はじめに
コンサルティング業界は、企業の成長や決断支援を通じて社会に大きな影響を与える職業です。時代の変化に合わせ、その働き方やビジネスモデルも進化してきました。グローバル化やデジタル化、そしてパンデミックなどの全世界的な消費ショックは、業界のワークスタイルに大きな変化をもたらしています。
本記事では、2024年のトレンドや変化について分析し、その意義や展望を考察します。
リモートワークとハイブリッドワークの普及
COVID-19のパンデミックを契機に、コンサルティング業界はリモートワークの普及が大きく進んできました。これまでは、自社オフィスで勤務するのはもちろんのこと、クライアント先では対面で討議し、必要に応じてクライアントオフィスに常駐することもよくありました。しかし、COVID-19により、その働き方がガラッと変わりました。
リモートワークが前提となり、クライアント先を訪問しなくても、オンライン会議ツールやデジタルコラボレーションツールを通じてプロジェクトを進めることになりました。
もともと働く場所が相対的に自由であったコンサルティング業界でしたが、クライアントワークに限っては必ず対面で行うということがある種の不文律でした。しかし、リモートワークを経験することで(そして必要な環境を整備することで)、コンサルティングは必ずしも対面でなくてもよい、ということにクライアントもコンサルティング会社も気が付いたのです。
最近は対面での打合せやクライアント先への常駐など、COVID-19前に回帰するような動きもありますが、一方でリモートワークを組み合わせたハイブリッドワークは既にその立ち位置を確立しており、今後もなくなることはないのではないでしょうか。
ハイブリッドワークのおかげで、働く場所や時間の制約は更になくなりつつあります。もちろんコミュニケーションの希薄化など、新たに生まれた課題はありますが、全体としてはポジティブな変化であると個人的には受け止めています。
デジタルスキルの重要性の増加
テクノロジーの進化と共に、コンサルタントに求められるスキルも大きく変化しています。特にデータ分析やAI、クラウドコンピューティングなどのデジタル技術は、企業を支援するために必須のスキルになっています。
一方で、この流れにも2つあると考えられます。1つは、デジタル技術を身に着け、実際にシステムやアプリケーションといった形でデリバリーできる人材を強化すること。もう1つは、デリバリーを理解したうえで、それらを戦略や計画として落とし込み、実行に繋げる人材を強化すること。
当然ながら両方できることが望ましいですが、特に前者にフォーカスしたファームに入ると、比較的SIerに近いような、ITデリバリーを中心とした働き方になります。近年、コンサルティングファームの多くは、企業規模拡大に応じてこうしたITデリバリーを伸ばしてきました。DXやAIという旗印のもと、今後コンサルティングファームによるITデリバリーは増えこそすれ、減ることは考えにくいでしょう。
デジタルスキルの重要性も当然下がることはないですが、自身がやりたいこととのマッチングを考慮しながらスキルを伸ばし、かつファームを選択しないと、大きなトレンドに飲み込まれることは容易に考えられます。
ダイバーシティとインクルージョンの推進
働き方の変化の中で、ダイバーシティとインクルージョンの重要性はコンサルティング業界においても強調されています。これは、異なるバックグラウンドを持つ人々が様々な視点を提供することで、全体としての創造性を高めるという効果が期待されているためです。
業界では、性別や国籍、文化的背景の外にも、ワークライフバランスに対する意識や、働き方の選択肢も広がっています。たとえば、フルタイムの求人に限らず、テンポラリーの労働形態や副業を許可するモデルも普及しています。
実際、筆者の属するファームにおいても多様性は高まっており、それに対するコストとベネフィットの両面を感じています。コストの面で言うと、当然ながら同質の集団と異なり、多様性のある集団においては価値観のすり合わせや思考プロセスのすり合わせにかかるコストが高くなります。
一方でベネフィットとしては、逆にそうした多様性について考慮することで、これまでと異なるアイディアや評価軸が出てくるということです。これは自社組織に関するものというよりも、クライアントワークにおいて有意なことです。同質のコンサルタントが出す発想や思考プロセスだけでは、振れ幅に限界が出てくるのは当然のことでしょう。
サステナビリティへの対応
現代の社会問題、特に環境や社会的責任に対する意識の高まりに伴い、コンサルティング業界もサステナビリティへ配慮した働き方へと変化しています。
カーボンニュートラルの取り組みを含む、環境負荷を減らす働き方が含まれます。例えば、移動を最小限に抑えるためのリモートコンサルティングや、紙資料の使用削減を推進するデジタルプラットフォームの採用が挙げられます。
これらはコンサルティング会社自体が企業市民として社会的責任を果たす以上、実行してしかるべき内容ですが、一方でうがった見方をすると、(世の中の事業会社と同様)いくつかの打算的な側面もあると思われます。
一つは、クライアント企業の支援の採択基準に各種サステナビリティへの対応が入りつつあること。入札条件として整備する必要があります。また、特に大きいのは、そうしたサステナビリティへの対応自体をクライアントに提案する目的のためです。クライアントに提案するにあたり、自社が何もできていない状況ではバツが悪いでしょう。さらには、リクルーティング目的の側面もあります。自社がきちんと社会的責任を果たす、継続性を意識した企業であることをアピールするのは、次世代の働き手にとってもよいメッセージです。
目的はどうあれ、実行している内容自体が適切であれば社会にとってもコンサルティング会社にとってもWin-Winの関係にあると言えるでしょう。
働き手のウェルビーイングの重視
多忙でストレスの多い仕事とされてきたコンサルティング業界において、従業員のウェルビーイング(心身の健康)がますます重要視されています。長時間労働や頻繁な出張といった従来の働き方に対する見直しが進む中、メンタルヘルス支援や柔軟な勤務時間の導入が広がっています。
多くの企業が、リフレッシュ休暇の導入や福利厚生プログラムの充実を図ることで、従業員がより健康的に、持続可能に働ける環境を整えています。これにより、働き手のパフォーマンス向上や離職率の低下といった成果も期待されています。
ただし、この流れは逆に若手の成長機会を奪っているのではないかという意見もあります。クライアントの期待に応え、サービスフィーに見合った以上の価値を出すためには、時に時間を使ってでも自身の成長に繋がる取組みをしなければならないはずなのに、その機会が与えられないという声を若手から聞くこともあります。AIによる高度かつ効率的な代替機能が登場しつつある中で、ウェルビーイングと自らのプロフェッショナルとしての価値をどう考えるべきか、そして会社はどうそれを提供するかについては、今後も継続的な検討テーマになるのではないでしょうか。
終わりに
コンサルティング業界の働き方は、テクノロジーの進化や社会的要請に応じて大きく変化しています。リモートワークやデジタルスキルの重要性、ダイバーシティの推進、サステナビリティへの対応など、多様な要因が業界を動かしています。こうした変化は、コンサルティング企業がクライアントのニーズに応える能力を高めるだけでなく、業界自体の魅力を高める結果にもつながっています。
これからも、働き方の変化に柔軟に対応し、先進的な取り組みを続けることが、コンサルティング業界がさらなる価値を提供し続ける鍵となるでしょう。そして、それは業界全体の成長と、社会全体への貢献を促進する力になるに違いありません。