福島氏は、BCG(ボストン・コンサルティング・グループ)で大手企業のトランスフォーメーションなどに従事した後、2015年7月にラクスルに転職した。ラクスルでは経営企画部長としてスタートし、2017年10月にCOO、2018年8月に印刷事業本部長に就任している。
昨今ではコンサルからスタートアップへ転職する人は増えているが、当時はまだほとんどいない時代。どのような考えで転職の意思を決められたのだろうか。
まずは、BCGからラクスルへ転職した理由を教えてください。
【福島】BCGは8年勤務して、主に「デジタル×トランスフォーメーション」の分野、いまの「DX」が専門領域でした。大手企業のDXを支援することはインパクトがあり、社会的な意義も感じました。一方で、日本の産業全体を見渡したとき、大手企業とスタートアップがもっと切磋琢磨して、産業が進化していくべきという課題感がありました。シリコンバレーでは、GAFAMがスタートアップの組織文化を維持したまま、スケールアップして大手企業に挑んだことで、大手企業も危機感を持ち自らの変革に迫られて、産業全体の進化が加速したと思います。
日本でも、スタートアップがもっとスケールアップして、大手企業を脅かす存在になることが、産業が活性化する起爆剤になると感じており、ラクスルに入社してスケールアップに挑戦することにしました。
スタートアップが産業全体を進化させる。今でこそ少しずつその兆しが見えているが、5年前からそのイメージを持っていたのは非常に先見の明がある。
5年前はまだコンサルからスタートアップに転職する方は少ない時代。しかも順調にBCGでキャリアを積まれていた中でそのような選択をされている。周囲の反応はいかがでしたか?
【福島】周りは「何でそんなリスクを取るの?」「もったいない!」と反対ばかりでした(笑)。自分の感覚と周囲の反応は正反対でしたね。
スタートアップへの転職は、私にとっては、"ノーリスク" な選択でした。当時35歳でスタートアップに挑戦できる最後のタイミング。いま転職しないと、一生、挑戦する機会を失うことに強いリスクを感じていました。仮に、スタートアップへ挑戦して失敗しても、事業経験は、コンサルにも活きるはず。このキャリア選択が「ワン・ウェイ」(片道)か「ツー・ウェイ」(往復可能)か、で言えば、スタートアップへの挑戦は「ツー・ウェイ」であり、私にはリスクがない選択でした。自分のキャリアを考えれば、折り返し地点が40歳の長い道のりです。前半に大胆な挑戦するほうが、後半のリスクを減らせる感覚が強かったです。
一般的にリスクと思われているスタートアップへの転職を、"リスクのない選択"と捉えている。自身のキャリアを長期的にかつ俯瞰して見ることがそれを可能にしていた。
ただ転職後活躍しない事にはその転職が失敗だったという事になりかねない。福島氏はどういったポイントを重視し活躍につなげたのだろうか。
福島さんは経営企画部長として入社し、その後COOや事業本部長を務められています。コンサルからスタートアップへの転職の成功例だと思いますが、成功の秘訣はどんなところにあったのでしょうか?
【福島】役職・タイトルに拘らずに、結果を積み上げて、信頼を築くことしかないですね。私の入社時の期待値は「一流戦略コンサル出身者」だったと思いますが、それを期待通りやろうとすると、失敗します(笑)。スタートアップではどんなタイトルがあっても、結果をだせないと誰も付いてきません。コンサルしか経験のない私が、経営や事業をいきなりできるわけがありません。実直に「短期間で結果を出し、信頼を築き、それから事業経営へ」というステップを踏む道しかないです。
実際に、入社後はSCM部長を兼務して、インパクトを一番出せる利益創出に全力を注ぎました。この「短期間での結果を出す」(クイックウィン)は、コンサルタント時代に磨いたことが役に立ちました。大事な領域だが、誰もカバーしてない「日陰」をみつけて、集中して改善して信頼を得るプロセスをラクスルでも実践しました。
結果が出るまでは、「あいつは何をしているんだろう?」と疑われるので、覚悟を決めて、なるべく短期間で結果を出すことが肝要です。
「あいつは何をしているんだろう」と思われることも厭わない。タイトルに拘らず一番インパクトを出せるところで勝負する、事業にとって何が本質的に大事かを瞬時に捉えられる、優秀なコンサルタントだからこそできる技だ。BCG時代のコンサル経験はしっかり活きている。
昨今はスタートアップのエコシステムが広がってきており、転職を希望する人も増えている。福島氏は、スタートアップへの転職をどのように見ているのだろうか。
スタートアップへの転職を成功させる秘訣のようなものはありますか?また、スタートアップでCxOとして転職したいと言う人が割と多いのですが、どのように思われますでしょうか?
【福島】転職のとき、「キャリアチェンジ」と「キャリアアップ」を分けたほうが良いと思います。スタートアップへの転職は大半の人にとって「チェンジ」です。それを意識していれば、前職と同じパフォーマンスは出せない、新しい成長の場で学ぼうという姿勢からスタートします。それを「アップ」だと勘違いすると、アンラーニングが進まず、過去の成功体験で失敗の繰り返しで、負のサイクルに入るケースがあります。大手企業やコンサルのキャリアの延長線上にスタートアップはありません。「キャリアチェンジ」の姿勢で挑戦したほうがいいと思います。
「CxOになりたい」もよく聞く話ですよね(笑)。タイトルが欲しくて転職するのは、スタートアップで失敗する人の典型例だと思います。例えば、社員数30名以下のアーリーステージだとCxOのタイトルは付きやすい。一方で、アーリーステージであれば、ファウンダーが原則すべての意思決定をする。CxOタイトルがあっても、最終責任者として意思決定をする機会が少ないこともよくあります。
転職時に、CxOへの成長機会を得られるかを確認することは大事ですが、タイトルは後からついてくるぐらいの心持ちが望ましいですね。
転職希望者には年収にこだわる人もいます。年収についてはどんな考え方をされていますか?
