はじめに
日本の製薬・ヘルスケア業界は、近年著しい成長と構造変化を遂げています。本稿では、2025年時点の最新情報をもとに業界の概況と主要課題を整理し、特に人材採用の視点からの分析を加えます。
市場概況
医療用医薬品市場の推移
2024年、日本の医療用医薬品市場は約11.5兆円に達し、オンコロジー領域を中心に成長を続けています。世界的に見ても日本は依然として医薬品市場のトップ3に位置づけられており、今後も一定の成長が見込まれる分野です。
感染症領域の変化
新型コロナウイルスのパンデミックを経て、感染症領域では以下のようなトレンドが見られます。
● COVID-19関連市場の縮小:ワクチン・診断薬市場は縮小傾向。
● インフルエンザの通年流行化:予防・治療薬に対するニーズは引き続き高水準。
これにより、感染症市場全体が新たなフェーズに移行しつつあるといえるでしょう。
構造的課題と業界の動き
医薬品供給不安の継続
近年、ジェネリック医薬品を中心とした供給不安が業界課題として継続しています。背景には以下の要因があります。
● 製造手順の不備や品質試験の未実施といった管理体制の脆弱性
● 行政による是正指導の影響による生産縮小
● 一部企業の市場撤退による品目の偏在化
この状況を受け、業界全体で品質保証体制の強化と、供給安定化に向けた体制整備が急がれています。
新薬開発とイノベーションの方向性
新薬開発は引き続き難易度が高く、以下の傾向が見られます。
● 自社創薬だけでなく、大学やバイオベンチャーとの連携(オープンイノベーション)が加速
● 創薬シーズの選定力、アライアンスマネジメントが企業価値の鍵に
● 膨大な開発費(数百億円規模)に対するリスクヘッジとしてのパートナー戦略
これにより、従来の製薬ビジネスモデルから、より柔軟でネットワーク型の創薬戦略へのシフトが進んでいます。
パテントクリフと経営戦略の多様化
主力製品の特許切れ(パテントクリフ)は収益構造に大きな影響を与えます。これに対し企業は以下のような戦略で対応しています。
● M&Aによるパイプライン補強
● 市場多角化・海外展開の強化
● ジェネリックやバイオシミラー分野への進出
一方で、思惑通りに候補品が得られないケースもあり、戦略の見直しを迫られている企業も増えています。
人材採用市場の変化と注目点
ニーズの多様化
業界内で求められる人材像にも変化が見られます。従来からニーズの高い「営業」「開発」「生産技術・品質」職種に加え、以下のような職種への関心が高まっています。
● 経営企画・事業開発職:戦略立案から新規事業の立ち上げまでを担える人材
● デジタルヘルス関連職:AI・ビッグデータを活用した新しい医療サービス構築に関与するポジション
● アライアンス・パートナーシップ担当:外部連携による創薬推進を担う中核人材
ヘルスケア業界は一般的に業界内での転職が大部分を占める、所謂「クローズドマーケット」ですがこのような職種は、必ずしも製薬業界出身である必要はなく、異業種からの人材流入も進みつつあります。
採用市場の課題と対応
変化するニーズに対し、各社は以下の取り組みを進めています。
● 柔軟な働き方の整備:リモートワーク導入や副業制度など、候補者の多様なライフスタイルに対応
● 報酬設計の見直し:高付加価値人材の確保に向けた報酬水準の最適化
● 育成と定着支援:ポテンシャル採用とOJTを組み合わせた長期戦略
採用競争が激化するなか、企業にとっては「採用力=経営力」となる時代に突入していると言えるでしょう。
まとめ
日本の製薬・ヘルスケア業界は、依然として大規模かつ成長性のある産業である一方、多くの構造的課題を抱えています。とりわけ「人材」の確保・育成・定着は、業界全体の競争力を左右する最重要テーマです。企業と人材の最適なマッチングを支援する転職エージェントの立場から、今後も業界の動向を注視し、価値ある情報発信を継続してまいります。