ヘルスケア業界(医薬品、医療機器、医療IT、他)の現状と展望
ヘルスケア業界は今、世界中で大きな変革期を迎えている。高騰する医療費、後発薬の急拡大、新たなテクノロジーであるデジタル・IoT・ビッグデータ、AI、ロボット他よるヘルステック対応、そこからの新たな競争相手の出現、医療バリューチェーンの分化・進化、M&Aやアライアンス、会計や税に関する問題、新興国・途上国への対応などだ。
この環境変化が今まではゆったりとした時間の中で大型新薬や新製品の出現を待っていれば良かった企業に全く違った動き方を取るように促し始めている。
世界中で意思決定のスピード、改革のスピードが早まり、イノベーション等劇的な変化が起こっている。このように業界は大変チャレンジングな時代に突入し始めている。
また、この業界は社会に大きく貢献している業界でもある。これほど人類に貢献している産業は他にあるだろうか。
健康で豊かな人生を送りたい。という誰もが持つ根源的な思いに応え続けて来たのだ。先進国でも途上国でも命の尊さに変わりはない。
これからのヘルスケア業界は従来からの使命感に満ち溢れた世界観はそのままに、大きな成長とイノベーション、凄まじいスピードと変化を体験できる最もエキサイティングな業界となるだろう。
1.大きな市場規模と多くの雇用を生み出している
日本の国民の医療費支出は厚労省によると2019年に43.9兆円。同じく厚労省の2021年の予算案概要によると医療費の国負担は約12兆円と非常に大きい。今後も高齢化社会がますます進む中で医療費の抑制は避けられない課題で待ったなしの状況である。また高齢化の進展に伴い、がん等の患者も増加し医薬品やヘルスケア産業そのものの縮小は考えづらい状況である。
現在の国内医薬品の市場規模は約10兆3700億円(注1)、医療機器は約3兆円 (注2) 、ドラッグストアは約7兆8千億円(注3) 医療ITは約150億円(注4) 介護に関しては2025年までに約18.7兆円(注5)に伸びると予想、と大変大きな市場規模となっている。
今後の成長も見込まれ、日本の基幹産業の一つといっても差支えないであろう。
2.成長産業である
厚生労働省によると我が国に於ける医療費は2020年に43.9兆円、2030年には約62兆円と予想されている。
みずほ銀行産業調査部のレポートによると、ヘルスケア産業 (注1)の2018年における市場規模は約55兆円(医療サービス43兆円、医薬品9兆円、医療機器3兆円)。2040年にはヘルスケア産業全体で100兆円の規模となる予想がなされている。
このようにヘルスケア産業は継続的な伸長が予想されている数少ない産業である。経産省調査によると世界市場は毎年9%以上成長している。また、国家戦略の一環として、健康寿命の延伸、医療費の削減とともに雇用の創出、国際競争力の強化を掲げており一層の成長が期待されている。
3.大きなイノベーションが起きている業界
がんや認知症などを治療する研究や創薬領域に於いても大きなイノベーションが起こっているがそれだけでなく、IT・デジタル+ヘルスケアの変革は凄まじいものがある。GAFAと呼ばれる企業群は相次いでヘルスケア産業への参入をしているし、異業種からの参入も相次いでいる。医療のオンライン化 すなわち、電子カルテ、遠隔診断/治療、AI活用、ウエラブル端末、ロボットが注目を集め、実用化が進んでいる。特に今回のコロナ禍においては、医療のデジタル化の推進が進み、従来の診療体制からの変化は避けられないであろう。それに付随したこれまでにないサービスが今後も行われるはずである。
また、前述のとおり医療費の膨張が止まらず抑制をいかに行うかは大きな課題である。「治す」というアプローチだけでなく、病気になる前に防ぐ「予防」や「診断」というキーワードが重要になる。人々のQOL向上や医療費抑制にも寄与できる取り組みが必要となる。
4.新興国の発展とその取り込みで更なるチャレンジ
新興国は益々発展し豊かになり中間層が増えることで生活の先進国化により肥満や糖尿病等の生活習慣病などが増加している。医療費の高騰から国の財政を圧迫し始め、薬価の高い新薬でなく後発薬が必要となる。そのため、より一層従来の大手製薬会社と後発薬企業との提携や資本参加などが加速すると考えられる。
今は米国、日本、欧州が大きなマーケットであるが新興国市場からは目が離せない。現時点でも我が国の医薬品及び医療機器は輸入が輸出を大きく上回っており著しく競争力が低い。世界で闘えるヘルスケア企業の誕生に期待したい。