ヘルスケア業界の概況と課題
製薬業界の概況と課題
IQVIAが2024年2月26日に発表したレポートによると、日本の医薬品業界は2023年度初めて11兆円を突破した。特にオプチーボに代表されるような、オンコロジー領域の売り上げは2兆円に迫っている。業界を俯瞰的にみると、順風満帆な業界に見えるが決してそうではなく、業界課題や構造の変化が起こっている業界である。
一例としては2020年から始まった新型コロナウィルスのパンデミック以降感染症領域である。コロナが5類へ移行されたのち、インフルエンザが年間を通して流行するという事態に陥り、治療薬は引き続き活況を呈しているが、コロナのワクチン事業や診断関連事業は国からの買い上げもなくなり、一時ほどの勢いを失っている。新型コロナウィルスが製薬業界に大きなインパクトを与えたのは疑いようのない点である。
また、2020年の小林化工の健康被害に端を発した医薬品の供給不安は収まることがなく今なお業界全体の大きな課題となっている。問題発覚後、ジェネリック医薬品を中心に複数の製薬企業が手順書通りの製造を行っていないことや、適切な品質試験を実施していない等の問題が出た結果生産量が不足が発生してしまっている。生産量を早期回復することはもちろんだが業界全体の信用回復が至上命題となっている。
新薬開発においても、新薬を開発するための難易度は大きく上がっている。現在の薬よりも有効な新薬開発は技術的にもそうだが当然、安全性の欲求も高くなり容易ではない。そのため製薬各社は大学やバイオベンチャー企業から創薬のためのシーズを積極的に導入している。米国ではすでに創薬の源の半分以上がこのような大学やベンチャーとの提携によるものとなっている。
メーカーにはこれまでのような自社開発力はもとより、ベンチャーの開発する候補品の目利きを行う力が重要になっている。メーカーに求められる機能としては 研究・開発・製造・販売と分けられるが前2つの研究・開発はリスクが高く数百億掛けてもリターンが見込めないことも考えられる。そのためどのようにリスクヘッジするかが経営を大きく左右する。M&A等積極的なパイプラインの拡充を各社図っているが、必ずしもうまくいくケースばかりではなく、いくつかの企業では新薬候補がなかなか見いだせないまま主力製品のパテントクリフを迎えてしまい巨額の赤字を計上するケースも出てきている。
このように安定産業と言われる医薬品業界であるが、事業形態によって様々な経営課題を抱えている。採用の面においても、営業職・開発職のような職種のニーズも引き続き強いが、答えのない課題に挑める経営企画や事業開発関連のニーズが日々高まっている印象である。
業界についてのまとめ
1)ヘルスケア産業は産業としては大規模な産業であること。また、医療費の高騰が問題になっており、社会課題に向き合っている産業であること。
2)規制産業であるが、成長産業であること。それも緩やかに継続的に成長を続けているサステナブルな産業であること
3)古い産業でありながらイノベーションが常に繰り返されていること
4)世界市場から見ても、日本は3番手に位置する巨大市場であること
今後の高齢化社会を鑑みても、必要不可欠でありニーズは高まっていく業界である。 他産業と比べても所得水準も比較的高く、社会的意義も非常に強い業界でもあることから身を置く業界としても魅力的な業界ではないだろうか。