2人のパイオニアが振り返る「日本におけるPE」の四半世紀。
そして今、ビジネス界から期待を集めている根源的理由
アドバンテッジパートナーズは2017年、創業25周年を迎えた。1号ファンドの設立からもちょうど20年が経ったことになる。他の業界に比べれば決して長いとはいえない歳月だが、日本におけるPEの草分けとしては、おそらく濃密な25年あるいは20年を経験したはず。思うところはいろいろあるはずだ。
【笹沼】「私たちプライベート・エクイティが高付加価値を企業に提供できる存在だということ。それが今、ようやくこの日本できちんと認識されるようになりました。私たちにとってみれば、そのための25年であり20年だったと思っています」
【フォルソム】「案件数の伸びだけを注目すれば、ちょうど10年前の2007年ごろまでの間にも目覚ましい伸びを示すことができていました。ところがその流れは2008年のリーマンショックをきっかけに、終息してしまったかのように捉えられるようになった」
【笹沼】「ボタンの掛け違いとでもいえるような誤解。よろしくないイメージだけは残っていたけれども、その後、企業が有効な成長手段を再び前向きに検討し始めた時から、イメージは変わり、我々が持つ本来の強みをポジティブに評価してもらえるようになりました」
【フォルソム】「コンサルティングファームや投資銀行などとは一線を画す高付加価値提供集団だ、ということをようやく理解してもらえるようになった結果、案件数のほうも実は2015、2016年に2〜3割も伸びたんです」
日本におけるPE、その歴史が決して順風満帆ではなかったことは、多くの人が知る通り。そして、その評価や印象においても紆余曲折を強いられてきた。パイオニアであるアドバンテッジパートナーズが過ごした四半世紀は、激しい月日の連続だったといえる。ではなぜ今、PEがその強みを理解され、期待を集め、案件を伸ばしているのか? ストレートな質問を投げかけると、2人の創業者は同時に「実績だ」と即答。
【笹沼】「一目瞭然、PEとパートナーシップを結んだ投資先企業のほとんどが、苦境を乗り越え、業界他社と比較しても高率での成長を実現したからです。とはいえ、1つの企業が投資を得たことをきっかけにして再び右肩上がりの成長を示すには、一定の時間や期間が必要です。資金さえあればブレークスルーできるというのなら、なにもPEとタッグを組む必要もない。『投資をするだけでなく、企業のガバナンスに深く分け入り、企業のバリューアップのために投資先企業の皆さんとともに切磋琢磨する』。それが私たちアドバンテッジパートナーズが特に力を注いできたスタイルです。
だからこそ、多くの投資先企業が経営課題を突破したのだ、という自負もあるわけです。そうなればやっぱり成果が現れるまでにそれなりの時間が必要です。創業から25年を経過した今、私たちが手がけた案件が確固たる成功事例になって、多くの人々の目に触れるようになった。かつて抱かれたマイナスイメージをプラスの実態が超えていく時期を迎えたのだと思っています。しきい値をついに超えた。そう捉えています」
【フォルソム】「我々が向き合う対象は、大企業もあれば中小規模の企業もあります。大企業のほうは、数字上のメリットがはっきりすれば、比較的早い時期からでもPEと手を結ぶことを前向きに考えてくれる傾向があります。事実アドバンテッジパートナーズは実績をしっかり積み上げてきたことから、信用をいただくことができました。一方、事業承継を念頭に置いているような中規模企業の経営層は慎重です。信頼できるネットワークを通じたクチコミでの評価が上がってきて初めて行動を起こす傾向があります。そういう意味でも、笹沼が言った時間と期間の経過が大きかった。それなりの時間が経過して、実績と信頼を積み上げる事ができたから、日本のPEは今、支持を獲得できているのだと思います」
ベインで高い実績を築き上げた敏腕コンサルタントの2人が、その地位を捨て、25年前に小さなオフィスからスタートしたのがアドバンテッジパートナーズ。しかし今や同社は業界を代表する存在であり、外資系・国内系を含め多くのPEファンドが活況を示す中でも、突出したプレゼンスを誇っている。では、同業者が増えたことを2人はどのように捉えているのだろうか?
