ヘルスケア業界の概況と課題
製薬業界の概況と課題
約10兆円の市場規模(注1)を誇りかつ成長が見込める産業であるが、新薬を開発するための難易度は大きく上がっている。現在の薬よりも有効な新薬開発は技術的にもそうだが当然、安全性の欲求も高くなり容易ではない。そのため製薬各社は大学やバイオベンチャー企業から創薬のためのシーズを積極的に導入している。米国ではすでに創薬の源の半分以上がこのような大学やベンチャーとの提携によるものとなっている。
メーカーにはこれまでのような自社開発力はもとより、ベンチャーの開発する候補品の目利きを行う力が重要になってくると予想される。
研究・開発・製造・販売と分けられるが前2つの研究・開発はリスクが高く数百億掛けてもリターンが見込めないことも考えられる。そのためどのようにリスクをヘッジするかが経営を大きく左右する。一方、製造と販売はリスクが低いがリターンも高くないため徹底的な効率化が求められる。このように、これからの製薬企業は自分たちの強みを活かし、弱みを補完するための他社とのアライアンス、投資・M&A、アウトソーシング、IT他を活用した効率化など多方面にわたる変革が求められている。
また、最近の動向で見逃せないのは薬を開発する 以外のビジネスモデルの確立だ。例えばアステラス製薬はバンダイナムコと協業で運動支援アプリの開発を行っているし、エーザイは東京海上日動火災保険と業務提携を結び、▽認知症の疾患啓発▽認知機能セルフチェックを日常的に行うための環境整備▽保険商品の普及策の検討――などに取り組むと発表している。
大日本住友製薬はフロンティア事業を成長ドライバーと位置づけ、デジタルヘルスケアテクノロジー企業のAikomiと、認知症に伴う行動・心理症状を緩和する医療機器を共同で研究。ロボットを自分の体のように動かすサイボーグ技術の実用化を目指すメルティンMMIにも出資し、同技術を利用した医療機器の共同研究開発契約している。
アラウンドザピルの概念の元、薬を用いた治療以外の患者さんへのアプローチが模索されている。
(注1)IQVIA2020年医薬品市場統計売り上げデータ より
医療機器業界の概況と課題
11兆円の医薬品と比較すると劣るが3兆円規模の産業は決して小さくはない。しかしながら圧倒的な輸入過多となっている。グローバル企業に比すと規模が圧倒的に小さいことで研究開発投資が十分でないことや治験に時間がかかり過ぎるという国内事情から競争優位性は高くないのが現実となっている。医薬品と同様に生活習慣病患者の増加から市場規模は伸びて行くことが予想されている。
医療用機器は従来に比べてより高度化・複雑化・多機能化が進んでいる。以前は例えばプラスチック素材だけであったものも金属他の複合素材を用い、機械・電気の技術を活用し高機能化を目指してきた。そのため1社で全て完結するのではなく、アライアンス、M&A、OEMが必要となってきている。医療機器業界にも新たなプレイヤーが今後続々と参入することが予想され今の勝ち組企業が明日も残っているかはどうかが分からないほどの様相を呈している。しかし、業界自体は成長産業なのでこの業界で力あるビジネスパーソンの将来は明るいと言える。
ヘルスケア周辺産業の概況と課題
医療には予防・診断・治療・改善のプロセスがあり、その領域で各企業が活躍している。また、老人ホームや介護産業もヘルスケア産業と位置付けられており、フィットネスなどの健康増進産業、サプリメントや健康食品もその範疇である。
しかし、ここでは特に弊社の候補者の関心が高い医薬品、医療機械のプレイヤーに対してサービスを提供している企業を取り上げてみたい。
その中でも特にデータベース、医師や医療従事者向けの転職支援、またはプラットフォームビジネスに注目したい。代表的な企業にエムスリー社がある。日本全国の30万人の医師の約8割がこの企業のサービスを利用しており医師向け情報提供サービスのデファクトと言える。このデファクトとなったプラットフォームを活用して、企業のマーケティング支援、医療従事者の転職支援、最近では治験の支援にまでそのサービス領域を広げている。また、レセプトのデータベースとしては日本医療データセンター社(JMDC)が日本最大である。JMDCは200万人近くのデータを蓄積活用している。これからの更なる発展も期待できるだろう。
業界についてのまとめ
繰り返しになるが、
1)ヘルスケア産業は産業としては大規模な産業であること。また、医療費の高騰が問題になっていること。
2)成長産業であること。かつ政府がその成長を促進しようとしており将来に渡り有望であること。
3)古い産業でありながら今爆発的なイノベーションが業界で起こっていること。
4)今後新興国、途上国に於いて更に期待されていること。
そして、何よりも人類に対して実に大きな貢献をしている産業であること。 今まであまりヘルスケア業界に興味や関心が無かった方も是非これを機にチャレンジして欲しい。