【前編】CFOのバリューは、事業成長への貢献度で決まる
<キャリアの変遷や会社選びの基準について>
【中川】末藤さんはモルガン・スタンレー証券(現:モルガン・スタンレーMUFG証券株式会社)でキャリアをスタートした後、ゼネラル・エレクトリック(GE)、グラクソ・スミスクライン(GSK)などの事業会社を経て、現在Visionalにいらっしゃいます。会社を選ぶ基準や過去の転職の共通点はありますでしょうか?
【ビジョナル株式会社 末藤 梨紗子、以下 末藤】そうですね、転職をしようと思って転職をしたことは実はありません。
「少し自分の成長の角度が鈍化してきたな」「人生の限られた時間を、さらに刺激的にするために、どう使おうかな」と考えるタイミングで、一緒に働きたいと思える方や会社に巡り合って、ご縁が転職につながっているというのが背景にあります。
自分の市場価値やどんなオポチュニティがあるかは定期的に聞いておくべきだと思っているので、どんなに仕事に満足をしているタイミングでも、様々なネットワークをお持ちの方々とお目にかかるようにしています。以前「自分が仕事をした中で最も面白いCFOがいるから会ってみて」と言われて、会ってみたのがGSKのCFOで、ご縁がつながったこともありました。
【中川】仕事選びにおいて、成長とチャレンジが軸にあるんですね。
【末藤】はい。「世の中のためになる仕事がしたい」という思いがあり、その価値観に合った会社を選択してきましたが、その上で、自分自身の成長やチャレンジの機会を大切にしています。モルガン・スタンレーではM&Aのアドバイザリー業務に従事し、GEではマーケティングや事業戦略、GSKでは内部統制系や財務に加えてコンプライアンスの仕事を経験しました。この20年間仕事をする上で、沢山の方々が私にチャンスをくださったが故に今の自分があるので、だからこそ、成長とチャレンジをし続けること、そしてそのような機会を周りにも提供することが恩返しだと思っています。
実は八木さんのプロフィールを事前に拝見して、「正義感」というタグワードがプロフィールにあってとても共感しました。私も、困難があってもそれが正しいのであれば絶対遂行しよう思っていますし、努力は才能よりも勝るという考え方も含めて、すごく同じような価値観だなと思って、事前に勉強をさせていただいていました。
【株式会社タイミー八木 智昭、以下 八木】ありがとうございます。 私も困難に伴うリスクについては考えますが、それ以上に「正しいことをやる」という信念が強いですね。
【中川】八木さんは三菱東京UFJ銀行からキャリアをスタートされ、三菱UFJモルガン・スタンレー証券に転籍、そこからアペルザ、タイミーとスタートアップ2社というご経歴です。会社を選ぶ基準や共通点はありますか?
【八木】私は、意図的に目指すべきキャリアで必要なピースを探して転籍や転職をしました。
CFOをすごくやりたいわけではなく、事業サイドや会社の経営をやりたいというのがむしろ自分の気持ちとして強いですね。
【中川】そこに向けて戦略的な転職をされてきたわけですね。
【八木】はい。事業全般をやりたいという思いがあって、事業全般、経営全般を動かすために必要なピースを埋めていくために銀行・証券時代では新規事業を提案したり、やりたい部署への異動や出向などを実現させて、今に繋がっていますね。
銀行に入ったのは、いろんな業界を知ることができ、経営者と話ができることに魅力を感じたからです。モルガン・スタンレーへの出向という形でIBD(投資銀行)に5年いました。銀行では主に大企業の経理財務の方と話していましたが、財務諸表については詳しいけれども事業について詳しいわけではなく、少し物足りなさを感じていました。モルガン・スタンレーでは経営戦略や企画など、事業全般を動かしている経営レイヤーの方とダイナミックな話ができたことが楽しかったですね。しかしあくまでもアドバイザーの立場であり、いろんな選択肢は提供できても、最終判断はクライアントなので、そこの判断を自分でやってみたいなと思ってスタートアップへ行きました。
スタートアップの一社目のアペルザは、事業経験が全くなかったので幅広くやらせてもらいました。営業、マーケティング、プロダクトに関わるいわゆるPdMもやりました。全般的に事業サイドをやらせてもらって、ピースを埋めた感じです。
タイミーへは、経営陣としてダイナミックなグロースに関わりたいと考えて転職しました。
【中川】近い経験が積めるスタートアップは色々あったかと思いますが、その2社を選んだ背景をお伺いできますか?
【八木】13年ぐらい資本主義のど真ん中のような金融機関にいたんですが、年を重ねたことで社会貢献への思いが強くなっていったことがあります。あとは、子供を二人育てているので、彼らに良い未来を残したいという気持ちもあります。
アペルザを選んだのは日本の製造業を復活させたいという思いがありましたし、タイミーは雇用の流動性を担保できるようなインフラを作れるというところに惹かれました。入社したのが2020年12月というコロナ禍真っ最中で、人がどんどんリストラされてる状況でしたから。後半の転職には、「社会性」というキーワードも入ってるかなと思いますね。
【末藤】私も「世の中のためになること」を基準に仕事を選んできました。例えば、GSKでの医療関連の仕事は、社会貢献度が非常に高いと感じていましたし、Visionalでも、価値あるものを提供するという信念を持って仕事をしています。自分の信念に従って選んでいます。
<仕事上大事にしている価値観や時間の使い方について>
【中川】何か仕事上大事にしている価値観はありますか?
