デロイト トーマツ ベンチャーサポート(以下、DTVS)を象徴する活動ともいえるモーニングピッチについて教えてください。
【西山】DTVS単体ではなく、当社の思いに賛同してくださった野村證券もまた幹事会社となって、2013年1月から開催し続けているイベントです。東京にある新宿野村ビルの会議室で毎週木曜日、朝の7〜9時に開催しており、これまでに100回近くの開催実績、累計約400社以上の登壇実績を持ち、累計の参加者も3000名を超えました。
一言でいうならば、ベンチャー企業と大企業の事業提携を生み出すプラットフォーム。オーディエンス参加者は、大企業の経営企画や新規事業開発部の方が多く参加され、ベンチャーキャピタルや銀行等の資金の出しての方も参加しています。
当初のスタイルと今とでは、だいぶ中身が違ってきていると聞きましたが、どのような変化があったんでしょう?
【西山】当初は10名程の会で、IT系企業のみに登壇して頂いておりました。IT企業は、注目を浴びている業界であり、投資家や協業を望む大企業からの期待も高いから、ということでした。しかし私はDTVS入社後すぐ「モーニングピッチを任せて欲しい」と直談判し、対象とする登壇企業の枠をすべての業種に広げました。IT企業以外にも魅力のあるベンチャーが多く存在することを知っていましたし、一方で非IT企業であるモノづくりやヘルスケア、環境、エネルギー等、はIT企業ほど資金を始めとする支援が十分でないと常々感じておりました。
さらにイベント自体の目的もより明確化しながら、プログラムを再構築してもいきました。予め登壇予定のベンチャー企業を全て訪問し、当日どのような構成でどのようにお話して頂くか、今後事業展開していく上でどのような企業と事業提携やアライアンスを検討しているか、について議論させて頂いております。そしてその内容に基づいて、親和性の高い大企業のかたがたを当日オーディエンスとしてお招きすることで、より効率的に事業提携を生む座組みを整備しています。
私たちはあえて「プレゼン4分、質疑応答16分」という構成にしておりますが、質疑応答の時間が圧倒的に長い理由は、起業家と大企業あるいは投資家との間に双方向のコミュニケーションによって、よりお互いの理解を深めて頂きたいからです。一方通行のPRのための会にしてしまうのではなく、言いたいこと、聞きたいことを存分に交換できる場にしたかったのです。
スタイルの変更はどんな効果につながったんでしょう?
【西山】熱量が変わりました。参加するかたがたの真剣味がグッと高まる効果が生まれたんです。16分間の質疑応答タイムでは収まりきれないくらい質問が相次ぐケースも頻繁になりました。また、人気あるIT領域限定からオープン化した当時は「大企業などからの参加者が減ってしまうのでは」と危惧する声もあったので、私たちのほうからアプローチして、「1度でいいから覗きに来てください」などとお願いをしていった経緯もあるのですが、会場で熱いやりとりに直面し、次からは進んで参加してくれるようになった大企業もたくさんあるんです。
こうなると、朝という時間帯に開催することの意味も変わってきます。当初は「皆さん多忙だから朝に」だったのが、今では「始業前の朝なのに、わざわざ足を運んでくれるほど前向きな人と会える」という価値につながっています。ベンチャーにとってみれば「朝の7時だというのに来てくれるような熱量の高い大企業担当者と出会える」というのは本当に意義のあることなんです。
最近では私たちがお願いをしに行かなくても、毎回100名以上の参加者が集まります。開催時間中にきわだって親和性の高かったベンチャーと大企業があれば、9時以降に朝食会と称して個別具体的に話し合ってもらったりもしています。単なるカンファレンスイベントでも出会いの場でもなく、実質的なビジネスにつながる場にもなってきています。
モーニングピッチ以外ではどのような動きをしているんでしょう?
