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CFOの仕事術

困難なセカンドチャレンジを選択したPEファンド出身CFOの価値観

大手外資系金融・PEファンドのキャリアを経て「オーナーシップをもって事業を伸ばすチャレンジしたい」と考え、スタートアップ業界に転身した藪内氏と坂本氏。スタートアップではそれぞれ強みをどのように活かして働き、エグジットを経験後はどのようにキャリアを選択したのか。二人の現在のキャリア、仕事を通して成し遂げたいことについても伺った。

【後編】キャリア選択の軸は、そこに自分にしか出せない「社会へのインパクト」があるかどうか

<CFOとしての仕事のしかたについて>

【中川】お二人がPaidy、LITALICOでCFOとしてどのように働いていたか伺えますか。

【藪内】私は、エグジットまでの3年は、IPO準備も含めるとバランスシートマネジメントに7〜8割の時間を使っていました。Paidyは決済の企業ですので、事業成長を実現するのにそれに応じたバランスシートが必要で、それをエクイティ、デット等を組み合わせながらどう作っていくかが、私のミッションの大きな一つでした。私の入社前は、全部エクイティで資金調達して必要なキャッシュを賄っていましたが、これだと資本コストも高いですし、スケールに限界が出ます。入社後も毎年1回は100億円規模のエクイティ調達をしてきましたが、デットも、最終的に数百億円規模まで組成しました。スタートアップファイナンスも最近は大型デット調達が増えてきていますが、当時は前例がないことばかりだったので、どうこじ開けるかに相当時間を割いていました。3年間の間は常に投資家や銀行の方と協議や交渉していた感覚でした(笑)。

【坂本】日本の成長企業のなかで、一番大きな金額のBSマネジメントをなさったんじゃないですか。

【藪内】そうですね。TimeeやUPSIDERなど、大規模のデット調達を行う企業が直近出てきているのは日本のスタートアップ全体にとって非常に素晴らしいことだと思いますし、今は総じてオプションの幅も非常に大きくなっていると思います。

【中川】どんなチームでファイナンスを回していたんですか?

【藪内】主に投資銀行出身者を中心に少人数のチームを作っていきました。ファイナンス業務は、少数精鋭であることが極めて重要だと思っています。常に全社視点でキャッシュニーズや投資プライオリティ等を考えて動く必要があり、業務が忙しいからといって人を増やしてもコミュニケーションコストばかりが増えて、逆効果になってしまう。

【坂本】同感です。ファイナンスは、人が増えるとむしろマイナスになることもあるタイプの仕事で、1人の優秀な人が5人、10人分の力を出せるタイプの仕事だと思うので、もうめちゃくちゃクオリティが大事だと思いますね。

【中川】順調に成長してメガベンチャーとして注目されていたPaidyが、2021年9月にアメリカのPayPalにM&Aされました。経緯や率直な感想をお伺いできますか。

【藪内】詳細は申し上げにくいですが、報道でもある通り、IPOを基本線としつつ、デュアル・トラックのプロセスを走らせた結果、最終的にM&Aを選択する形となりました。
今振り返っても会社としては本当に良い選択だったと思ってますし、最終的には、経営陣がどうしたいかを投資家の方々にも尊重していただいた意思決定ではあります。事業成長基盤という観点でも、バランスシートを活用する決済ビジネスは、エクイティの資金調達環境はデットの拡張性にも影響を与える部分があるので、グローバル大企業の傘下でバランスシートをレバレッジできるという点も大変魅力的でした。

【坂本】ドラマみたいですよね。

【藪内】そうですね。PayPalにとっても単純なBNPLサービスの横展開というのでなく、日本市場で勝ち切るための買収という位置づけで、Paidyのマネジメントがどうしたいかが最大限尊重されるべきという思想が合意できたことが大きいと思います。買収して徹底的にガバナンスを効かせてマネジメントするのではなく、自治権を保ちながら、「スタンドアローンの会社としての成長をサポートする」というスタンスを強調してくれたのが非常に良かったと思います。

【中川】株式はPayPalが持っているけれど、意思決定はPaidyのマネジメントが尊重される座組みが担保されたということですかね。

【藪内】その通りですね。M&A後も退職者もほぼ出ていなかったり、非常に良く運営されていた印象です。

【坂本】本当に劇的で、スタートアップのCFOでもなかなか経験できない案件ですし、藪内さんがBSマネジメントというものを切り拓いた仕事だと思うので、前例がない中で進められたのは、今やっている人とはまた違う価値がある。本物のファーストペンギン(リスクを恐れず初めてのことに挑戦するベンチャー精神の持ち主)だと思います。

