はじめに
コンサルタントにとって、クライアントへの対応は重要な業務の1つです。クライアントと信頼関係を築き、ニーズを正確に把握し、効果的な提案やフィードバックを行うことが、プロジェクトの成功につながります。しかし、クライアント対応は簡単なことではありません。
プロジェクトの状況やクライアントのタイプによって、対応の仕方を変えなければならない場合もあります。また、コンサルタント自身のコミュニケーション能力やマインドセットも、クライアント対応に影響します。
本稿では、コンサルタントのクライアント対応術について、以下の2つの観点から紹介します。
プロジェクトライフサイクルにおけるクライアント対応
・提案時
・デリバリー中
・プロジェクトクローズ
コアスキルとしてのクライアント対応術
・クライアントのタイプに応じたコミュニケーションの選択
・伸ばすべきコミュニケーションスキル
・プロフェッショナルとしてのマインドセット
これらの観点から、コンサルタントとしてクライアントとの関係をより良くするためのヒントをお伝えします。
本論
プロジェクトライフサイクルにおけるクライアント対応
コンサルタントのクライアント対応は、基本的にはプロジェクトを通じて実施するものです。営業ロールを担うパートナーなどのシニアクラスであれば、プロジェクト以外でもクライアント対応が発生しますが、本稿ではプロジェクトの提案を起点としたクライアント対応について論じます。
■ 提案時の対応
提案が採用されなければプロジェクトは始まりません。そのため、採用されるためにクライアントからの要望をすべて飲み込む。それが提案時に求められるクライアント対応...、ではありません。
よく理解しておかなければならないのは、プロジェクトはクライアントにとってもチャレンジだということです。クライアントが自分たちだけでは解決できない課題があるからこそ、コンサルタントに提案を依頼しているのです。そのため、クライアントが必ずしも常に確固たるゴールイメージや求める解をもっているわけではないことに注意が必要です。
コンサルタントに求められるのは、提案時にクライアントとの対話を通じて本当に解くべきイシューを定め、そのイシューを解決するアプローチを示すことです。そのイシューによっては、提示されたRFPに沿わなかったとしても、クライアントにとってより必要と考えられる提案をすることが、求められる対応と考えられます。
■ デリバリー中の対応
提案が成功し、デリバリーが開始すると、クライアントと日々コミュニケーションをとるようになります。その中でクライアントからさまざまな反応がありますが、最も注意すべきはクライアントに対し、受け身にならないことです。
クライアントのタイプによっても多少異なりますが、クライアントはコンサルタントの検討アプローチや態度、出してくるアウトプットを常に評価していると考えるべきです。もちろんそれらの評価が良ければ問題はありませんが、クライアントからの評価が良くない時には注意深い対応が求められます。
重要なのは、クライアントの評価がネガティブに傾ききる前に検知することです。余程のことがない限り、一度のミスでクライアントがネガティブになることはないですが、細かな不満が蓄積され、限界点を超えてからのリカバリは非常に困難です。そうしたいわゆる"炎上プロジェクト"になると評価が減点主義になり、マイクロマネジメントが始まり、不信感をベースとしたコミュニケーションになってしまうからです。
クライアントから最後通告を受ける前に、コンサルタント側がその不満を検知し、リカバリに向けたアクションを先んじて取る必要があります。
例えば日々の定例などで進捗を確認する、WSのラップアップで成果とアクションを確認する、クライアントのオーナー/リーダーと定期的な面談を持つ、といったさまざまな対処方法がありますが、常にクライアントの満足度を把握できるような、能動的なコミュニケーションをとることが重要です。
■ プロジェクトクローズ時の対応
プロジェクト最終報告会が終わり、業務完了の目途が付けばクライアント対応はひと段落、というわけではありません。多くのプロジェクトは単独で完結するものではなく、例えば市場調査から事業化検討、事業検討から業務プロセス検討、システム開発...と、事業活動に合わせ続いていくものです。コンサルティングファームによってはカバーする範囲が限られるため、すべてをフォローするわけではないですが、少なくとも自分たちがクライアントと一緒になって検討した内容が、継続的に実行され、成果を出すことを望むのがあるべき姿です。一般的には後続支援に繋がるように設計・提案することが多いでしょう。しかし、クライアント側にもさまざまな事情があり、シームレスに続けられるとは限りません。例え間が空いたとしても、定期的にクライアントとコミュニケーションをとり、時には討議や情報提供をすることでクローズ後も関係性を維持することが、次の案件に繋がる対応ではないでしょうか。
本来クローズ後の対応は主にシニアクラスが実施すべきことではありますが、たとえ自分がジュニアクラスのメンバーであっても、プロジェクトクローズ後でもクライアントとコミュニケーションが取れる間柄になっておくことは、今後に向けた重要なポイントであると考えられます。