【西山】実はモーニングピッチがメディアなどでも取り上げられ、ベンチャー、大企業の双方でもクチコミが広がったため「DTVSってイベントをやっているところでしょ?」と誤解される場面が増えてきました。もちろん、イベントだけが我々の仕事ではありません(笑)。個別のベンチャー企業の実態を聞かせてもらい、経営状況を分析しつつ、「次に打つべき手」が何なのかを経営者のかたがたと話し合い経営戦略の策定、成長支援を行っております。
「この会社が持っている技術力ならば、あの大企業との協業が可能なのではないか」ですとか、「資金調達ができれば、さらに成長曲線を引き上げられる。ならば、どのタイミングでどこからどういう投資を受けるのが最良か」、「資金調達した後の人材採用戦略や組織作り」というように、局面ごとの課題や可能性を追求しながら、その実行のお手伝いもしています。
デロイトトーマツグループには、企業のあらゆる成長ステージに貢献できる知見やネットワークが蓄積されていますし、国内外に拠点も持っています。それらを適宜有効活用しながら、ベンチャー経営者とともに成功を模索するのがこのチームのミッションなんです。
もちろん、大企業との協業を目指す場合にはDTVSの大企業チームとともに動きます。地域活性を目指す上で自治体との協調が鍵を握るようなケースであれば、政策チームと連携しながら成果の最大化を目指していきます。DTVSがプラットフォームとなり、エコシステムの先導役となることで、多くの可能性を成果につなげていきたいと思っているんです。
現在のチームメンバーは10名弱で、新たなメンバーを求めているとのことですが、ベンチャーチームで活躍できる人材とは、どのような資質の持ち主なのでしょうか?
【西山】我々のチームは生え抜きのメンバーではなく、ほぼ全員が転職組で構成されています。私自身は起業と大企業の両方を経験した人間ですが、他にも戦略コンサルティングファームを経てシリコンバレーのベンチャーキャピタリストを経験した者や、ニューヨークで大手監査法人のメンバーとして働いた後に医療法人を立ち上げた経験を持つ者などなどが在籍しています。要するに、多様すぎるほどバラバラなバックボーンの集合体(笑)ですが、これがいいと考えています。
DTVSの中でも特にこのチームは深くベンチャー企業の経営に入り込んでともに動く存在となりますから、例えば知財に通じている人であったり、最先端テクノロジーに携わってきた人であったり、ベンチャーのファイナンス領域で実績を上げてきた人であったり、具体的に直接貢献できるスキルを持っている人は大いに歓迎します。起業経験者や大企業で新規事業担当だった人などにも関心を持ってもらえたら嬉しいですね。ただし、単に多様な専門性の集合体を目指しているわけではありません。
大前提として持っていて欲しいのは、ベンチャーが好きだということ。0から1を生み出すイノベーションが好きだということ。そして何より、「今の日本を、この社会や経済を、変えたい」と強く望んでいること。そういうマインドセットを求心力にすることで、多様なメンバーが1つになれるし、その結果、チームとしての遠心力を最大限に発揮していけると考えています。
まだ再始動から数年のDTVSですが、「お互いをリスペクトしながら対等に議論する」というのが私たちのカルチャーとして根付いています。「評論家ではなく実行者たれ」「スピードあるベンチャーをさらに圧倒するくらいのスピードで動く」という共通認識もあります。そうした部分にも共感し、十分やっていけると思えるかたがいれば、ぜひ参加してほしい。一緒に社会を変えていきたいと願っています。
▶ アドバイザリーサービス事業部長 本田 知行 氏 / 岡田 哲意 氏 インタビューへ続く
インタビュー1
西山 直隆 氏
事業開発部長
19歳で起業を果たし、約2年間にわたり経営の仕事に就いたが、その後会社を売却。一転して大手飲料メーカーに入社し、大企業のメンバーとしての仕事を経験した。在籍中、グループ企業を上場させる任務を担い、ベンチャーと大企業の違いというものを身を以て体験したことから、「自らIPOを目指した経験と、大企業にてIPOに携わった経験を活かして、今後IPOを含め成長思考のあるベンチャー企業の成長に貢献したい」との思いを強め、2013年にDTVSへ入社。ベンチャーチーム、大企業チーム、政策チーム、海外チームの4つに大別されるDTVSの組織の中、ベンチャーチームのリーダーとなって活動を展開。ベンチャーの成長支援にダイレクトに関わるだけでなく、大企業や地域経済の活性化にも関与している。
この企業へのインタビュー一覧
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