[7]リーダーシップやマネージメントに関する経験やスキルは、いつ、どこで獲得したのでしょう?
起点となっているのはバスケット部のキャプテンを務めたことや、大学時代のイベントサークルでの経験です。その後、DIに入ったことで、クライアントである企業の数多くのリーダーと向き合う経験ができ、そこで「門前の小僧(習わぬ経を読む)」として学ぶことができました。
また、コンサルティングの世界には非常に頭が良くて、タフで優秀な方が多数います。DIに入社した結果「自分は凡人なんだ」と強烈に自覚させられました。しかも、たまたま同期と共に最年少マネージャーに就任することになってしまったため、喜んで浮かれるというよりも、「このままではいずれ生き残れなくなる」という危機意識が一層高まる事態となりました。
必要にかられて周囲にいる他マネージャーを必死で観察し、戦力分析などもしながら自己の差別化を行っていくようになったわけですけれども、おかげで随分と成長できたと思っています。
[8]キャリア形成上の転機があったとすれば、それはいつのことですか?
アイペットに来た時が私の転機です。正式な入社は2016年ですけれど、実質的にはDI在籍中の2012年にアイペットの社外取締役となり、以来、戦略策定〜実行局面に携わってきましたから、実際の転機はこの時です。当時の私が悩んでいたのは「経営陣のところに正しい数字や情報が上がってこない」という問題でした。
こうした課題は何もアイペットに限った問題ではなく、あらゆる経営陣が頭を抱えていることだと思います。DI時代に何度も向き合ってきた課題でもあるのですが、コンサルタントという立場ではなく、実際にその会社に入り込んでみると、その解決の難しさを痛感せざるを得ませんでした。
私がとった対策は、とにかく現場へ行ってリアルなつながりを増やし、関係性を深めていくこと。かつてジャック・ウェルチ氏がGEで頻繁に工場へ出向き、そこにいる従業員との会話を大切にしていたという事柄、そういうことの積み重ねの重要性を、心から理解することが出来ました。[9]強く印象に残っている試練やストレッチの経験について教えてください
アイペットの経営と向き合うようになってからは毎日が試練ですけれども、それ以前に体験した試練で印象に残っているものを挙げるとすれば3つあります。
1つはDIに入社してからの1年間。「最年少でマネージャーになりました」などと言いましたから、錯覚させたかもしれませんが、入社当時の私は本当にうだつが上がらない若手でした。実は、入社1年目に登校拒否をしたこともあるくらい、成果が上がらずに悩み「オレは凡人だったんだ」と思い知らされていました。
もう1つの大きな試練はマネージャーになってからのこと。先にも申し上げたように、DIには優秀な先輩が大勢いました。経験も知識も豊富で、MBAを持っているかただって珍しくない。そういう場で若くしてマネージャーに選ばれてしまったので、必死の思いで周りから学び、自分なりの差別化をしていきました。
3つめの試練は某企業のプロジェクトをプロジェクトマネージャーとして担当した時のこと。毎日2〜3時間の睡眠で、本当に週末の休みも一日も無く、踏ん張り続けた結果、4週間で4キロ痩せたりしたわけですが、おかげで心身ともにかなりタフになれたと思っています。[10]影響を受けた先輩や、師匠といえるかたはいらっしゃいますか?
多くのかたのおかげで今があると思っていますが、特に影響を受けたかたを挙げるとするならば、堀紘一さん(現DI会長)、上野征夫さん(現DI取締役、現アイペット取締役)、山川隆義さん(現DI社長)です。あと、私の採用担当の山内宏隆さんです。
堀さんからは「強固な意志を貫く」ことを学ばせていただきました。「男たる者、こうあらねば」的な熱さや厳しさと、浪花節的な温かさを併せ持つ方で、私がアイペットに転籍させて頂く際にも、「喜んで送り出すわけではないが、温かい気持ちで背中を押すことにする。頑張ってこい。」と言っていただき感激しました。
上野さんは、三菱商事で副社長を務めておられた本当に立派な御仁で、三菱商事の三綱領を体現されておられる方です。一方で、本当に面倒見がよく、私のような息子ほど年の離れた若輩者に対しても、いつも親身にアドバイスをくださり、私のアイペット転籍も背中を押してくださいました。[11]座右の銘や、独自の哲学などをお持ちですか?
