「再生請負人」のレジェンドが歩んだ
たたき上げのキャリア構築
今やトリドールのグループ内では「店舗再生請負人」としてレジェンド的な存在にさえなっている恩田氏だが、学生時代は起業を本気で志していたという。就職活動も起業が前提。「いずれ人を束ねて組織を率いていくのだから、修行をしなければいけない」との思いで外食産業を選択。ワタミに入社をした。
「外食産業の店長という仕事が非常に厳しいものだというイメージはありましたが、そこで店のスタッフとのチームワークを経験し、日々明快に数字になって表れる結果と向き合えば、必ず起業する時に役に立つ。そういう動機でこの業界を選びました。ワタミに入社をしたのは、このグループが店舗におけるサービスの質にこだわることで業績を伸ばしていたこと、入社早々から店長を任される可能性が高いと思ったことからでした」(恩田氏)
その後、恩田氏は起業をするのではなくトリドールへと転職を果たすのだが、その理由は、ストレートに飲食の仕事の面白さを知ったからなのだという。より深くこのビジネスを知るため、「今度は味にこだわって勝負しているところで働きたい」との思いから、炭火焼鳥「とりどーる」を運営するトリドールに入社した。
「以前からここの焼鳥が美味いと感じていたので、単純に入社を決めたんです。看板ブランドがうどんの『丸亀製麺』だということは、後から知りました」(恩田氏)
入社後、「丸亀製麺」とラーメンチェーンの「丸醤屋」の双方を担当する立場になった恩田氏。
「2010年ごろにはもう『丸亀製麺』の人気はブレークしていました。上り調子の人気店で経験を積みながら、当時丸亀製麺と比較し課題が多かった丸醤屋で力試しをし、成果を上げ、自分の成長につなげていこうと考えたんです」(恩田氏)
結果、2つのブランドでともに目立った成績を上げた恩田氏は、10数店舗を束ねるマネージャーとなったが、すぐにその腕前を買われて本部へと引き抜かれた。与えられたミッションは、各ブランドの店舗運営における業務改善の体系化とITツール導入の担当者だった。
「非常に良い経験をさせてもらいました。飲食店の仕事の面白さというのは、どんなに小さな店舗であっても、改善できるポイントというのが山ほどあって、そこに適切な対処をしていくと、ちゃんと数字になって表れてくるところなんです。こうしたノウハウを数多くのお店が適用できるようにする仕事であったり、店舗経営に最適なITツールを選定していったりする仕事は、その後の私の成長にもつながっていきました。ただ、直接担当している店舗を改革していくのとは違います。大きな組織が新しいものにチャレンジすると、どうしてもスピードが遅くなるのだという課題にも突き当たっていたんです」(恩田氏)
そんな思いから、現場への復帰を志願。単なる復帰ではなく、「特に業績悪化に悩んでいるお店を私にやらせてください」と直訴した。次々と赤字店舗の黒字転換などに成功していくうちに、恩田氏の存在はグループ全体に知れ渡っていく。そしてある時、創業者であり、グループ代表の粟田貴也氏から声をかけられた。「丸亀製麺」の全店舗を統括して数字をさらに引き上げる改革を施してほしい、という特命だった。
結果、面白いように数字がグングン伸びる。評価制度の改善や丼物等の新規メニュー開拓といった新しいチャレンジにも成功していった。やがて「丸亀製麺」以外のブランドの確立という使命を担い、こちらでも成果を示した恩田氏は、2017年に国内の店舗運営全体を司るトリドールジャパンの社長に就任することとなった。
まさに現場での実績に基づいた「たたき上げ」によるキャリア形成。その真骨頂が恩田氏だといえる。一方の鳶本氏はというと、まったく異なる道を歩んできた。
プロの経営参謀として高い実績を得た人物が
あえて外食産業を選択した理由
学生時代から一貫してマーケティング領域に傾倒していたという鳶本氏が、その成長の場として選択したのは自動車業界だった。大手自動車会社に入社し、商品企画の担当者として実績を積むと、その後、複数の車種にまたがるクロスカー商品に携わっていったという。
「マーケティングの仕事を、スケールの大きな舞台でやらせてもらえることに満足をしていましたし、成長も実感できていたんですが、段々と私の関心の対象が経営そのものへとシフトしていったんです。マーケティングまわりだけでなく、会社経営に関わる様々なことをもっと学びたい、という気持ちが高まり、まずはMBAを取得しようと考えました」(鳶本氏)
京都大学大学院のビジネススクールで学ぶうち、自身のキャリアビジョンも明確になっていったという鳶本氏。
「父が自ら経営者となって失敗した経験の持ち主だったこともあり、私としては自分が経営者になるんだ、という思いよりも、その傍らにいて参謀として貢献していく立場に就きたい、という思いがどんどん募っていきました」(鳶本氏)
経営参謀を志すならば、コンサルティングの世界で実力を磨くべき。そう考えた鳶本氏は大手外資系ITコンサルティングファームに入社。IT系案件でのコンサルティングを担うようになった。その後、大手外資系コンサルティングファームに入社し、そこで今度は組織変革をテーマとする案件を中心に手がけていき、自らのコンサルティングスキルの向上を進めていった。
「こうなれば、多くのコンサルタントがそうであるように、事業会社の懐に飛び込んで、自らが戦略の実行までコミットする立場になりたい、という気持ちが膨らんでいきます。私も複数の大企業の経営企画部門で、戦略策定から実行に至るまでを担う立場に就き、その後はベンチャーの経営支援を担ったりもしていったんです」(鳶本氏)
経営参謀のプロとして実績も評価も得た鳶本氏。自身の力を活かす場は、いくらでも選べる状況だったはずだが、あえてトリドールという外食産業を選び、今に至っている理由はどこにあるのか?