【福島】自分の「市場価値」を考えるとき、年収で測れる「フロー価値」を"P/L(損益計算書)"、キャリア経験を測る「ストック価値」を"B/S(貸借対照表)"の2つに分けています。
転職の際に、キャリアチェンジで「ストック価値」を高めたいのか、キャリアアップで「フロー価値」を高めたいのか、で年収への考えもまったく違ってきます。
私の転職では、キャリア経験を積むこと(B/Sの充実)を重視しました。「スタートアップで事業責任を背負い、スケールアップさせる」という事業経営者としての経験を積めることでB/Sを厚くすることは、とても魅力的でした。目先の年収で測ると、半分になったのでP/Lは激減しましたが(汗)。
結果的には、6年が経ち年収も上がりました(P/Lの充実)。"キャリアのファイナンス思考"ではないですが、いいキャリア経験を積み上げて、自分のB/Sを充実させ、市場価値が上がり、その結果として、P/Lも充実していく循環が私のキャリアの理想形です。
キャリアにもファイナンス思考を持ち、目先の報酬を追わない。これは全てのビジネスパーソンにとって非常に重要な考え方ではないだろうか。
スタートアップへの転職を考えているコンサル出身の方に何かアドバイスを頂けますでしょうか?
【福島】スタートアップと大手企業の違いは成長スピードなので、ハイグロースしているステージの会社がお勧めです。事業規模の大小に関わらず、ハイグロースをしている会社では、成長機会やオーナーシップ不在がいたるところあります。逆に言えば、自分が獲りにいけば、責任を持てる、手を動かせる、ということ。責任を背負うことがなによりも、キャリア経験になりますし、その過程で多くの学びがあります。そして、「ハードシングス」もあります。
あとは、ハードシングスで逃げないことです。ハードシングスはキャリア経験を圧倒的な濃さで積めるボーナスタイムです。結果がどうであれ、ハードシングスから逃げずに、向き合える人がキャリアのB/Sを厚くしていける人だと思います。
順風満帆なスタートアップは存在せず、ハードシングスは必ず起こる。「逃げない」というのは、基本的な心構えかもしれないが、転職後キャリアを積み上げられる人の絶対条件ではないだろうか。
では、転職先としてラクスルという選択肢は、どのような人にフィットするのだろうか。
ラクスルで働くなら、どんな人が適していますか?あるいは、入社後伸びるのはどんな人ですか?
【福島】その答えはシンプルです。オーナーシップに尽きます。その事業領域を背負える方を探しています。ラクスルはハイグロースを持続しながら、事業領域も拡張しているので、大小さまざまな成長機会に溢れています。オーナーシップがあれば、成長機会や知見はラクスルとしてはいくらでも提供できる環境だと思います。
現在、産業単位に事業本部が3つあり、各事業本部のビジネスユニット(BU)ごとに事業部長がいます。更に、BU内に商品カテゴリーがあり、それぞれオーナーシップを持つBizDevが活躍しています。
ラクスルで事業経営を目指す方には、キャリア経験に応じて、オーナーシップを持てる球があり、新卒1年目から担当領域へのオーナーシップを求めています。
現在ラクスルは印刷、物流、広告と3つの異なる業界で事業を展開している。どのような観点で事業を選択したのかという質問に対しても「オーナーシップを持ってやりたいと言う人がいるかどうか」と、ここでもオーナーシップを重視しているという回答であった。
実際に事業開発に携われる機会はどのくらいありますか?
【福島】ラクスルは、B2Bプラットフォーム事業のポートフォリオカンパニーを目指しています。ポートフォリオは数億の事業から200億規模まで幅広いので、各人が経験を積みたいフェーズや事業領域を、社内でキャリアを選択することができます。
現在は、事業経営者/BizDevが15人規模ですが、3年後は、45名(事業経営者15、BizDev 30)・3倍ぐらいの事業開発集団を目指しており、まだこれから急成長していきます。
ラクスルの楽しさは、自分自身の経験を積めることはもちろんですが、先人の経験者から学ぶ経験、後任に教える経験があり、先人・後任の経験も自分のものにして、経験の蓄積を加速できていることですね。
自分を成長させたい若い人が挑戦するのに良いですね。
【福島】ラクスルのBizDevの実例を見ていると、20代後半~30代が最も多いです。スタートアップに転職して結果を出すのに、年齢は関係ないですが、プライド・シガラミがあり"持っているもの"を評価されたい年齢になると、挑戦が難しくなるからでしょうね。
ラクスルは、オーナーシップを持てる人にとっては、短期間で多くの実践経験とフィードバックを得られる、理想的な環境である。
同社は現在進行形で印刷、物流、広告という伝統的な業界の産業構造を21世紀型にアップデートしている。今後その事業を次々に増やすという壮大な計画を立てており、まさにスタートアップが産業全体に変革をもたらすというインパクトを産み出そうとしている。同社に参画する社会的意義も大きい。
同社で事業家としてのキャリアを磨いてみてはいかがだろうか。
プロフィール
福島 広造 氏
取締役 兼 COO
慶應義塾大学卒業後、フューチャーアーキテクトを経て、BCGに入社。BCGでは東京・ドイツオフィスで勤務。企業変革/テクノロジー・アドバンテッジ領域を担当。2015年7月、ラクスル入社。経営企画部長、SCM部長、印刷事業本部長を歴任し、取締役COO就任。経営計画、生産管理や事業部支援などに携わっている。
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