【フォルソム】「確かに25年前に比べれば、競合は増えました。けれどもPEファンドは他の事業会社とは明確に異なる集団です。業界に参入しようと思っても、準備すべき資金からして破格ですから、昨日今日のレベルで次々とPEファンドが乱立したわけではありません。少なくとも5年や10年の準備期間を経て、活動を開始したところばかり。そうして生まれたライバルが今はそれぞれのこだわりをもって活動し、成果を上げています。これは日本の市場全体から見ても喜ばしい現象だと、私たちは捉えています」
【笹沼】「フォルソムの言う通り、日本におけるPEの担い手は増えましたが、5年10年のスパンで振り返った場合、プレイヤーの顔ぶれは変わっていません。私は数年前からJPEA(日本プライベート・エクイティ協会)の副会長を拝命していますが、それぞれに力のあるプレイヤーが長きにわたって顔を並べてきました。そして、ともに刺激をし合いながら活動の質を上げてきたことで、今の活況を迎えています。欧米に比べればまだまだ案件数もファンド規模も小規模ですが、日本のPE市場は確実に拡大し、中身のクオリティも向上しています」
節目を迎えたアドバンテッジパートナーズが示す
「未来」へ向けたアプローチとは?
ここまでは過去25年を振り返るような形で話を聞いてきたが、ここからは今と未来とについて聞いてみよう。大企業からも中小規模の企業からも、PEは有効な高付加価値創造パートナーとして認識されるようになったというが、そんな今、市場では何が起ころうとしているのだろうか?
【笹沼】「企業経営をしているかたがたの目線で言えば、様々な規制緩和を伴ってスタートしたアベノミクスを追い風にしたところは少なくなかったはずです。我々の側としても、例えばM&A局面での株式交換に関する制度が改善されるなどの政府や規制当局がビジネス活性化のために打ち出した施策の数々が追い風になっています。ただし、私が思うに、アベノミクスというのは成長のための一定の猶予期間を企業に与えるための政策です。この『与えられた時間』の間に有効な変革を成し遂げられなかった企業は、そろそろ急いで動き始めなければいけない」
笹沼氏によれば、ここ数年の間に例えば本格的な経営のグローバル化を実現できた企業は、今急速に成長のスピードを上げつつあるという。事はグローバリゼーションだけではない。インターネット、クラウド、ビッグデータの活用といった先進技術の積極導入をてこにして経営改善を目指した企業は無数にあるが、結果を出したところと、中途半端にしか進められていないところとの差は広がる一方だという。
大企業であれば、真の「選択と集中」を実行し、コア事業に磨きをかけると同時に、イノベーションを追求し、新規事業にチャレンジすべき、という理想論をどの会社も追いかけてはいるが、これらを実現できているところはまだまだごく一部。「与えられた時間」に何をすべきか。これはアドバンテッジパートナーズが投資先のバリューアップに携わる中でも大きなテーマになっている。当然のこととして真摯に取り組んでいくべきだと笹沼氏は言う。だが、そればかりでは「次」の時代にPEが期待される役割を果たしていくことにはならない。アドバンテッジパートナーズとしても、すでに定着した上記のような努力の積み重ねに加え、新しい挑戦にも注力を開始しているという。
【フォルソム】「簡単に言うならば、日本で培った知見をアジアで活かしていこう、というチャレンジをスタートしました。具体的にはアジアファンドを立ち上げ、これを通じてアジアの企業への投資を行い、これを軸にクロスボーダーの価値創造に拍車をかけようとしているんです」
【笹沼】「香港、シンガポール、タイといったところでは、もうすでにグローバルな企業が入り込んでいますし、現地企業もグローバルな戦い方を展開してはいるのですが、多くの経営層が日本企業のたどった経営変革の道筋というものに魅力を示しているんです。それゆえ、私たちが数年前に香港で最初の海外拠点を設けた時点でも、カタリスト(触媒)的な動きとしてアジアファンドのような取り組みを期待されたりしました。当時はまだ日本での取り組みに追われてもいて、動けない部分もあったのですが、いよいよ動き出してみると、即座に反響があったんです」