「理由の第1は、食べることが大好きだからです(笑)。人間の根源的欲求に関わるビジネス。もうそれだけで大きな魅力なんです。また、私は事業会社時代やコンサルタント時代も含め、数々の場で経営上の意思決定に携わり、その醍醐味に魅了されてきましたが、この意思決定というものを毎日求められる産業というと限られています。食のビジネスは、まさにその1つ。これも大きな転職理由ですね。そして、なによりの理由は、トリドールという会社がとんでもない戦略を本気で実現しようとしていた点です」(鳶本氏)
鳶本氏のトリドール入りは2018年だが、2015年に粟田貴也氏が公言したトリドールグループの中長期戦略には、当時から目を奪われていたのだという。「2025年度に国内外の店舗数を2014年度比で6.3倍の6000店に拡大。さらに海外展開の拡大やM&A加速などによって、25年度の連結売上高を2014年度比5.7倍の5000億円に引き上げ、上場外食企業で世界トップ10入りを目指す」というのが、2015年7月に発表された内容だった。
「まあ、正直に言わせてもらいますが『いったい何を考えているんだ?』という感想でした(笑)。そして、同時に『こんな面白い会社、他には絶対にない』とワクワクしたんですよ」(鳶本氏)
店舗数にせよ売上にせよ、10年間で6倍前後に成長することを明快に示した大胆さと、「食のグローバル化」という難しいテーマに挑んでいく姿勢に共感したことから、鳶本氏はトリドールへの入社を望み、2018年にそれが成就。ホールディングスの経営企画本部において、これまで主に戦略実行上の課題抽出等に携わってきたが、2019年4月の組織改編に伴い、同社グループの組織開発を統括し、国内の人材採用および育成において恩田氏とのタッグを形成することになったのである。
2025年までに店舗数6000、売上5000億。
型破りの目標を達成するには人材の採用と育成が不可欠
以上のように、まったく違う道のりを歩んできた2人だが、そのコンビネーションはどうなっているのだろうか?
【鳶本】私は入社してすぐに恩田の存在を知り、相談に行きました。外食産業に本格的に携わるのが初めてだから、というだけでなく、どんなビジネスであろうと、現場を知る人が何より重要だと思いますから。そして、自分と同じ考え方、つまり「今の組織を大きく変革しなければいけない」と強く思っているのだと知り、嬉しくなりました。さらに嬉しかったのは、恩田が新しいことをしようとするアイデアに対して、基本的にノーとは言わない主義だとわかったことです。
【恩田】私はその主義を貫くことでお店を変えてきましたからね。もちろん会社として、グループとしての大きな戦略がベースになければいけませんが、1つひとつの現場では次々に改革の打ち手を施していかなければいけません。スピードが命ですから、新しい事をしようという者がいれば、よほどのことがない限りゴーサインを出します。「そのかわり責任は取れよ」と言い足しますが(笑)。
【鳶本】わかります。どんなに賢い人間がたくさんのアイデアを考えたとしても、それを実行しなければ何も生まれませんよね。大きなグループだからこそ、現場で小さくても良いからアイデアの実行を繰り返していかないと、組織も人材も成長しません。
【恩田】そうなんです。10試しても、うまくいくのはせいぜい1。けれども、その1を1000の店舗が導入することで、成果は桁違いになっていく。
【鳶本】だから、「与えられた手法をそのままやるだけ」の人材ではなく、「どんどん改善点を見つけて積極的に失敗を恐れることなく実行していく」人材を増やしていかなければいけませんね。私と恩田が2019年からの新体制でコミットするのは、こうした素養を引き出し、採用に活かし、大胆な変革を本当に達成できるような組織に変えていくことなんです。
早くも絶妙なコンビネーションでトリドールの新しいテーマについて説明する両氏。では、具体的にどのような動きを執っていくのか。
【恩田】「丸亀製麺」を含むトリドールのオリジナルブランドでは2019年3月にとうとう1000店舗を達成しました。引き続き好調な業態において、1500店舗を目指していくだけならば、既存のやり方を継続していくだけでも可能かと思います。しかし、それだけに依存していてはこの会社自体の成長がストップしてしまいますし、グループ全体で6000店舗などという目標は決して達成できません。複数の業態を持ち、それらが各々チャレンジを繰り返していく必要があります。
