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CFOの仕事術

PEファンド出身CFOの「CFOらしくない」仕事術

「SaaSの事業運営が特別難しくない」とさらっと語ったHRBrain CFO・井出氏とテックタッチ CFO・中出氏。そんな二人の実力を表し、かつ今回の対談の声かけのきっかけとなったのが、2022年以降にそれぞれ約18億円の調達を行ったことだ。資金調達に苦戦するスタートアップが多いなか、それぞれいかにして大型調達を実現したのか。二人の今後のキャリアについても語って頂いた。

【後編】スタートアップ冬の時代における資金調達・キャッシュマネジメントの考え方
~成長と利益を両立させるためにどのような舵取りを行っているか〜

<直近の資金調達について>

【中川】次に、一般的にはCFOのメイン業務と言われるファイナンスについて深掘っていきたいと思います。2022年の2月にHRBrainが18億円調達した際に重視したことや苦労したことをお伺いできますか?

【井出】重視したのは投資家の方の相性ですね。色々なネットワークで特徴を聞くなどして、当社の事業への共感やフィーリングが合うかはかなり重視しました。調達の準備は2021年の夏頃からスタートしたんですが、スタート当初から市況に怪しい雰囲気が出てきていたので、ディールをいかに早くクロージングするかは意識しましたね。

これはインテグラル時代に叩き込まれたことですが、M&Aでも資金調達でも「契約を結んで緩む人は大体失敗する」と言われていました。資金調達は、着金して初めて完了ですし、M&Aも、譲渡して資金が動いて初めて完了です。そこまで一切油断せずにクロージングをやり切ろうとしていました。

実際、市況があれだけ最後に崩れたので、崩れる直前に何とか間に合ったという感じで、そこは本当にしっかりやって良かったなと思っています。

【中川】そこで調達したから今があるということですよね?

【井出】はい。「あのタイミングでなければ結構大変だったよね」って話をするときあります。

【中川】中出さん、テックタッチは2023年1月に17.8億円の調達をされていますが、どんなことを重視しましたか?

【中出】しっかりとしたバリエーションで長いランウェイ(企業がキャッシュ不足に陥るまでの残存期間)を取りにいく。これに尽きますね。バリエーションにこだわり過ぎてランウェイが短くなるなら本末転倒ですし、安い金額でランウェイを延ばすのも良くないので、そのバランスを取らなきゃいけない。僕は、ランウェイを延ばすことを一番重視しました。SaaSのマーケットもクラッシュしていましたし、インフレも加速してるのは目に見えていて。資金調達2ヶ月後のシリコンバレーバンク破綻は予期してなかったですけど、確実に利上げの影響が出るだろうなとは思っていました。まだ実体経済への影響は少ないですが、2年くらい前から「今年こそ危ない」と僕は言い続けているんです。影響が出るのが遅れているだけと思っているので、ランウェイを長くすることはずっと意識していました。

【中川】2年も前から意識されていたんですね。HRBrainさんの1年後の調達ですが、やはり苦労されましたか?

【中出】ありがたいことに、そんなに苦労はしなかったんです。既存の投資家さんからの評価もとても厚かったので、そこのプロラタ(投資家の持ち分比率に応じて新たに資金を拠出する事)も配慮されていましたし、シリーズAから引き続きDNXさんが今回もリードしてくださった。やっぱり既存のリードがあると比較的座組みを形成しやすくなるので、資金調達もうまくいきやすいです。

また今回、比較的CVCさんや大企業系のVCさんが多めに入ってくださいました。これは、私たちのプロダクトが大企業さんとの取引が多いので、シナジーがあるだろうという想定で入って頂いています。一社さんに頼む、また多額のリードをお願いするのはすごく大変だと思うんですけど、小口で集めるのは比較的やりやすかったんですよね。

【中川】さすがの一言ですね。最近はやっぱり苦労している会社が多いので。

【井出】バリエーションについての補足なんですが、要は高ければいいってもんじゃないっていうのが僕の意見なんです。
 起業家の中には「いけいけどんどん」でバリエーションを上げられるだけ上げていくという発想の方もいると思うんですが、幸いなことに、当社代表の堀は高くし過ぎると自分の首を絞めるってことが分かっています。とは言っても謙虚になりすぎる必要もなく、当社はいいバランスにしようと意識していましたし、実際そうなったと思います。

<ハードシングスへの備え方・資金の使い方>

【中川】現職で出会ったハードシングスについてお伺いしたいんですが、いかがですか?