コアスキルとしてのクライアント対応
前半はプロジェクトの状況に応じた、ある種チームとしてのクライアント対応に近い話でしたが、ここからはクライアント対応において個人として求められるコアスキルや対応について論じたいと思います。
比較的一般論に近い話ではありますが、コンサルティングの現場で求められるポイントを踏まえ、以下3点を挙げてみます。
■ クライアントのタイプに応じたコミュニケーションの選択
当然ですが、クライアントにはさまざまなタイプがあります。積極的/消極的、協力的/抵抗的、文書重視/説明重視など、タイプを分類していけば限りはありません。そこで求められるのは、クライアントのタイプを見極め、そのタイプにあったコミュニケーションを選択し、実行するスキルです。何を当たり前なことを、と思われる方もいるかもしれませんが、意外とできていない人が多いのが実情です。
よくある勘違いとして、コンサルタントは論理的であることが最も重要だ、というものがあります。翻って、微に入り細を穿ったような詳細な資料を作成し、説明を行うことがコンサルタントである、というのです。論理的であることが重要なのは当然ではありますが、論理的な(言い換えれば理詰めの)コミュニケーションをとることが必ずしも正解とは限りません。必要なのは、そうした論理に基づく検討内容をクライアントや関係者に理解してもらい、納得してもらい、必要なアクションを取ってもらうことです。そのためには、クライアントのタイプに応じてコミュニケーション方法を選択することが重要です。
コンサルタントもそれぞれ得意なコミュニケーション方法はあるでしょうが、時には論理よりも感情面を強調したり、数字よりもイメージを活用したり、事実よりもビジョンを示したり、と対面するクライアントにとって最も効果的な情報伝達方法を選択し、実行することこそが、本当の意味で「論理的」なのではないのでしょうか。
■ 伸ばすべきコミュニケーションスキル
コンサルタントのクライアント対応において、コミュニケーションスキルは必須の能力です。
コミュニケーションスキルをコンサルティングを念頭に分解すると、話す力、聞く力、書く力、読む力などになるでしょう。それぞれのスキルについて本が1冊ずつ書けるくらいのテーマではありますが、今回は敢えて「聞く力」について補足したいと思います。
もともと聞く力はコンサルのコミュニケーションスキルの中でも重要度が高いと言われることが多いですが、近年はこれまで以上にその重要性・難易度が上がってきていると感じています。その理由としては、リモート化による聞く機会の減少です。
リモート化はコンサルティング業界において当初想定していた以上に浸透しています。そのメリットはあるものの、やはりデメリットも存在します。その1つが先ほど挙げた聞く機会の減少です。
もちろん、リモート環境においても会議の場でクライアントから話を聞くことは可能です。但し、それは事前に定められた時間であり、また同時に多数の人が会話できず、かつカメラがオフであれば相手の表情や身振りなどの、非言語の情報が確認できないという、非常に限定的な環境なのです。
リモート環境下では、限られた時間と情報量の中で、クライアントの課題解決に繋がる、適切な質問をしなければなりません。現在はまた対面回帰の傾向も見えますが、おそらくハイブリッド環境は続くでしょう。これからのコンサルタントはリモートを前提としながら、聞く力を鍛えていく必要があります。
■ プロフェッショナルとしてのマインドセット
マインドセットについてもさまざまな考え方がありますが、共通して重要なのはプロフェッショナルとしてのマインドセットではないでしょうか。高いフィーに対し、クライアントから期待された結果を出すことにコミットすること。すなわち、成果への拘りがスタートラインにあると考えられます。
先述した通り、コンサルティングは原則的にはクライアントの支援であり、コンサルタントの提言によってクライアントが実行した結果に対し、コンサルティング会社がコミットすることはほぼありません(成果報酬型のモデルも出現しつつありますが、まだごくわずかです)。
クライアントもそれを理解していますので、対面するコンサルタントが本当に自社にとっての価値を考えた提言をしてくれているのか、単に上っ面の提言をしているのかはすぐに伝わってしまいます。コミュニケーションスキルを上げたとしても、ベースのマインドセットが伴っていないと、クライアントとの信頼関係を築けることはないでしょう。
最後に
コンサルタントのクライアント対応について、プロジェクトライフサイクルとコアスキルの観点から紹介しました。
コンサルティングサービスはクライアントとの対話を通じて成果を目指すものです。どちらか一方通行のコミュニケーションではうまくいきません。コンサルタントは、状況やクライアントのタイプに応じて柔軟にコミュニケーション方法(やコンテンツ)を選択して使い分け、双方向のコミュニケーションをリードしていく必要があります。
クライアント対応術はプロジェクトを「うまくやり過ごす」ための表面的なTipsではなく、クライアントの課題を解決するという共通ゴールを目指すうえでの、コアとなる考え方だと捉えるべきではないでしょうか。