【前編】経営メンバーとして、数字と成果に徹底的にこだわる。
共通項は「チーム作り」と「実行力」。
<キャリアの変遷>
【中川】まずは金坂さんのキャリアについてお伺いしたいと思います。なぜ新卒でゴールドマンサックスに入社されたのか、教えていただけますか。
【株式会社マネーフォワード 金坂直哉、以下 金坂】私が就活をしていた2005年当時、ライブドアのニュースや「会社は誰のものか」といった議論が結構盛り上がっていました。当時、僕の中では経営と株主を同一化していくファンドスキームとしてプライベートエクイティというモデルは面白いなと思っていたので、PEの業界に行きたかったんですよ。
プライベートエクイティファンドは、当時は新卒募集していなかったので、まずは投資銀行部門から入ろうと思い、外資系を受けている中でゴールドマンサックス(以下、GS)からオファーをもらえたので今のIBD(投資銀行部門)に入りました。幸い、GS内にPEチームがあり、新卒の中から1人異動枠があったので手を挙げて、入社した瞬間に社内異動して3年間所属しました。
4年目にIBDに戻ってM&Aアドバイザリー業務に携わり、計7年半ほどGSで働きました。
【中川】そこからマネーフォワードに入社された経緯を伺えますか?
【金坂】GS時代に1年間サンフランシスコに赴任した時の経験が大きいです。
当時急成長していたUberなどスタートアップ関連の仕事に関わっていたんですが、西海岸では、スタートアップで強烈に優秀な人が、大きなキャピタルを集めて勝負するのが当たり前でした。将来を見据えたチャレンジの有り様がとても印象に残っています。
自分がアメリカで通用する実力がないのもわかっていましたが、そういうチャレンジをいつか日本のスタートアップでやりたいとその頃から思い始めていました。
とはいえ、GSの仕事も楽しかったので帰国してGSで1年ぐらい働いていたんですが、マネーフォワードで働き始めた僕の古い友人に声をかけられて、社長の辻と会ったんです。これが転職のきっかけです。そもそも転職する気もなかったので、マネーフォワード以外は1社も話を聞いていません。
【中川】当時の相場観から考えてもかなり年収は下げられたのかなと想像していますが、何分の1ぐらいになりましたか。
【金坂】4分の1ぐらいですかね。成功して上場なりして、キャピタルゲインで取り返すことしか考えていなかったので、年収+SO(ストックオプション)で入社しました。
【中川】続いて、渡邊さんにも伺います。新卒でみずほ銀行に入社されたんですよね。
【株式会社GENDA 渡邊太樹、以下 渡邊】両祖父が銀行員、父は日本興業銀行から米系バイサイドというキャリアであり、なんとなくそういったキャリアを意識していました。
大学でコーポレートファイナンスを学んで興味を持ったのがきっかけで、新卒DAY1から大手企業にコーポレートファイナンスのアドバイスをしてみたいと生意気に思っていました。当時、大企業取引に特化していたみずほコーポレート銀行では、それを叶えるGCFコースという採用枠があり、2011年に入行しました。
実際に1年目で国内大手重工業のメインバンク副担当となり、銀行リレーションに基づいて先方の財務や経営企画のキーマンの懐に飛び込んでソリューション提案をできたまではよかったのですが、大学で教科書をかじった知識だけでは力不足を痛感し、何かの専門性を付けたいと思いました。経験したプロダクトの中でM&A業務の熱量に興味を持ち、M&Aで手に職を付けてみたいと思ったのをきっかけに、GSのIBDのアドバイザリーグループに転職致しました。ちょうど金坂さんがGSを辞められたぐらいですね。
【金坂】そうですね。渡邊さんとは一緒に働いていないんですが、辞めた後にGSの仲がいいメンバーとの飲み会で、"めちゃくちゃいけてる若手の渡邊さん"と初めてお会いした気がします。その後、僕がGS時代にお世話になっていた弁護士の方と奇しくも結婚されて(笑)。ご縁ですよね。
【渡邊】それから仲良くさせていただいて、特にこの1カ月くらいは週1回ペースでプライベートや仕事でご一緒できて、光栄です(笑)。GSでは、6年間M&Aのアドバイザリー業務をやっていました。ヘルスケアとFIGがメインだったのですが、ジュニア時代は案件があるところにアサインされるというスタイルで、そのなかで某遊園地のIPO案件を担当したんです。最終的にはM&Aでの売却となりましたが、自社株式を保有しながら労働をする人々の資産形成を目の当たりにして衝撃を受けました。
その後、M&A及びファイナンシング様々な案件を経験しましたが、特にクライアントのCFO向けに作ったアウトプットが実際の現場ではあまり有効活用されている実感がなく、次第に自分でやってみたい思いが芽生えていました。
【中川】実際にGSからの転職活動を始めたのは何かきっかけがあったんですか?