【井出】小さいのは数えきれないほどありますけど、今のところハードシングスと呼ばれるほど大変なことはあんまりないかもしれないですね。

【中出】僕もないですね。最近のスタートアップ業界は割と恵まれていて、ハードシングスになりづらい気もします。例えば金融危機が起こったりすると、多くのスタートアップの経営が大変になるとは思うんですけど、きちんとかじ取りができていて、加えて事業がしっかり伸びていれば何とかなると思っています。

【井出】極論、キャッシュさえあれば多少業績が落ちてもやり直せるし挽回できるかと思っているんですけど、キャッシュが尽きれば終わってしまいます。この1年ぐらいは、コスト意識の重要性は、執行役員以下のメンバーに相当きつく言っています。

【中出】僕もです。

【井出】接待交際費など数万円でも「これ何?」「こんなにメンバー行く必要あるの?」と。基本的にはOKするんですけど、「見てるよ」ということを伝えるために敢えて言っています。

【中川】最近になって「成長と利益を両立させましょう」という機運が高まってきていると思うんですが、それ以前は「赤字を掘ってでも成長投資するべき」という論調が強かったですよね。お二人は、成長投資の論調が強かった時からコスト意識が強かったんですか?

【中出】はい。井出さんと同じく僕も製造業をPE時代に見ていたので、明らかにいびつなマーケットだったんですよね。成長率が高ければ赤字でも時価総額がつくことには、違和感がありました。

ただ、プレイブックがそうなっていると、頭で分かっていてもそのやり方に乗らざるを得なくなって、乗ってはいました。ただ、状況が転じたときにブレーキを踏めるようにしておこうと常に思っていました。社長たちともそれはずっと話していましたね。

【中川】その感覚が、具体的な施策やお金の使い方に表れたことはありますか?

【中出】二つあります。第一矢は、とにかく成長率を高める。第二矢は、もう少しコンサバに、グロースを多少緩やかにする。この二つの矢をコンティンジェンシープラン(緊急事態が発生した時の行動指針)として持って、いつでも切り替えられるようにしていました。テレビCMなど、マーケティングに極端な費用をかけようといった話はストップをかけていました。筋肉質に育てていこうという大方針に基づいて、ブレーキ踏むことも投資することもできるようにしていました。

【中川】井出さんはお金の使い方について何か施策を行っていますか?

【井出】そもそも、当社はマーケットがこういう状況になる前から「早く黒字化にしたい」とずっと言っていたんです。

前回の調達はマーケットが完全に崩れる前だったんですが、色々な投資家から「なぜもっと投資をしないんですか」と言われていました。あまりにも言われるから、一瞬心配になるほどでした。コスト意識や費用対効果を測る感覚をもってエコノミクスを上げる施策はもともとやっていたので、特別何か変えたっていうのは、あんまりありません。

単価を上げることを考えて、投資対効果のバランスを考えて投資をして、というシンプルなことを当たり前にやっていますね。

<大切にしている価値観・スタートアップCFOの楽しさ>

【中川】お二人とも、成長と利益のバランスをとりながら、ずっと仕事をされてきたことが、今の企業の強さをつくっているんですね。お二人が仕事をする中で、大切にしてるスタンスとか価値観はありますか?

【井出】僕はもうとにかく楽しくやりたいんです。何かトラブルがあってもそれを楽しんでいますね。
人生何があるか分からないですし、仕事に費やす時間は長いので、楽しまないと人生が楽しくなくなってしまう。だから、たとえルーティン的な業務であったとしても、どんどんやり方を変えて、新しい取り組みをするタイプではあります。楽しむために常に変えていくっていうことはすごく意識しています。

【中出】僕も楽しむことを大事にしながら、「プロフェッショナルに仕事をする」ことも大事にしています。結果を出すことへのこだわりがすごく強くて、プロセスへの興味は若干薄いかもしれません。

【中川】スタートアップCFOというポジションの楽しさはどんなところにありますか?

