日本流EDLP=「KY」が成功。エコシステムの相乗効果が他の追随を許さない
「消費が冷え切っている」と言われる日本で、日本流EDLP=「KY」が成功したわけですから、今後は多くのライバルも低価格路線を追随してくるはずですね。
【ウェリング】最初にお伝えしておきますが、ウォルマートはとても競争を好む風土を持っています。もちろん、競争には必ず勝ちたい企業でもあります(笑)。そして実際に勝ってきました。ただし、なぜ競争を好むのかといえば、それがお客さまにとっての価値につながるからです。「EDLPで西友が躍進した」と聞き、ライバルも低価格路線を展開すれば、お客さまは今まで以上に安く、いいものを買うことができるのです。
【潮﨑】たぶん彼は、「負ける気がしない」と言いたいのだと思いますよ(笑)。なんといっても創業から50年間、世界各地で一貫してEDLPを実行し、成果に結びつけてきた歴史があります。震災の5日後に5億円もの寄付をすぐに決定できたのは、例えば日頃から立派なオフィスで仕事をしていないから。「ゴージャスなオフィスで我々が働くことで、それが何かお客さまの価値に繋がるのか?」という精神を米国本社はもとより、世界中が共有して実行しているんです。「物事はエコシステムじゃなければ動かない」、つまりお客さまの価値へと循環していくシステムだけが市場を動かしていける、という発想がここにはあります。
非常にわかりやすい一例があります。日本のスーパーではチラシの活用が当たり前の戦術として長年定着してきましたよね。身近なお買い物メディアとして消費者にも親しまれているチラシですが、これについても「どれだけのプラス効果があるのか」「反面、どれだけのコストを要するのか」を、厳密にチェックしています。闇雲に否定するつもりもなければ、分析せずに信じきることもしない。どんな活動にも「お客様の価値になるのかどうか」という視点でメスを入れていくのがウォルマートなのです。チラシに限らず、「このコストを抑えたら、お客様の価値に繋がるかもしれない」という可能性があれば、私たちはそのすべてにメスを入れているんです。
【ウェリング】EDLP実現の土台となるのはEDLC。つまりエブリデーローコストだからこそ、エブリデーロープライスは無理なく実現していく。双方が揃ったからこそ、365日「KY」を実施できるようになったわけです。2年続けて好業績を達成したことで、サプライヤー(お取引先)との協力関係も強化されています。こうして動き始めた西友のエコシステムの強さを私たちは信じています。
【潮﨑】日本の市場にはウォルマートグループ全体が注目しているのですが、そこにはまったく違う視点もあります。いわゆる同業他社の大手、つまり西友のほかナショナル・コンペティターのトップ10社を合算しても、日本全体の消費市場シェアを6.2%しかカバーしていないという事実。これは市場が成熟した先進国では非常に珍しい状況です。
では残る93.8%はどこが握っているのかといえば、コンビニエンスストアや量販店だけでなく、全国各地に古くから根づいている商店などが分け合っています。見方を変えれば、他の先進国にはない成長の可能性が日本の西友には与えられているということ。だからこそ、ネットスーパーでの大胆なアプローチや、新規店舗開発の再開など、ダイナミックな計画が次々に進行しようとしているわけです。
「頭脳とハート」を併せ持ち、自分に限界を設けなければ、成長の可能性は無限大
では人財について教えてください。非常に大きなグループでありながら、独自性もまた非常に高い企業だと理解しましたので、人財についても独特の考え方があるのではないでしょうか?