【中川】坂本さんのLITALICOでのお話もぜひお伺いできればと思います。自身の役割と時間の割合をお伺いできますか。

【坂本】CFOがどう働くかは、ビジネスモデルやシチュエーションによって全然違うと思っています。僕はBSマネジメントの比率が高かったのは資金調達やIPOの時くらいで、基本的には1割未満でした。これは、BSではなく、PLづくり、具体的には企画や仕組み作り、マーケティングで新手法を切り開いていくことなどのほうが成長のボトルネックだったためです。ビジネスサイドでマーケティング部長や新規事業作りなども担うこともあり、半年ごとに業務が様変わりしていました。
今は、2000~3000人の社員がいる会社ですが、労働集約型のビジネスとインターネットビジネスの両方の事業を持っていたので、人的な課題も多く、シチュエーションは藪内さんとはある意味対照的でした。「経験はないけど、オーナーシップを持って頑張ってやる」という類のミッションが多く、「世の中で誰もやったことないから条件は同じだよね、まずやってみよう」というマインドセットで向き合っていました。

<エグジット後のキャリアについて>

【中川】藪内さんは再度スタートアップのCFOとして転職され、坂本さんは起業されています。藪内さんがスタートアップにもう一度行こうと思った理由を教えていただけますか。

【藪内】理由は2つあります。1つは、Paidyでのチャレンジで蓄積した経験を次なるチャレンジに活かしたいという気持ちがすごく出てきたから。特に自分自身の成長に重きを置いてPaidyへの参画を決めましたが、社長は、常に「いかに日本のスタートアップエコノミーに還元していくか」という発想が強かったんです。スタートアップエコノミーをいかに拡大させるかという意味では非常に貴重な経験をした中で、社会的なインパクトも含めて貢献できるフィールドを探しました。
2つめは、CFOとして再現性を持ってスタートアップをスケールさせることへの挑戦です。私はいわゆる「雇われCFO」でもあり、創業者のようなゼロイチが得意なタイプではない。ただ、プロフェッショナルCFOは、投資家と経営者の掛け算という側面があると思っています。
「この会社は勝てるのか、どこまでスケールできるのか」を見極める投資家としての目利きは非常に重要で、かつ、それだけでなく入社後に一人の経営者として実際にそれを実現する経営力も同時に問われます。PE投資では投資案件全てで成功させることが期待値にある一方で、スタートアップ投資の世界はそうではありません。これまで投資家及び経営者の両方のキャリアを歩んできた自分にとって、スタートアップという領域において再現性高く成功させることは、個人的に1つのテーマとして考えています。

【中川】素晴らしい利他の精神ですね。

【藪内】いえいえ。ただ、連続での成功事例も限定的だと思いますし、そういった意味でも、自分なりの経験や知見を言語化して標準化していければ、日本のスタートアップ全体にとって貢献できるかなと思っています。ちょっとおこがましい話ですけど、そんな気概でセカンドチャレンジとしてのCFOをやっていますね。

【中川】では坂本さんがLITALICOを退職して、起業を選択した理由についても教えてください。

【坂本】一度CFOとしてエグジットさせると、私や藪内さんに限らず、個人の成長よりは「社会にどうインパクトを出すか」という発想になっていく気がしているんです。私の場合は、リモートワーク環境整備に特化した福利厚生サービス、というニッチな領域で最初の事業をはじめましたが、福利厚生産業を「自分ならば変革できるし、やるべきだ」という想いで創業しました。
自分という人材を鳥の目で見た時に、社会の中でどこに配置したらより大きなインパクトを出せるかという発想でネクストキャリアを考えました。起業じゃなくてもよかったんですが、やっぱり起業では全くゼロから組織文化をつくり、常に高速に意思決定できる。インパクトを最大化する手法として選んだんですよね。

【中川】起業ありきではなかったんですね。

【坂本】大企業に行くのもアリだと思っていました。トラディショナルな金融の世界も経験しつつ、事業側もCFO側もやったことがある人材は少ないですし、海外で働いたこともありますし。
自分の経験は、日本の大企業の変革には割と貢献できるかも、とか色々考えはしましたね。

起業直後はすごく大変ですし、サラリーマンとしても楽しくやれるタイプなので、実は起業したいという気持ちは強くなかったです。起業すると雑務も含めてあらゆることをやらないといけない。ただ、ゼロから新しいカルチャーを作って会社を育てていくには、自分が創業者としてゼロから始めないとできないミッションだと思い、決断しました。

【中川】起業に、投資銀行やPE、スタートアップCFOの経験は活きていますか。

【坂本】全部活きていると思います。投資銀行は、仕事への倫理観、スピード感、プロフェッショナリズムなど、言い換えれば「規律」がありますよね。基本的なビジネスパーソンとしての地力を身につけられると思います。
PEで活きているのは、優れた経営や投資家の目線を真の意味で持てたこと。スタートアップの経営者は一番のマジョリティ投資家でもあるので、PEでの経験を通じて、起業にも活きる考え方や物の見方、判断力や意思決定は磨かれます。

【中川】藪内さんは今は2回目のCFOですが、数ある企業の中で、enechainを選んだ理由は?