【井出】どの段階のスタートアップかにもよりますが、まだ成長段階で、仕組みも制度もない段階で入っていくと、つくる楽しさは結構ありますよね。僕の場合は、つくるフェーズに携われることに魅力を感じてスタートアップに来たところもあって、その楽しさは圧倒的にあると思います。

ファイナンス以外も、中出さんはかなり特殊ケースじゃないかと思いますけども(笑)、本人のウィルさえあれば何でもやれるのは魅力だと思います。

【中川】中出さんはいかがですか?

【中出】全く同じですね。CFOに限らず、スタートアップで働いてる人みんなが、何かをつくり出せる権利を持っていると思っています。新しいことにチャレンジしようって言ったときに反対する人ってあんまりいない。好きなことができるから、イノベーションって生まれると思っています。

それから、新しいチャレンジをすごくリーンにできるのも魅力ですよね。マチュアな企業は、組織のルールや階層があって準備に時間がかかってしまうことが多い。自由に動けるのがスタートアップで、オーナーシップを持って自分事化できます。僕はその方が面白いと思っています。

<仮に投資銀行からそのままスタートアップに来たら......>

【中川】お二人とも投資銀行からPEファンドを経てスタートアップに入られていますが、仮にPEを経験していなかったら、パフォーマンスは違ったと思いますか?

【井出】多分、違ったと思いますね。投資銀行からスタートアップに来て活躍されている方もたくさんいらっしゃるので、あくまで僕の場合ですが、色々なタイプや価値観の方がいる事業会社の環境を、PEである程度経験できたので、スムーズに入れたところはあると思います。
 
【中川】中出さんはいかがですか?

【中出】僕も同じです。井出さんに付け加えるなら、投資家の考えていることを理解できるようになったことで、これは資金調達に生きています。IC(投資委員会)を通す際に、気になるであろう論点が分かりますから。

事業戦略をしっかり考えられることも大事ですが、それを実行するときに苦労するポイントは何かきらびやかな戦略よりも、組織を変えることや営業一人一人の売上を上げるための戦術が重要だと、PEでの経験を通して気づきました。そうした事業会社の肌感は身についた気がするので、良かったと思います。

【井出】今のお話を伺いながら思い出したのは、投資銀行時代はモデルを作って、こうしたら粗利が1ポイント改善する、と考えていたけれど、実際に多くの人や物が関わる中でそれを実現する大変さや重さは、PEでの経験を通して分かったことですね。

<今後のキャリアについて>

【中川】お二人は今後のキャリアについてはどう考えていますか?

【井出】僕、キャリアってあんまり深く考えたことがないんです。スタートアップに来たのも「まだやったことないことは何だろう」と考えた時に「スタートアップもCFOもやったことないな」と思って決めました。だから正直、次何やるのかも全く分からないですね、僕は。こんな答えですみません(笑)。

【中川】全然大丈夫です。どっちのパターンもあると思っていて、明確に目標を掲げてそれに向けてキャリアを作る方もいらっしゃれば、その時のご縁に従った結果キャリアを作る方もいらっしゃるので。中出さんはいかがですか。

【中出】僕は明確にある方ですかね。短期的なキャリアでいうと、テックタッチを上場させたいとは思ってはいるんですけど、プロダクトサイドを深掘りたいなって思っています。事業を見てみて、自分に足りないものはプロダクトについての知見だと思いました。どんな機能を追加するか、どんな製品を出すのかは本当は肝の肝なはずです。肌感がないので、事業計画で売上を上げることを考えるとなると、セールスの人員計画や単価についての解像度が高くなる一方で、両輪であるプロダクト戦略が人に頼りきりになってしまう。そこの解像度をがんがん上げていかないと、ソートパートナー(先進的な考えを主導する経営パートナー)にはなれないなと思っています。

CTOはできなくても、ソートパートナーぐらいにはレベルを上げていかないといけないので、直近1、2年は徹底的に深掘りたいと思っています。今PMMの仕事をしているのもそのためです。キャリアというか、やりたいことかもしれないですけど。

【井出】プロダクトの深掘りは、どうやってキャッチアップされるんですか?