【潮﨑】小売業の人財には不可欠な資質が2つあります。1つは論理的思考能力。「RetailはDetail」とはよく言われる言葉ですが、細かな論理性はあらゆる場面で必要となります。ここにいるジョン(ウェリング氏)は、まさに飛び抜けた論理性で成果を上げている人の代表だといえます。
けれども、商品本部ではどんな力が求められるかというと、「この商品はお客さまに歓迎されるかどうか」を判断する力。論理的な裏付けも重要ですが、論理だけで必ず成功できる世界ではないのです。むしろ理屈では証明できない直感的なひらめきが、大ヒット商品を生み出してきたケースもあります。人財担当の私としては難しい課題に悲鳴を上げたくなるのですが(笑)、論理性と直感力、思考力とお客さまの心理を感じ取る感性という、とってもパラドキシカルな二極要素を兼ね備えていてほしいと思います。
【ウェリング】世界のウォルマートグループ共通のパラドクスですね(笑)。考える頭脳と感じるハートの両方。それがウォルマートには必要なんです。サム・ウォルトンが「3つの信条」とともに、いつも掲げてきた「サム・ウォルトンの10カ条」を見てもらえれば、大まかに理解できるはずです。
【潮﨑】「あなたの人生にとって最も価値があるのは何ですか?」と質問されて、「自分の成功です」と答える人は少なくないでしょう。「お金です」と答える人もいるでしょう。それは決していけないことでもありません。けれどもウォルマートには来るべきではない(笑)。心の底から「お客さまに喜んでもらうこと」あるいは「3万7千人のアソシエイトの方々と幸せと成功を共有することです」と答えるような人が活躍できる場所だからです。
【ウェリング】ただし間違えないでほしいのは、ハートばかりでもいけないということ。結果を出すことについては厳しくその力を問われます。また一方でグローバルに活躍したい人にはチャンスもたくさんあります。
【潮﨑】「売上高世界最大」の会社ですから、それだけの規模に見合うチャンスもあるということです。現社長のマイク・デュークも「自分に限界を設けない人ならば、ウォルマートには可能性が無限にある」と言い切っています。その気になれば、アジア、ヨーロッパ、アメリカ、アフリカ...どこででも自分の可能性を追求していけます。
【ウェリング】チームJapanである西友の中にも次々とチャンスが膨らんでいます。潮﨑さんが先ほど挙げたように、コンペティターにはない大胆な成長計画がいくつも進んでいます。頭脳とハートをフル稼働して、アソシエイト皆と協調して前に進もうという人ならば、必ず活躍ができる。私たちはそう信じています。
サム・ウォルトンの10カ条
【1】 自分の仕事に夢中になろう
【2】 利益をパートナーと分かち合おう
【3】 パートナーがやる気を出すようにしよう
【4】 できるかぎりすべの情報をパートナーと分かち合おう
【5】 よいと思ったら惜しみない賞賛を送ろう
【6】 成功を喜び、失敗の中にユーモアを見出そう
【7】 すべての人の話を聞こう
【8】 お客さまの期待を超えよう
【9】 競争相手よりうまく経費をコントロールしよう
【10】 流れに逆らって泳ごう
プロフィール
ジョン ウェリング 氏
執行役員シニア・バイス・プレジデント サプライチェーン・マネジメント本部/情報システム本部
ブラッドリー大学生産工学部卒。シカゴ大学経営学大学院においてサプライチェーンおよびシックスシグマ等について理解を深め、MBAを取得後、米国アクセンチュアに入社。ウォルマートを始めとする米国の大手小売業のコンサルティングを担当後、2006年にウォルマートへ補充担当のバイス・プレジデントとして入社。2011年4月に日本へ着任し、現在では執行役員SVPとしてサプライチェーン・マネジメント本部および情報システム本部を統括しており小売関連ビジネスに関して、非常に幅広い知見と経験を持っている。
潮﨑 有紀子 氏
執行役員シニア・バイス・プレジデント 人財部担当
コーネル大学ジョンソン経営大学院School of Industrial Labor Relations(MPS)/Asian Studies(MA)卒。米国のGEに入社後、米国および日本にてプラスチックス、生命保険、ヘルスケア、金融分野等における様々な人事業務を中心に経験、その後、日本マイクロソフトに入社。同社ではアジアの人事として、コンシューマー&オンラインビジネスを約4年に渡り、リードする。ウォルマートには2010年5月に人財部のバイス・プレジデントとして入社し 現在に至る。
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