最近の現場ではあまり見かけなくなりました。
現在、多くのファームでは社内にハラスメント通報の仕組みが整備され、常駐先であったとしても働く環境に目が届くようになってきました。そのため、これからコンサルティング業界を目指す方はこんな経験をすることはないかもしれません。私は全部経験しましたが......。
私が経験したのは、更に怒声を響かせる相手がクライアントであったケースです。
クライアントとワンチームでプロジェクトをしていたのですが、クライアント担当分の資料レビュー時に当時のマネージャーが声をあげたのです。コンサルティング業界内でも、また他の業界でも社内はあったとしても社外の人に対して声をあげている場面は、あまり見かけないのではないでしょうか。
一見すれば暴挙ではありますが、マネージャーにとっては「プロジェクトに対して最終責任を負うオーナー以外は真のクライアントではない」という前提に立っての振る舞いだった、と後で聞きました。
コンサルティング現場の"あるある"ですが、無責任な発言をしたり、興味ベースでイシューと関係ない追加調査を気軽に依頼してくる方がクライアントメンバーの中にいます。
プロジェクトによってはオーナーは何千万・何億円というフィーでのコンサルティングを依頼する意思決定を行います。そのため、オーナー以外は真の意味で進退を含む責任を持たないので、クライアントではない。そう思って、マネージャーはオーナー以外をクライアントとして扱わなかったのです。
また、そのプロジェクトでは無責任な振る舞いこそありませんでしたが、資料の品質が悪ければ怒鳴るのは当たり前だ、とのことでした。
惜しまない自己投資
クライアントに対する価値提供の質を高める可能性があるのであれば、お金を惜しまずに自己投資するコンサルタントは少なくありません。
しかし、時には第三者から見るとその投資対象が少し怪しく見えたり、法外に高額なように感じられることもあります。
少し前に、「本をぱらぱらっとめくるだけで内容を理解できるようになる」という内容で、参加費は数十万円という「速読セミナー」が流行したことがありました。
私の知っているマネージャーは、このセミナーに参加していました。
それって本当に意味があるのか?と、私自身は思いましたが、クライアントに対する価値提供の質を高める可能性があるのであれば、とマネージャーは考えたようです。
未経験の分野でも勉強をすれば解けるという信念でコンサルティングをしていると、プロジェクトの度にものすごいスピードでキャッチアップし、価値を出していくことが求められます。しかし、インプットだけに時間を使えるわけではなく、同時にアウトプットの時間を確保するか、インプット速度を上げて対応する必要があります。
この問題を解決するには、速読をマスターすればよいというわけです。
セミナーどころか、インプットのためにと地方都市のマンションを購入したパートナーもいました。
彼はある地方都市でのコンサルティングを強化するために、クライアント基盤がないにもかかわらず、まずは何千万円もするマンションを購買し、地域に溶け込むことからはじめていました。
また、最近では"結果にコミットする"ダイエットに入会するコンサルタントも多く見かけます。
最後に
真面目な話以外だと、ランチに行く時にタクシーに乗って食べに行くといったコンサルタントも、いまだに見かけます。この行動がクライアントに対する価値提供への執念という文脈で、どのような意味があるのかは、ぜひ、皆さんもコンサルティング業界に転職した上で確かめてみてください。