【中出】PMの全ての仕事をやってます。仕様書を作ってデザイナーと話してモック(完成後の実物に近い画面デザイン)を作ってもらったり、スクラム開発に落としこんでいくためにスクラムチームと話したり。今まさに、すべてのプロセスに一通り入らせてもらっています。

<それぞれの企業の魅力について>

【中川】最後に、お二方が働く企業の魅力を教えてください。

【中出】テックタッチの魅力は二つで、カルチャーが良いこと、そして事業が伸びていること。一つ目のカルチャーの良さは、創業者で代表の井無田とCTO・日比野が「みんなが楽しく働ける会社をつくろう」という思いで創業していることが大きいと思います。
日本全国どこでも働けたり、社内ハッカソンが有志で企画されたり、Slackで困っている人はすぐに助け合う文化があったり......。随所に、楽しく仕事をしたり助け合う素地があって、みんなで本当に楽しく働ける環境がある。そして、楽しいだけではなくて、事業に対して本気で向き合える環境なので、真剣に仕事ができる、真の楽しさがあります。

楽しく仕事をするには、やはり事業が伸びていることは重要です。我々のプロダクトが社会的ニーズにマッチしているので、おかげさまでとても成長しています。この勢いを保ってIPOを経験できると思っているので、とてもやりがいがあます。僕のように、CFOでもこれだけ事業に関わることもできますし、何でも自由にできるのが魅力だと思いまね。

【中川】井出さんはいかがですか?

【井出】HRBrainは、今後もプロダクトや事業を増やしていく予定で、事業家をどんどん生み出したいと思っています。スタートアップの中では比較的レイターと評されることも多いのですが、自分たちとしてはまだまだレイターだとは思っていません。とにかく新しいプロダクト、事業をどんどん生み出していきたいと思っています。そういう機運が社内で高まっているのも、すごくいいと思っています。

HR Techはレッドオーシャンだといわれたりもしますが、僕は必ずしもそう捉えていません。マーケット自体がまだまだ未成熟で、人事課題は根が深いものなので、ホワイトスペースが非常に大きい領域だと思っています。切磋琢磨しながら新しいものを生み出していって、日本経済を良くすることや、働く人がハッピーになることに貢献したい。一定の経営基盤と市場がある中で新しいものをつくれるステージにあるので、そこが一番の魅力かなと思います。

【中出】めっちゃいいですね。ところで僕、井出さんと飲みに行きたいので、今度お声がけさせてください。バリュエーションの話とかデット調達の話とか、最新の情報をこれからもアップデートしたり、お互いいろんな話をできればなと。横の繋がりは本当に大事ですから。

【井出】はい!是非(笑)。

【中川】交流の機会を生み出せて、何よりです(笑)。今日は貴重なお時間を頂きましてありがとうございました!

聞き手:中川英高(キャリア・インキュベーション)/構成:中釜由起子(テックタッチ)

プロフィール

写真:井出 翔 氏

井出 翔 氏
株式会社HRBrain 取締役CFO

慶応義塾大学経済学部卒、2009年株式会社みずほFG入社。みずほ銀行でのRMを経てみずほ証券に異動、M&Aアドバイザリーに従事。2014年にインテグラル株式会社に入社、投資及び投資先のバリューアップに従事。2021年株式会社HRBrain取締役CFOに就任。

写真:中出 昌哉 氏

中出 昌哉 氏
テックタッチ株式会社 CFO Vice President, PMM/ 公共セクター・SaaS事業 事業開発管掌責任者

東京大学経済学部、マサチューセッツ工科大学MBA卒。2011年野村證券入社。投資銀行業務に従事。素材エネルギーセクターのM&A案件を数多く手掛ける。MBAを経て2018年カーライルグループに入社、投資業に従事。ヘルスケア企業のバリューアップや、検査機器グローバル最大手の会社への投資等を担当。2021年テックタッチ入社。

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