【八木】現場を大事にしています。現場を知ると投資家に話をする時や戦略を練る時も、解像度が高くなります。アペルザでもお客さんの工場へ行くようにしていましたし、タイミーでは上場以前から上場後もタイミーで定期的にバイトをしています。
【末藤】徹底されてますね!私にとっても現場はすごく大事です。同行訪問や商談の機会を通して、日々お客様とどういうやりとりがされているのか、お客様のフィードバックを直に聞くことを大事にしていますね。
【中川】今の仕事をするにあたって糧になった経験はありますか?
【末藤】モルガン・スタンレーで学んだコーポレートファイナンスの知識は、IPOを目指す際もそしてIPO後もVisionalのCFO業務のテクニカルな側面において非常に役立っています。また、GEという事業会社で学んだ、組織をどう動かすかとか、ステークホルダーをどうマネージするかの経験、GSKにおいては、全く未知の領域に挑戦する際リーダーとしてどういう軸で判断をすれば良いか、ということをはじめ、各企業での経験が、今の自分を支えていると感じますね。
【八木】私は、在籍期間は1年弱と短かったですが、前職のアペルザでの経験がすごく活きています。50人足らずのアーリーフェーズの時期に在籍していたので、ビジネスやプロダクトなどの事業全般を経験できましたから。
ビジネスでの「0→1」と「1→100」の知識は全く異なると思っています。「1」の知識は、細かいことは分からないが幅広い分野が一定分かるレベルのものです。これがあると、ケーススタディの補完等によってどのような場面においてもある程度臨機応変に対応できるようになります。まさにアペルザでこの「1」を学ぶことができたことが大きいです。
私はタイミーの経営会議の場で、マーケティングや営業、プロダクトについても、結構意見をするんですが、「1」の知識があることがそのベースになっているので、今に活きていると思います。
【中川】お二人とも非常に多忙な毎日を送られていると思いますが、時間の管理や優先順位のつけ方について教えていただけますか?
【八木】そうですね。現在は常勤取締役が代表の小川と私の二人だけで、ほとんどの会議体における意思決定を二人がメインで行っているため、営業戦略や組織変更はもちろん、事業戦略に至るまで、本当にあらゆることを決めています。上場までの数ヶ月は、CFO業務の比率が多めで、フィジカル的にはIPOプロセスでの面談などにかなり時間を取っていましたが、モルガン・スタンレー時代にIPO業務はずっとやっていて勝手もわかっていたので、マインド的にはむしろ「いかに事業を伸ばすか」を考えることに時間を使っていました。
時期によって内訳は様々ですが、常に会社全体、経営全般に関する意思決定や思考に多くの時間を割いています。
【末藤】私も八木さんと時間の使い方としては結構似てますね。事業執行に圧倒的な時間を使っています。弊社の場合はもう少し経営メンバーの定義が広いので、取締役と執行役員含め、チームでいろんな判断をしていくという経営スタイルです。CFOとしての役割はもちろんありますが、経営の一員として当事者意識を持ってすべてのことに関わるようにしています。
【八木】今、IRをやってる中で思っているのは「事業成長なくしてIRなし」ということです。事業でいい数字や結果が出ていれば、IRのやり方や時間の割き方は相当スリムになると感じています。
【末藤】私もその通りだと思います。事業経営の一部を切り出して、投資家や資本市場に説明するものだと思っているので、私もマインドシェアも時間も割いていますね。
もう一つ付け加えると、どうしたら組織をさらに強くできるかについて、すごく大事にしています。私自身ができることは限られていて、それぞれのチームが輝いてさらにいいアウトプットを出すかによって、会社の総合力は何倍にも強くなると思っています。今どんどん会社のフェーズが変わっていることもあって、健全でより強いチームを作ってくことに注力しています。
【中川】Visionalは上場して3年強経ちました。マインドシェアや時間の使い方は変わりましたか。
【末藤】はい。上場時はコロナ禍の真っただ中であったため不透明な状況下での経営でしたが、その後コロナのリバウンド需要の中で想定以上のスピードで事業が拡大し、今ようやく、定常状態になった、という感覚です。その間に組織も大きくなりました。目先のことのみならず、少し先を見据えて動く、ということができるようになりました。
【中川】現職でご苦労されていることはありますか。
【八木】いろいろありますね。コロナ禍で売上が減少した時期があるので、その時はどこまで事業成長を戻せるかに必死でした。目まぐるしい外部環境の変化やインシデントの対応もありましたし、その間も何度もファイナンスをやっていましたし、言えないことも含めていっぱいありました。
今思えば綺麗事に聞こえるかもしれませんが、苦労が無いのはスタートアップじゃなくない?という思いもあるので、Welcome, HARDTHINGSの精神で前向きにやっています(笑)。
【末藤】私も、何事もすごく前向きに捉える性格なので、苦労ではなく難しいなと感じたことをお話しすると、事業成長のスピードと資本市場への開示のタイミングが合わないことですね。資本市場への開示は四半期ごとですが、事業は3ヶ月でそんなに大きく動きません。弊社は「ビズリーチ」という売上も利益も成長し続けている事業に加えて、「新しい可能性を、次々と。」という新しい可能性(事業)へのチャレンジを企業ミッションとしているため、今はまだ小さい事業もあります。これらの事業はコツコツと事業創造をする必要があるため、事業成長と四半期ごとの市場との対話のタイムラインが合わないことが難しいと感じていますし、まだ何がベストかという解は、私の中でも無いです。
【八木】同じく、難しさを感じますね。短期と長期、どちらかにフォーカスしすぎるとどちらかが遅れたりするので、バランスは難しいなと思います。
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