なぜBCGが「デジタル」にここまで注力するのか?
なぜ別組織として動いているのか?
高らかに宣言をしても、なかなか達成できないのが「イノベーション、変革」。しかしこれを今、あらゆる企業が必死で追求し始めている。当然のことながらコンサルティング領域でも変化が続いている。顕著な動きの1つがデジタルへの取り組み。トップファームの間ではデジタル関連、デザイン関連の企業との連携や合併、あるいはデジタル部門を別法人として起こし、独立した存在として推進していく動きも見えている。
ボストン コンサルティング グループ(以下、BCG)も2014年、米国ロサンゼルスにあるマンハッタンビーチにBCG Digital Venturesを開設すると、わずか1〜2年で成果を挙げ、英国やドイツ、豪州にも拠点を設けていった。世界中の企業がデジタルをベースにした変革を求めていることの証左となる動きともいえる。
そして2016年4月、BCG Digital Venturesはついに日本でも東京センターをオープン。早くも大型案件が立て続けに決まり、具体的な動きを開始している。
アジアでは初、グローバルでも6つめの拠点を起ち上げる上で中心人物となったのが、BCGの東京オフィスでパートナー&マネージング・ディレクターを務めていた平井陽一朗氏だ。まずはこの立役者に「なぜBCGがデジタルに注力したのか」を尋ねてみた。
「背景は3つあります。1つめはコンサルティングファームに対する企業側の期待が、時代とともに変わってきた点です。かつてコンサルタントは、クライアント企業の経営課題の解決について、戦略を考え、その道筋を提言する立場でした。
ところが、これだけで満足してもらえなくなるケースも増え、『戦略を実行するうえでの支援もしてほしい』という要望が多くの企業から寄せられるようになりました。事実、案件数の面でもこうしたインプリメンテーション系のものが増えていったわけです」
しかし「インプリメンテーション」といっても、そこでコンサルタントが担うのは、あくまでも「実行」の「支援」に留まる事が多いと平井氏。それゆえに「支援ではなく、実行そのものにコミットしてほしい」もしくは「実際に革新を起こしてほしい」という要望が強まっていったという。
「なぜこのような変化が起きたのかといえば、理由は簡単。コンサルが変革を『加速化』させる程度では企業のROIが必ずしも合わなくなってきたからです」
さらに平井氏は「もう1つの背景」として、「イノベーションを実現する難しさ。それを多くの企業が痛感し始めた点」だと指摘。
「グローバルサイズのビジネスを展開するような企業内部には、非常に優秀な人材が揃っています。しかしそれでも変革は容易に起こせない。だからこそ、コンサルタントをパートナーにして実現に向かおうとしてきたわけですが、提言、つまり言葉による支援だけではうまくいかないこともわかってきた。言葉だけでなく、実際に先陣を切って事業やサービスを打ち立ててみせてくれるような存在抜きに、イノベーションは起こせないのではないか、という考え方が広がってきたのです」
言葉だけでなく、ともに実行してくれる部隊がほしいとなれば、従来型のコンサルタント人材だけではなく、実行局面で必要となるエクスパティーズの持ち主が必要だということになる。そして、今多くの企業がデジタルに何らかの関わりのあるところで変革を起こそうとしている。
このデジタル化の時代に強みを発揮できるようなエンジニアやデザイナー、あるいは新規事業を起ち上げて動かしてきた経験の持ち主などが、実行部隊に欠かせない人材となるわけだ。
「では、そういう人材をBCG内にプールできるのかというと、なかなか難しい。時代がどう変わろうとも、戦略を策定し、問題解決の糸口を導き出すプロフェッショナルは不可欠です。そうしたコンサルタントが所属する組織内に、まったくの異能の持ち主であるエンジニアやデザイナーが同居しても、双方にとって理想的な場とはなりにくい。働き方も違えば、価値観や強みも異なるのならば、『あえて別の組織で』というほうが互いに成果を最大化できる。そうして生まれたのがBCG Digital Venturesだったのです」
平井氏が「3つある」と示した最後の設立背景は、競争要因とのこと。これまでBCGの競合といえば、マッキンゼーやA.T.カーニーといったいわゆる戦略系ファームだったが、「実行支援強化の時代」以降、競合の境界線は不明瞭になり、実行局面に強みを持っていた総合系ファームもまた台頭。そして、これら多くのライバルが続々と、デジタル関連サービスを提供する別部隊を編成し始めている。
さらにここへきて、電通や博報堂といったマーケティング領域で大きな影響力を発揮してきた会社にも、大きな動きがあり、電通デジタルや博報堂DYデジタルが生まれ、世界的なデザイン企業である米国IDEO LPが、博報堂DYグループに入るような展開が続いている。