Aという業態で有効だった打ち手をBという業態でも導入して、というようにシナジー効果も生まれてくるようにしなければいけません。何を、いつ、どう組み合わせて、変革につなげるか。そこに関心を持ち、コミットできて、実行していける人材、つまり変革リーダーを生み出していく施策が最優先だと考えています。だからこそ、サービス提供部門も私の責任下にしてもらいました。
【鳶本】私自身がホールディングス側の人間なのですが、ともすればこうした立場の人間が机の上で計算した数値目標を、無責任に現場へ投げて終わり、となりがちです。でも、もちろんそんなことでは絶対に会社は変わりません。6000店舗で売上5000億という途方もない目標を達成するには、現場も含め、このグループで働く者1人ひとりが誇りを感じ、幸せを実感できる場にしてもいかなければいけません。
「食」を提供する外食産業は同時に「場」も提供するビジネスです。お客様は、例えば記念すべき日の食事をどこで摂ったのか、を生涯の記憶として残されるわけですから、そういう「良き思い出」にも携われる仕事なのだという意識を、我々はもっと強く誇らしく胸に据えなければいけません。そして、こうした質の部分を高めることが、結果として目標に近づいていく何よりの方策。そういう見地からも、リーダー人材の採用・登用・育成が基礎になるんです。
真の目標は、数字の達成ではなく
「食」のビジネスの変革者となることにある
グローバル市場における日本食の好調さもあって、外食産業ではコンサル人材の登用や、人材採用への注力などが1つの潮流ともなっているが、2人はその点をどう捉えているのだろう?
【鳶本】私自身がそのキャリアモデルみたいなものかもしれませんが、どうなんでしょう? コンサル出身者が、外食産業で必ず真価を発揮できるかどうかと問われたら、私は「その人次第です」としか答えられませんね。
【恩田】鳶本のように、コンサルティングを知っているだけでなく、モノ作りに直接携わった経験もあり、小人数のベンチャーも経験している人ならば、現場の大切さを知っているので、高い価値を出してくれると思います。ただ、誰もが鳶本と同じではありませんよね。どうしてもオフィスに閉じこもりがちになる。でも、それなら私のような人間が引っ張り出せばいいんですよ、現場に(笑)。
「現場の苦労も知らずに数字ばかりで経営を考えるな」ということなのかと恩田氏に問うと、そうした根性論とは別物だという返答。
【恩田】例えば店舗のコスト削減。アルバイト同様の立場で店に出れば、どんな皿をどのくらいの数使っているのかが体感できます。効率を良くしようとすれば、食洗機で一気に洗えるサイズの食器を揃えれば良いわけですが、何でもかんでも同じ食器というわけにもいきません。お客様の満足感を上げつつ、同時に洗い物の効率を上げていく場合、何をどう変えて、どのくらい用意すればいいのか。それを正しく察知するためには、現場で働いてみるのが一番なんです。そういうことを経験から学べる人であれば、必ず活躍できます。
【鳶本】アンケートの結果をデータでもらって、「それを最新のITツールで分析しました」では見えてこない本質的な改革ポイントというのが、現場には転がっているんです。その重要性を理解し、行動できて、それを面白がれる人材であれば、コンサル出身であろうと、事業会社の経営企画出身であろうと、現場からのたたき上げであろうと、確実に成長しますし、活躍しますよね。
ちなみに私自身が大切にしているのは「自分がどれだけ知らないのか」を認識して、ちゃんと口に出して言うこと。トリドールの可能性を実感できたのは、そういう話を恩田のような人間がきちんと聞いてくれたからです。第2、第3の恩田を生み、育てていくためにも、現場を体感する研修は充実させています。せっかく現場に行けるのですから、そこで「何がわからないのか」を口に出し、現場のリーダーを信頼しながら学習していける人材を増やしていきたいですね。