すべての業種からの反響というわけではないらしいが、例えばアジアで日本が高評価を得ている外食産業などでは、日本流の企業価値向上施策というものに熱い視線を送っているのだという。また、「メイド・イン・ジャパン」のクオリティの高さもまたアジアの製造業などではブランド化しており、日本との関係性向上のきっかけにもするべく、アドバンテッジパートナーズに名乗りを上げた中国企業もあるとのこと。
【笹沼】「我々が海外で可能性を追求する、という意味合いだけではないんです。私たちは『ジャパンリンク』と呼んでいますが、日本と世界とをつなぐ存在としても、意味のあるチャレンジだと考えています。
このアジアでの挑戦以外にも、アドバンテッジパートナーズは数々の試みを開始している。その1つが、いわゆるシリアルアントレプレナーを意識した取り組み。
【フォルソム】「近年になって、日本にも次々と異なる企業に投資を行う起業家が登場してきました。斬新なビジネスモデルなどで起業を果たすと、オーナーやファウンダーのような存在として一定レベルまでその企業の成長に携わる。ただし、目標としていたところまで到達した後は、また違う起業や投資に注力しようとするような若い層が膨らんできています。これまで事業承継を望む経営者というと、60代や70代をイメージすることが多かったはずですが、今はこうしたシリアルアントレプレナー的な動きをしている30代や40代のかたから相談を受ける機会が増えています」
【笹沼】「設立から短期間で一気に事業規模を大きくしたようなベンチャーが多いですから、経営上の仕組みや組織はまだ未成熟のところが多くなりがちです。まさしくアドバンテッジパートナーズの強みが生きる案件として、意識し始めているところなんです」
両氏は他にも様々な取り組みについて話す。上場企業株のマイノリティ・ステークでの投資案件もその1つ。上場企業に対し、上場した状態のままで株主として経営に入り込み、これまでの従来案件のバリューアップ同様に改善提案を行い、具体的な実行段階にもハンズオンしていく。「企業経営における株主のあり方を、PEのプロの立場から体現し、世に問うていくためにも」という理念でスタートした1号ファンドが想像以上の反響を呼んだことから、2号ファンドのレイズをすでに計画中とのこと。
日本は「すべてが流動化する社会」に変わりつつある。
PEとそのメンバーはそのカタリストとなっていかなければいけない
設立25周年ということもあり、過去・現在・未来に分けて話を聞いてきたが、2人はその総括ともいうべき結論を用意していた。
【笹沼】「大企業が事業の切り出しを本気で実行し始め、切り出された部門が独立して成長していく道筋を求め始め、ベンチャー企業を興したアントレプレナーがさらなる可能性を外に求め始め、中堅企業がグローバル化や技術の活用を突破口にしようと動き始めた現代の日本は、一言でいうならば流動化を急速に進めているのです。企業や事業の所有権、技術の所有権、人材というものが、めまぐるしく移り変わっていく社会こそが躍動する社会と言える。そのような時代がこの日本にも到来しているんです。そして、まさにこれらの変化において有効に価値を出していけるのがPEという存在」
【フォルソム】「日本がかつて体験した経済的な苦境は『失われた20年』という表現で今もたびたび話題になります。その原因はいろいろ語られていますが、今になってみれば単純明快。当時の日本が固定化された社会だったから。そのせいで世界の変化の波に対応できなかったんです。いまだに『本当に新しいビジネスはアメリカから生まれる。日本からは生まれない』などと言われます。その理由も両国の流動性に大きな差があったからだと私たちは考えています。日本でのPEはたしかに成長を続けていますが、まだまだ動きが足りない。事業の切り出しにおいても、独立においても、多様な事業承継においても、PEが流動化のカタリストとなって活躍できれば、この国は間違いなく良い意味で変わる」