【渡邊】投資銀行の人は大体、常に転職の機会も考えながら走っていると思うのですが、前述の通り、CFOというキャリアが頭の片隅にありました。VPになってからは、タイトルの追い風もあったのか、CFOキャリアに関して入ってくる情報が変わったなという感覚がありました。
そんな頃にGENDA社長で元GSの申、GENDA会長の片岡と出会い、これは面白い、と思いました。金坂さんにも相談させて頂いたのですが、まさに金坂さんがGENDAに投資されるタイミングで、「完全なポジショントークだけど、絶対にGENDAがいいと思うよ(笑)」と推していただきました。
その他、PEやヘッジファンド等のバイサイド、他のCFOポジションなどいろいろ拝見させて頂いたのですが、M&Aでの成長スタイルというGENDAが自分のバリューを発揮できると感じました。GENDAはM&A毎にファイナンスが毎回必要ですが、安定したキャッシュフローを担保にデットファイナンスで押せる業態だと思い、投資銀行だけでなく商業銀行でのキャリアが活かせて面白そうだと思ったんですよね。
<現在の業務内容や時間の使い方について>
【中川】次に、今の業務のマインドシェアや時間の使い方を伺えますか?
【金坂】CFOの業務とHIRAC FUNDというベンチャーキャピタル事業を管掌しています。
CFOの業務は、全社の経営計画、予算策定、予実管理、IR、財務、銀行対応、決算対応、M&Aなど多岐に渡ります。私の場合は、既にそれぞれのチームをしっかり作らせてもらったので、自分で手を動かすというよりは、チームと連携していろんなプロジェクトを進めています。HIRAC FUNDの方は、この1年は資金調達活動と、新規の投資活動、投資先の支援活動も並行して進めています。
【中川】非常に幅広い内容ですが、どのようなマインドシェアで仕事をされていますか。
【金坂】今、チームに25人ほどいるので、チームビルディングに一番マインドシェアがあるかもしれないですね。僕1人でできることは本当に限られちゃうので、良いチームを作って、彼らがいい方向にいけるようにサポートする。大事なところは一緒に考えて決めるようにしています。
M&Aに関しては、特にソフトウェア業界では、起業家や経営者の方との人間関係が重要だと思っています。そういった方々とのリレーション作りは、どうしても現場のメンバーだとなかなか難しい部分もあるので、自分の役割と捉えてやっています。よくイベントに顔を出しているのはそういった目的もあります。
【渡邊】私の場合、マインドシェアが一番大きいのはIR、究極的には株価です。毎朝目覚めるとすぐにGENDA株に関する情報を集め、前場の気配値や板寄せを見ています(笑)。適切な市場評価を得るためのIR資料作成と機関投資家向けのコミュニケーションを継続しています。
また、成長ドライバーのM&Aも大きいです。当社では、GENDAのエースであるCSOが率いるM&Aチームがソーシングとエクゼキューションをリードしておりますが、私の方は投資委員会で、幾らで買うか・幾らまでファイナンスがつくかを重点的に見ております。
バリュエーションの方は、極端に言えば、どんなに高値掴みであっても利益が出ている企業をM&Aすれば連結PLは上がるわけですが、当社はそれは絶対にせず、あくまで適切な価格でのエントリーを心掛けています。
資金調達の方は、M&Aのための資金を主に負債で調達しています。M&Aファイナンスのシンジケートローンに参画していただけるよう、まずは平時に運転資金や設備資金の少額融資で実融資残高を作って行内格付を獲得し、銀行とリースを合わせて40社の取引関係を作りました。
2024年1月 ㈱GENDA IR「2023年12月以降のM&A進捗及び業績予想について」より抜粋
<自身のバリューについて>
【中川】次に、CFOとしてバリューを発揮できていると感じられる部分と、逆に足りないと思われる部分をお伺いできますか。
【金坂】今上場して7年目になりますが、ガイダンス(業績予想)を下回ったことは1回もありません。かつそのガイダンスもそう簡単に達成できるものを出してはいないので、CFOというよりは上場会社として、対外的に開示した目標に毎年コミットしてやり切る力をつけてきたことに、すごく価値があるかなと個人的には思っています。
まだまだな部分は本当にたくさんあるんですけど、ここ数年は、会社を加速的に成長させるようなM&Aはできていないことですかね。GENDAさんが上場して、数ヶ月で10件ぐらいM&Aしてるので、これはもう出直した方がいいと思って、最近は渡邊さんたちから勉強してます。