専門性や他業界での経験値を持つ人材を外部から採用し、現場を体感させることで実効性のある変革人材にしていく。同時に現場の人間にも、そうした異文化人材との接点から成長意欲を伸ばしていく。これによって、バックボーンとは関係なく「自立し、自ら成長のチャンスを模索する人材」の集合体にしていき、そうして「途方もない数値目標」を達成するというわけだ。しかし両氏は口を揃えて強調する。数字の達成というよりも、この会社を変え、この産業を変えていくのが自身のミッションだと。
【恩田】仕事なのですから、赤字の業態や店舗があれば、それを黒字にするべく努力するのは当たり前。では、そうして店舗を黒字化して、店の数も増やせば、それでオーケーなのかというとやっぱりそうじゃない。この辺の価値観が私と鳶本は共通しています。
【鳶本】どうしても飲食に関わる産業には、昔からネガティブな印象を持つ人が少なくありません。他業界とは比べものにならないほど多忙で激務だとか、先進的な経営理論やテクノロジーよりも根性の世界だとか、誤った認識が根深く残っています。現実はそうではありませんし、これからトリドールが新体制で挑もうとしているビジネスのあり方から言っても、全然違うのだと多くの人に発信したいんです。
私と恩田が目指すのは、志の高い人が自らを高めるための絶好の場として、この産業を選択してくれるようにしていくこと。お客様の記憶に残る価値を提供する、素晴らしい産業なのだと理解してもらい、自分の子どもにもやらせたい仕事だと思ってもらえたら最高に嬉しいですね。
【恩田】だからこそ人材の採用や育成に我々は注力していきますし、既存の外食産業が用いてこなかったような経営手法やテクノロジーの導入も行うべく、準備が着々と進んでいるんです。そういう視点でも興味を持ってもらえたら良いなあと思っています。
最後に、両氏が求めている人材像と、そうした人たちに向けてのメッセージを語ってもらった。
【鳶本】とにかくトリドールはこれから、他のどの企業もやっていないようなチャレンジも含めて、失敗を恐れずどんどん実行していきます。地に足の付いた恩田のような存在もいる中で、現場の目線に立つことを面白がりながら成長を目指したいと思うのであれば、外食事業の経験の有無は問いません。新しい「食」のビジネスを創造するチームの一員として、ぜひ参画してほしいですね。
【恩田】かつての私のように、いずれ起業したい、と考えている人も大歓迎です。ここには本当に数多くの人間が参加してビジネスを営んでいますし、リアルな店舗という舞台を任されるチャンスにも恵まれています。経営を学び取るのにうってつけのこの会社で、多くを吸収した後、起業をしてくれたのならば、広い意味でトリドールの仲間が増えていくことになるわけです。
それに、私自身が起業する野望を収めた理由でもあるのですが、これほど世界を舞台にスケールの大きなチャレンジができる場はそうそうありません。言ってみれば、毎日起業しているような感覚と教訓が手に入るのですから、成長を強く望んでいるかたには理想的な環境です。どうか期待を自由に膨らませながら、我々に会いに来てください。
プロフィール
恩田 和樹 氏
執行役員/国内事業本部 本部長
トリドールジャパン 代表取締役社長
神戸大学を卒業後、将来的な起業を前提に2003年ワタミへ新卒入社。店長職等を経験後、外食産業の魅力に目覚め2009年にトリドール入社。店長職からマネージャーへと昇格し、赤字店舗の再生等でも実績を上げた後、本部での業務改善やIT導入に携わった。その後、営業に復帰。丸亀製麺ブランドの全店舗統括、新規事業開拓を経て、2017年にトリドールジャパンの社長に就任(現任)。2019年からはホールディングスの国内事業本部長にも就任して、全社的な人材育成および採用に携わっている。
鳶本 真章 氏
組織開発室 室長
国内事業本部 国内事業人事部 部長
関西学院大学を卒業後、新卒で大手自動車メーカーに入社。商品企画をはじめとするマーケティング業務に携わった後、京都大学大学院にてMBAを取得。経営参謀のプロフェッショナルを目指して外資系大手コンサルティングファームに参画した後、大手グローバルメーカーや日系大手建材メーカーなどで社内コンサルティングに従事。複数のベンチャー企業支援を経た後、独自の成長ビジョンを掲げるトリドールに魅力を感じ、2018年に参画。ホールディングスの組織開発室長に就任するとともに国内人材の強化育成にコミットしている。
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