【笹沼】「フォルソムが言うように、日本の大企業はイノベーションを真剣に追い求めているのに、なかなか形になりません。非常に優秀な人がそろっているのになぜなのかといえば、流動化が進まない中でリビング・デッド状態になっているから。PEが今以上にカタリストとなって成果を上げれば、誰もが生き生きと仕事に取り組み、リビング・デッド状態から抜け出して、イノベーションを実現できるはずです」
フォルソム氏は言う。「そんな大きな使命をもって、自らを高めていきたい人こそがこれからのPEには必要」なのだと。そして、笹沼氏もこれに続く。
【笹沼】「昔の日本では、弁護士や会計士などといった士業が、プロフェッショナル・キャリアの象徴でした。その後、時代は変わり、コンサルタントやインベストメントバンカーという存在がプロフェッショナル・キャリアとして認知され、これを目指す人が増えていった。私やフォルソムがそうです。けれども2人で作ったこの会社が25年を過ぎた今、PEは最も新しいプロフェッショナル・キャリアなのだと言い切れます。様々な知識、スキル、知見が問われる存在ですが、言い換えればあらゆる経験や知見を活かしていける総合格闘技のようなキャリアです。ダイナミックな流動化社会への道を突き進むこれからの日本で、そして世界で、変化と成長の触媒になり、世の中に貢献していきたいと望むかたがいれば、ぜひお話を聞かせてほしいと思っています」
プロフィール
笹沼 泰助 氏
代表パートナー
慶應義塾大学法学部卒業。同大学院ビジネススクールにてMBA取得。
ハーバード大学ジョンエフケネディ政治行政大学院にてMPA(行政管理修士号)取得。
積水化学工業に入社。営業、人事、経営企画、新規事業プロジェクト等々で実績を上げた後、ベイン・アンド・カンパニーおよびモニターカンパニーにて日米欧有力企業の戦略立案や収益性改善計画の立案・実行などに従事。1992年、ベイン・アンド・カンパニー時代の同僚であったリチャード・フォルソム氏とともにアドバンテッジパートナーズを設立した。主な研究論文、寄稿記事に「ベンチャー企業に見られる新しい競争原理」、「日本のベンチャー企業の競争戦略」、「日本企業の買収後の統合戦略」、「中堅企業の長期計画」、「ベンチャー企業の競争戦略」などがある。
リチャード・フォルソム 氏
代表パートナー
ブリガムヤング大学卒業。ペンシルバニア大学ウォートン校にてMBA取得。
大学を卒業後、ベイン・アンド・カンパニーの東京オフィスに入社。欧米有力企業の対日参入戦略の立案や、大手日本企業の企業戦略立案、個別事業の戦略立案、新製品開発プログラムの実施、コストダウンプログラムの実施等々に従事。そして1992年、ベイン・アンド・カンパニー時代の同僚である笹沼泰助氏とアドバンテッジパートナーズを設立、共同代表パートナーに就任した。主な研究論文、寄稿記事に「日米企業の経営スタイルの比較」、「国際多角化機会としての新興株式市場」、「欧米企業の日本参入戦略における誤謬」などがある。
プロフィール
馬場 勝也 氏
パートナー
東京大学教養学部卒業。ハーバード大学ビジネススクールにてMBA取得。
新卒でベイン・アンド・カンパニーに入社。幅広い業界を対象に事業戦略、コスト削減、店舗網再構築、マーケティング・チャネル戦略、対日参入戦略などの策定および実行に従事。その後、ニュー・メディア・ジャパンの設立メンバーとして、eコマース/ソフトウェア関連ベンチャーのインキュベーション活動に従事。そして2002年、アドバンテッジパートナーズに参加。これまでにポリゴンピクチュアズ、日本海水、ザクティ等を担当。現在は人材採用のリーダーも担っている。
村上 諒陛 氏
アソシエイト
早稲田大学商学部卒業。
大学卒業後、新卒でアクセンチュアに入社。約3年間の在籍中、コンサルタントとして主に電機メーカーや通信業界等の企業に対し、新規事業戦略立案・立上支援、アライアンス戦略立案、在庫最適化等のプロジェクトに携わる。2015年にアドバンテッジパートナーズ入社。
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