はじめに
デジタル時代とは、一般的にはコンピュータや技術が進化した20世紀後半からの時代を指しますが、近年インターネットやスマートフォン、クラウド、人工知能などの技術が社会やビジネスにより大きな影響を与えるようになり、デジタル時代の"実感"を得る機会は高まっています。
2000年代前半において、デジタル化はシステム化とほぼ同義であり、既存のビジネスをITシステムを用いて実行することで、高速化・高度化・省コスト化することが中心でした。しかし、昨今のデジタル化にはそうしたシステム化だけではなく、ビジネスモデルや組織、プロセス、システムさえも変革するデジタルトランスフォーメーション(DX)が求められています。
2010年代頃から続くコンサルティングビジネスの拡大も、この世界的なDXへの注力によるものが大きいと筆者は考えています。かつて主流であったシステム化はユーザーである企業とシステム化を実際に担うSierの2者がいれば大半の課題はカバーできていましたが、DXにおいてはビジネス・組織・プロセスなど影響する範囲が多岐にわたります。そうした広範な取組みを支援する役割として、コンサルティング会社が果たす役割が拡大しているのです。
そのため、コンサルタントもデジタル時代に合わせて自分のスキルセットを更新する必要があります。デジタル時代に求められるコンサルタントのスキルセットとは何でしょうか?
本論
まず、従来のスキルセットとの差分を明確化にすることから始めましょう。コンサルタントとして取り組む以上、DXにおいても最終的なゴールはクライアントの課題解決であることに変わりはありません。コンサルティングの課題解決のステップにおいて、求められるスキルセットの差分を見ていけばよいはずです。
◆ 課題分析・特定
クライアントがDXに取り組む起点は、新たな"Disruptive"(破壊的)な技術により、自社の事業が陳腐化するといったリスクから発生することが多いでしょう。そういった意味では、課題分析・特定フェーズにおいては、デジタルスキルそのものというよりも、デジタル技術による自社事業への影響を分析し、目指すべき姿を導くビジネスアナリティクススキルの方が重要かもしれません。
とはいえ、そうした新たな"Disruptive"な技術が自社のビジネスに及ぼす影響、可能性を分析するための基盤となる知識が求められます。もちろん単に「技術の内容を知っている」だけでなく、そうした技術がクライアントの事業に対してどのような影響を/どの範囲まで/いつ頃に及ぼすか等、技術とビジネス視点での知識に基づいて分析し、方向性を導き出す力が求められます。
◆ 課題解決方法の評価・選定
次のステップでは、特定した課題(あるいは目指すべき方向性)に対し、クライアントがどのような解決方法をとるべきかを評価・選定します。
ここがDXにおける一番の肝であり、コンサルタントとしての価値が求められる領域です。DXにおける課題解決の手段はむしろ豊富にあるといってもよいかと思いますが、それが果たしてクライアントにとってベストな手段であるかどうかを見極めることが重要なのです。
デジタルによって実現可能になる成果と、それを実現するために超えなければならないハードルを天秤にかけながら、将来のクライアントの競争力に繋がる方法を選ぶための評価軸を設定していきます。
このステップでは課題特定よりも、実現に向けたより深い知識が必要となります。まずその技術自体の導入難易度(コスト、期間、必要スキル)であったり、その技術と接続する既存システムとの連携であったり、それを利用することで変わるオペレーションや組織であったりと、多岐にわたる知識を活用しながら、クライアントが取り組むべき手段であるかを評価できることが求められます。
◆ 課題解決方法の実行
実行ステップにおいては、その実行の段階や対象領域によっていくつか求められるスキルセットが分岐すると考えられます。
例えばまだ十分に実証されてないデジタル技術を導入することを考えた場合、Proof Of Concept(PoC)を実施し、実現可能なものかどうかを判断するという、小規模のPDCAを回していくためのスキルが必要になります。
フロント向けの新しいサービス開発を行う場合には、アジャイル開発手法を用いて、小さな開発サイクルを回しながら柔軟な開発を行っていったり、大規模なシステム開発を行う場合にはウォーターフォール開発手法による計画に沿った開発を行うこともあるかもしれません。
コンサルタントとしては、個別の技術検証・システム開発手法に関するスキルセットももちろん重要ですが、それらに基づいて設定した目的に近づいているかを常に認識し、クライアントと共に軌道修正をしていくためのProject Management Office(PMO)のスキルセットも同程度に重要だと考えます。
このステップでは比較的求められるスキルセットが明確であり、またそのスキルレベルが各種団体によって定義されている(例:プロジェクト管理におけるPMBOK等)こともあります。
◆ ネクストステップの設定
冒頭に述べたように、DXは広範囲にわたるテーマであり、1つのプロジェクトで完了することのほうが少ないでしょう。
例えばデジタルを用いた新たなサービスを構想することにより、フロントやバックのオペレーションや組織体制、システムも変わるでしょうし、場合によっては評価制度や勤務体系まで波及するかもしれません。
コンサルタントとしてはそれらの影響範囲を見極めながら、クライアントが目指すゴールへのロードマップと、具体的なアクションを示していくことが求められます。但し、これはデジタル時代のスキルセットというよりも、従来から求められていることでしょう。
終わりに
近年のクライアント課題の大半は、その影響度の違いはあれ、何らかの形でデジタルに関連するものと言ってよいのではないでしょうか。実際、コンサルティング各社が自社のデジタル解決機能を強化し、SIerからも大量の採用を行っているのがその証左だと思います。IT系や総合系各社はコンサルだけでなくシステム開発も自社で行うようになっており、デジタルの知識なしにコンサルティングを続けるのは困難な時代になりつつあるのかもしれません。いまや戦略ファームにさえデジタル部門が設立されているのです。
とはいえ、クライアントはコンサルタントにシステム開発のみを求めているわけではありません。DXのパートナーにコンサルタントを選ぶのは、そのデジタル技術が自社の事業にとって何を意味し、それを踏まえどのように変わるべきなのか、技術とビジネスを合わせた提言を求めているからだと考えられます。コンサルタントとして本当に求められるのは、デジタルと、ビジネスのトランスフォーメーションの両輪を組み合わせられる知識・スキルセットではないでしょうか。