3つあります。1つは「迷った時は、しんどいほうを選ぶ」もしくは「人と違う道を選ぶ」というこだわりです。
もう1つは投資家のウォーレン・バフェット氏の言葉、「周囲の人から評判を得るには20年かかるが、その評判は5分で崩れることがある」です。どんな立場になろうと、どういう局面にいようと、そういう怖さがあるのだということを忘れないように、いつも心がけています。
3つめはドラッカーの言葉。「実践なき理論は空虚であり、理論なき実践は無謀である」です。採用セミナーなどでもこの言葉をよく引用するのですが、なんの原理原則もなく、知識やスキルや経験値もないまま企業経営の問題を解決しようとしても、決してうまくいかない、ということ。
そしてこれはコンサルタント時代に自分を戒めるためにも心がけていたのですが、きれい事の原理原則のお題目を唱えていても、現場のビジネスを変えることなんてできない、ということ。結局、理論と現実の間を往き来する繰り返しで、初めて継続性のある解決策は生まれてくるし、自分自身も成長することが出来る。そういう教えをこの言葉は示してくれているので、大切にしています。[12]感動し、影響を受けた本や映画などがあれば教えてください
影響を受けた書物をいくつか挙げますと、まずは経営者のかたが書かれた本。本田宗一郎さんとともにホンダを立ち上げた藤沢武夫さんの著書『松明は自分の手で』にはとりわけ影響を受けています。以前から藤沢さんの言葉や本は好きなのですが、細かいビジネス上のあれこれを並べ立てるというのではなく、常に大切な原理原則を教示してくれます。「松明は自分の手で」というタイトルも、「どんなにしんどくても松明は自分で持ち続けろ」という教えです。
いわゆるビジネス書としては『ビジョナリーカンパニー』の2巻に強く影響を受け「誰をバスに乗せるか?」がいかに重要かを日々実感しております。それから、ハーバードの教授やジャック・ウェルチの右腕だった方の共著『経営は「実行」』(ラリー・ボシディ、ラム・チャラン、チャールズ・バーク著)という本は、あまり有名ではないかもしれませんが、実行することの尊さを教えてくれる本として愛読しています。
変わり種かもしれませんが『徒然草』も私の愛読書の1つです。実家と母校が吉田神社から近かったこともありますが、「千年が経とうとも、人間は変わらないんだな」「結局、人間というのはこういうものなんだよな」ということを思い描かせてくれる本です。
最後はスポーツの世界のかたが書いた本。『イレブン・リングス 勝利の真髄』は、アメリカのNBAでブルズ、レイカーズといったチームを率い、史上最多の11度に渡り優勝をした名将フィル・ジャクソン氏の著書です。バスケット好きの私にとって、「どうすれば強いチームを作れるのか」を教えてくれる本になっています。[13]CxOというキャリアの将来性や、今後期待される役割について、どうお考えですか?
CxOという存在へのニーズは、今後ますます高まると考えています。強烈なリーダーシップを持つ創業オーナーが経営をグイグイとリードしていくような企業は今もありますが、時代の趨勢を見れば、企業規模の大小にかかわらず、チームによって経営をしていく形が主流。例えばシリコンバレーでも、チーミングを重視する投資家が増えており、中にはチームによって経営している会社にしか投資しない人もいると聞いています。
突出した力を持つ個人ではなく、チームで経営を進めるのであれば、強固な経営チームが不可欠であり、CxOの働き如何で会社の行く末が変わってくる。どういうCxOがいて、彼らがどんなチームを形成するのか。それがこれからますます問われる時代になると考えています。
また、現代のようにゼロ金利等の影響もあって金余りの状況が続く中では、「お金の価値」以上に、それを動かす「ヒトの価値」が相対的に上がっていきます。「今どれだけお金があるか」よりも「それを大きくすることのできるヒトがどれほどいるか」が重要になる。専門性を駆使しながら会社を大きくしたトラックレコードを保有するCxOには、どんどん新たなチャンスも巡ってくるようになると考えています。[14]ご自身の今後のキャリアビジョンについて教えてください
キャリア形成のあり方についての議論は、たいてい2つに分かれますよね。1つは「何年後にはこうありたい」というビジョンを持って、そこから逆算してキャリア形成をしましょうというパターン。もう1つはプランド・ハップン・スタンスと呼ばれる「計画された偶発性」の理論。どちらが正しいというわけではなく、どちらもありなのだと考えてはいるものの、私の場合、どちらかといえば前者のパターンでここまで来ました。ですが、今後は多少の不確実性を自分の将来に対してキープしておきたいと思っています。
直近で申し上げると、アイペットを上場させて、さらに経営を盤石にしていくことに注力します。その中できっと私の次なる道も開けていくはず。そう捉えています。ですから、繰り返しになりますが、最優先の目標はアイペットを成功させることですけれども、自分自身の中長期的なキャリアの行方については、あまり細かく設定しないようにしている、というのが私の本音です。[15]若い方々へメッセージ、アドバイスをお願いします
私もまだまだ若輩者ですので、偉そうなことを申し上げることは出来ませんが。。もしもCxOのような存在を目指そうというかたが読んでいるのならば、「持ち時間が多いうちにトライすべきだよ」と伝えたいです。つまり、できる限り若いうちにチャレンジすべきだ、ということ。持ち時間の長い者のほうがより強くなれる、というのは当然の節理です。躊躇せずに、チャンスをつかむための努力をしてほしい。
では、どういう努力やチャレンジが有効かといえば、ゼロをイチにする仕事をどんどん掴み取ること。イチあるものを2や3にするのは簡単です。本当に大変なのはゼロイチという取り組み。だからこそ、若いうちにどれくらいゼロイチを経験し、そこで成果をあげたかどうかで、そのヒトの価値は違ってきます。
何もないところに新しいビジネスを起こしたり、採算のつかなかったものをプラスにするような実績を重ねていけば、必ずチャンスは広がっていきます。ゼロイチは大変な仕事ですから、誰もやりたがらなかったりします。誰もが楽をして既存の勝ち馬に乗ろうとします。
しかし、勝ち馬をゼロから自分で作ったヒトにこそ価値があるんです。そういうトラックレコードの持ち主をこれからの世の中は求めてきます。持ち時間を有効に活かすチャレンジで、自らの価値を高めていってほしいと思います。