はじめに
若い頃の提案書作成は、プロジェクトでのデリバリー経験とは異なる学びを得ることができます。
マネージャー以上の方が設計した論点に従って、WHATとHOWを中心にデリバリーするプロジェクトでは、あまり触れることのないWHYを含めて考えたり、内部でシニアの方と討議する経験を得ることができるためです。
そして何より、関わった提案が受注できた時の喜びは何事にも代えがたいものです。もちろん、提案を失注することもあります。その時は落ち込みますが、提案書作成を通じて得た経験は何事にも代えられません。
しかし、関わるならなるべく受注したいと思うのがコンサルタントの多くに共通する気持ちではないでしょうか。「提案書作成での失敗」は、色々な観点で語ることができますが、最終的に提案したものの失注したケースを失敗と捉えて、ポイントを伝えていければと思います。
2つの失敗
失注する原因は、提案依頼を受けた時の状況と提案内容の良し悪しの2つのかけ合わせでほぼ説明がつきます。
1つ目の提案を受けた時の状況とは、
① ファーム内部での提案体制に適切な人材をアサインできるかを含む提案余力と
② 依頼主の状況を指します。
① の適切な人材をアサインできるかという点では、最近このような例がありました。
最近、私たちは絶対に勝てると思っていた提案コンペに負けました。
後程、依頼主に聞いてみると「実績や知見としては貴社の方が優れていたのですが、提案資料の作り込み具合が中間報告のレベルであった」と言われました。
②の提案内容にも関わる部分ではありますが、その競合は提案依頼を受けた際に相当な人数をアサインして作り込んでいたとのことでした。
② の依頼主の状況では、構造的に競合の"当て馬"として提案に呼ばれたかの見極めが重要なポイントになります。
提案対象プロジェクトの前フェイズにおいて、他ファームが既に入っている状況で、その次を進める上での社内説明用に提案を依頼されることがあります。
また最近だとPreferred Firm(グローバルHQで、この地域では、このファームと既に決められている)が決まっている中で、依頼主自身が他の観点が欲しいから提案を依頼するといったケースも散見されます。
2つ目の提案内容の良し悪しは、皆さんとしても想像しやすいのではないでしょうか。
提案内容の良し悪しを決める構成要素は多岐にわたるのですが、基本は「なぜ、このファームへ依頼する必要があるのか?(よく、WHY わが社に依頼するのか?が分からないといった発言が提案書のレビュー時に聞かれます)」に明確に応えることができているのが"良い"提案書となります。
受注できた案件の依頼主との会食の場で良く聞くのが、「他社提案書と比較して、我々の抱えるイシューにインパクトのある確からしい仮説を提案時に既に示された」であったり、「他ファームよりも我々内部の事情を理解した、地に足の着いた実行力のあるアプローチである」などの選定理由です。
そうした理由とともに、「だから貴社を選んだ」と言っていただくのはうれしいものです。
その他の要素であると、
・過去に類似案件のプロジェクト実績があるか
・アサインする体制に当該プロジェクトの類似経験者がいるか
・予算として先方の投資対効果の範囲内にあるか
・社内で必要なタイミングまでに十分な検討が出来そうか
といった点がポイントとなります。
最後に
若い頃から提案書作成に関われるかどうかはファームの方針によります。
パートナークラスが提案をリードし、他役職はプロジェクトデリバリーに注力するファームもあれば、マネージャーレベル、最近だと常駐するコンサルタントレベルが提案のリードの中心となるファームもあります。
私自身にとっては、若い頃の提案書作成経験は不慣れであったために価値が本当に出せたかは疑問でしたが、一方でシニアになってみると経験しておいてよかったと思う経験でした。
ただし、この点は人によって考え方は異なります。コンサルタントに興味のある皆さんにおいては、提案機会に関われるかどうかという点もファーム選択の基準として加えてもよいかもしれません。