日本のライフサイエンス市場は、急速な高齢化や医療費の増大、技術革新を背景に、今後も継続的な成長が見込まれています。特に、再生医療および診断領域は、高付加価値の創出が期待される注目分野であり、国内外の主要企業が積極的に投資・事業展開を進めています。
本記事では、該当分野の市場動向に加え、主要企業の得意領域や直近の話題を概観します。
再生医療領域:政策支援と産業化が進展
再生医療は、細胞や組織を用いて身体機能の回復を図る治療技術であり、日本では高齢社会への対応策としても注目されています。政府は「特定再生医療等製品」制度や薬事承認プロセスの迅速化など、法制度面での整備を積極的に進めています。
主な企業の取り組み● PHCホールディングスは、自動細胞培養装置「LiCellGrow」の開発を進めており、カナダのCCRMとの共同研究により、T細胞培養プロセスの効率化を目指しています。
● キッズウェル・バイオは、乳歯歯髄由来幹細胞(SHED)を用いた治療技術の臨床応用を推進。脳性麻痺や骨疾患等を対象とした治療法開発に注力しています。
● テルモおよびアンジェス×田辺三菱製薬は、再生医療等製品(「ハートシート」「コラテジェン」)の事業化を試みましたが、いずれも2024年に承認取得を断念し、販売を中止しています。
診断領域:個別化医療と早期発見への貢献
診断技術は、感染症やがん等の早期発見に加え、個別化医療の基盤としての重要性が高まっています。分子診断や遺伝子解析技術の進展とともに、検査精度の向上と時間短縮が急速に進んでいます。
主な企業の得意領域● サーモフィッシャーサイエンティフィックは、PCR技術や分子診断に強みを持ち、研究から臨床応用まで幅広い診断ソリューションを展開。
● メルク(Merck KGaA)は、診断用試薬・抗体開発に加え、細胞培養やタンパク解析の基盤技術にも注力。統合的な診断研究基盤を提供しています。
● ダナハーグループ(Danaher)は、バイオテックおよび分析機器領域で複数ブランドを展開。遺伝子解析、液体クロマトグラフィー、イメージング分野で競争優位を築いています。
● H.U.グループホールディングスは、臨床検査サービスの最大手として、検査の標準化・自動化に取り組むとともに、デジタル化による効率化にも注力。
注目された最近の話題・トレンド(2024〜2025年)
● PHCホールディングスのLiCellGrow開発は、再生医療製造工程のDX化として高く評価され、国際連携も進んでいます。● キッズウェル・バイオのSHED技術は、幹細胞治療分野での新しいアプローチとして業界内で注目を集めました。
● テルモ、アンジェス/田辺三菱製薬の撤退は、再生医療の事業化の難しさを象徴する動きとして話題となりました。
今後の展望
再生医療では、自動化や製造プロセスの標準化による実用化の加速が見込まれます。診断分野では、AIとの統合や遠隔診断技術の拡大により、医療現場の生産性向上と精度強化が進むと考えられます。また、規制緩和や公的支援を受けた中小ベンチャー企業の台頭により、大手とスタートアップによる協業の動きも加速していく可能性があります。
まとめ
再生医療と診断は、日本の医療課題を解決する鍵を握る分野として、今後も重要な役割を担っていくと考えられます。企業の技術的強みや、政策動向を継続的にウォッチしながら、市場の構造変化に対応していくことが求められます。