【藪内】業界軸で言うと元々のバックグラウンドもありヘルスケア業界を1つの選択肢として考えましたが、あまりそれに縛られすぎずにどれほど大きな社会インパクトに繋がる事業か、を考えました。
enechainは、事業としてのTAMの大きさやその拡張余地に加えて、エネルギー業界はまだまだペインだらけの業界で、「市場を創る」というペインのど真ん中に挑戦している面白い会社だと思いました。そこに日本の電力自由化後の過渡期における大きな社会的意義も感じたのが決め手ですね。そもそも資本主義において「まだ市場がない」こと自体が稀有ですし、それがエネルギーという日本のコアなアセットでもあります。あとは経営チーム&投資家のクオリティと目線の高さ。これが無いと如何に良いビジネスモデルでもスケールは難しくなります。
あとは、PaidyはシリーズCの直前ぐらいのタイミングで参画したので、よりアーリーフェーズの方が、新しいチャレンジにもなると思っていて、会社としてのステージも意識していました。

【中川】1回目の経験を活かして仕事の進め方で変わったことなどはありますか。

【藪内】時間の使い方はずいぶん変わりました。企業価値向上に向けて会社全体として取り組まないといけないこと、かつ個としてのレバーが最大限効かせられるところに、時間を割くという思想です。入社当初はデット調達含む"ファイナンス業務"に時間を割きましたが、この上半期はファイナンスにはほぼ使っていません。この上半期は組織や人事周り、及びそれに関連してミッションと直近の仕事の接続等に時間を使ってきましたが、次の半年は違ってくると思います。自分の個としてのレバレッジを組織に対してどう最大限効かせるかを意識しながら、「今、何が大事か」を俯瞰して見るようにしています。
カーライルで御一緒した投資先やPaidyでの経験から次に何が起こるかを予測しながら、避けられるリスクやトラブルは回避して同じ轍は踏まないように心がけています。

カーライル時代から俯瞰して振り返ると、PEは思想として「確実性が高い、ほぼ100%投資で成功しなければいけない」という世界観の中でやっていくので、「ある程度見えている世界を確実にエクゼキューションし、100%成功させる」という価値観でしたが、スタートアップは違います。意思決定するにしても、過去の実績がないので定量評価が難しかったりもします。それでも進めていくという胆力や時間軸に対する意識も、1社目の時とは全然違う感覚があります。
1つのアンラーニングが前職でできていて、それがenechainでの経営にもとても活きていると思いますね。

【中川】それぞれの仕事の経験を通して、自分がやりたかった挑戦や、社会への価値貢献など、目指す自分の理想に近づけていると思いますか。

【藪内】CFOという観点で言うと、やはり常に代替オプションを懐に持っておくというか、スタートアップなので思ったとおり行かないこともよくある中で、持つべき選択肢もファイナンスの世界だけでなく経営全体で幅広く考えられるようになったと思います。新たな視野でenechainを飛躍させ、再現性を創れるCFOとして価値貢献できるよう、引き続き挑戦を続けたいと思います。

(聞き手:キャリアインキュベーション・中川英高)

プロフィール

写真:藪内 悠貴 氏

藪内 悠貴 氏
株式会社enechain 取締役CFO

東京大学薬学部卒、東京大学工学修士修了 (技術経営戦略学専攻) 。JPモルガン証券株式会社で多様な業界におけるM&Aや資金調達のアドバイザリーに従事後、カーライル・グループ (バイアウト) にて新規投資先候補の投資評価・実行、投資先企業の企業価値向上施策から上場含むエグジットまで関与。その後、株式会社Paidy(現PayPalグループ)に2018年に入社後、取締役CFOとしてデット・エクイティ含む数百億円規模のバランスシートの構築などを主導し、2021年にPayPalグループへの参画を実現(買収金額:3,000億円)。2022年8月にenechainに参画。

写真:坂本 祥二 氏

坂本 祥二 氏
株式会社HQ 代表取締役

京都大学総合人間学部卒業後、現三菱UFJモルガン・スタンレー証券株式会社に入社し、東京支社及びニューヨーク本社でM&Aアドバイザリー及び資金調達業務に従事。その後、カーライル・グループにてバイアウト投資業務を担当。2015年3月に株式会社LITALICOに入社、同年10月に取締役に就任。CFOとして2016年にマザーズ上場、2017年に東証一部市場変更を担当したほか、新規事業の立ち上げ・拡大等をリードし、2017年より株式会社LITALICOライフ代表取締役を兼任した。
2021年3月に株式会社HQを創業。会社の福利厚生へのサポートとして、リモートワーク環境整備プラットフォーム「リモートHQ」を開発・提供している。

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