【中川】CFOとしてというよりは、経営陣として会社をどう伸ばすかっていう感覚が強いんですね。
【金坂】そうですね。マネーフォワードは従業員が現在2000人以上いまして、経営陣も、グループ会社の代表などいろんなメンバーがいます。全員のパフォーマンスをどう高めるかは、とにかく大事だと思っていて、CFOのポジションには本当にこだわりは一切ないので、一経営メンバーとして仕事をしています。
【渡邊】私の場合は、GENDAを「M&Aの会社」としてきちんと投資家から評価してもらう努力をしております。
大学のときからコーポレートファイナンスのゼミで使っていた教科書を今でも机の前に置いていて、判断に迷ったときに読み返しています。ノーベル賞も取った理論なので、投資判断に迷った時の原点として立ち返ると、定量的かつ合理的な答えが導けるため、世界中の投資家に対して自信を持って説明をすることができます。
ことさらM&Aを連続的にする会社のバリュエーションというのは、オーガニック成長を訴求する企業と比較すると、理論的な難易度が高くなります。その分、確りと理論に基づく説明ができると、コーポレートファイナンスに基づく理解度が高い投資家には深く刺さる分野だと実感しています。株式価値の理論に基づいて日本語と英語で投資家と対話することで、自分のバリューを発揮しています。
一方で、事業会社に於いて私ができる部分はほんの一部だけであるため、管理機能のトップとして、IPO準備の際にチームビルドに注力しました。各分野を託せるプロを見つけて採用し、各々に権限を託しオーナーシップを持って意思決定してもらう事を意識しています。
【中川】いいチームを作れているからこそ、今の実績かなと思いますが、そこはもっと高めていきたい部分ということですね。
【渡邊】そうですね。これだけM&Aが多いと、管理部門は常に負担がかかります。それに耐えうる、信頼かつ尊敬できるプロ人材を各分野で採用することができたかなと思っていて、みんな本当にナイスかつ頼もしく、心から尊敬しています。今後も今のクオリティを維持しながら拡大していきたいです。
【中川】ありがとうございます。ちなみに、投資銀行での経験は活きていると感じていますか。
【金坂】20代はずっとGSで、仕事のスキルというより、クライアントの立場に寄り添ってディテールにこだわるとか、ビジネスとしての競争、勝ちにこだわるというマインドセットを先輩方から学んだことに圧倒的に価値を感じます。M&Aのアドバイザリー経験は活きる部分はもちろんありますが、エグゼキューションをクライアントに委ねるアドバイザリーと違い、自分で意思決定して実行して正解にしていかなければいけないので、アンラーニングが必要な部分もたくさんあるとは思います。
【渡邊】私も概ね金坂さんのご意見と同じで、経験はとても活きていると思います。マインドセットに加えて、GENDAの場合はM&Aファイナンスが伴うため、細かい部分も含めて経験を活かせていると感じています。
【中川】GENDAさんはミダスキャピタル企業群の一社ですが、是非ミダスさんのお話もお伺いできればと思います。具体的にどういった支援を受けられていて、どのようなメリットがありますか。
【渡邊】一番メリットを受けているのは採用です。スタートアップに於いて、採用は大変重要なファクターだと思いますが、良いチームを揃えられたのはミダスキャピタルの存在も非常に大きいです。
ミダスキャピタルは、投資先の企業群における経営者たちが家族のように一丸となるような一体感があり、相互に貢献しあうマインドを持っています。その一例としては、企業群の経営者・経営陣同士による「広義のリファラル採用」で、自身の知り合いを自社にだけでなく、ミダス企業群の他社にも紹介するというものです。仕事ぶりのリアルな評価だけでなく、人間性も分かった上、仲介手数料も無しで採用できるというのはスタートアップにとって最も有難い支援の1つです。
またミダスキャピタルには、困ったら誰かにすぐ聞ける体制があります。コンサルや金融だけでなく、事業家やテックを含めた様々な専門家が直ぐに答えてくれるのが心強いです。IPOなど各社一度しか経験しないようなことを組織知としてオンコールで共有してもらうことは、スタートアップにとって有難いです。私のIPO経験も、ミダスキャピタルの他投資先でIPOを志向する会社のCFOにそのまま託しています。
また、GENDA株主のHIRAC FUNDの金坂さんにも、事あるごとに何度も助けて頂き、感謝しかありません。
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