「どこまでを競合と呼ぶのか、その垣根もあいまいになっている中ではありますし、競合と言うよりも、ともに強みを発揮し合う関係にもなりえるわけです。しかしそれでもBCGが他に先んじて早くからデジタル領域での明快なアプローチの確立を急いできた背景には、このような展開を先読みしていた点もあったということです」
もう1つ平井氏に最初に聞きたかったポイントは、「なぜBCG Digital VenturesがBCG本体とは別組織になったのか」だったが、その理由の一端はすでに語ってくれた。組織や制度、強みであるエクスパティーズを最大活用するため、という理由だ。しかし、そればかりではないのだと平井氏は言う。
「BCG Digital Venturesの東京センターは現状約20名しかいませんが、当然これから更に人員を増やしていきます。いわゆるコンサル人材とは一線を画す存在の力量を見極めていくには、デジタル領域で自立したチームが適切な採用ノウハウを蓄積し、駆使していかなければいけません。
また、米国西海岸にあるBCG Digital Venturesのセンターを見ていただければわかると思うのですが、極上のエクスパティーズの持ち主がそのクリエイティビティを研ぎ澄ませながら働けるような空間設計にもこだわり、投資をして他に例を見ない環境を築き上げています。
東京センターはまだ開設されたばかりで、オフィスも仮住まいで米国の足元にも及びませんが、同様のスペースを備える計画は既に決定しています。そうなればBCG本体と居をともにする理由はさほど多くない。
独自の人材が集い、独自の環境で働くことで、企業に最高の結果をお届けする......そのためにもBCG Digital Venturesは別組織でいるべきだと判断したんです」
パートナー 東京センター・ヘッド 平井 陽一朗 氏インタビュー 次ページへ
プロフィール
平井 陽一朗 氏
パートナー 東京センター・ヘッド
1974年生まれ。東京大学経済学部卒業後、三菱商事を経てボストン コンサルティング グループ入社。戦略案件に多数携わった後、ディズニー・ジャパンへ転職し、新規事業の起ち上げ等をリードした。2006年にオリコンへ入社、同社副社長兼COOを経て、オリコン・モバイル(現oriconME)の社長に就任。2010年にはザッパラスに転じ、代表取締役社長兼CEOを務めた後、再びボストン コンサルティング グループへ。パートナー&マネージング・ディレクターとして活躍するとともに、社内の若手人材育成プロジェクトを統括。また米国で胎動していたBCG Digital Venturesの日本での展開を積極的に牽引し、2016年より現職。
プロフィール
島田 智行 氏
プリンシパル・ベンチャーアーキテクト
東京大学法学部卒業後、外資系コンサルティング会社を経てボストン コンサルティング グループ入社。2006年、ナップスタージャパンに転じ、日本初の音楽聴き放題サービスを起ち上げ、2008年にはレコチョクに入社。事業開発担当執行役として音楽・動画の配信サービスを起ち上げた。2012年からはメガベンチャーで新規事業起ち上げ部門の責任者に就任し、数々の新サービスを事業化。2016年より現職。
山敷 守 氏
リード・プロダクトマネージャー
東京大学在学中、学生向けSNS「LinNo」を起ち上げ、デジタルサービスの世界に飛び込む。卒業後は、革新性を強みとするIT系大企業に入社。ここでゼロベースからスマートフォン上のメッセージング事業を起ち上げ、プロジェクトの責任者として従事。2016年より現職。
花城 泰夢 氏
リード・エクスペリエンスデザイナー
明治大学在学中、『宇宙授業』(中川人司著・サンクチュアリ出版)等の出版物の企画に携わった後、クリエイティブ・エージェンシーにおいてコンテンツ・ディレクターとして大手企業のコンテンツ制作を担った。カメラマンとしても活動を展開する一方で、2012年フィリピンへ留学すると、現地でDMM英会話の事業起ち上げに携わった。2014年にはトランスリミットに入社し、大ヒットした脳トレアプリ『BrainWars』、『BrainDots』のUIデザインを手がけた。2016年より現職。
堀口 綾 氏
リード・ストラテジックデザイナー
米国カーネギーメロン大学でインダストリアル・デザインを学んだ後、ニコンに入社。グラフィック・デザイナーとして従事した後サムスンへ。グラフィックUIデザイナーおよびデザイン戦略を担った後、フリー・デザイナーとしてフリマアプリの子会社にてアプリデザインに携わる。2016年より現職。
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