[6]専門的スキルは主にどこで獲得したのですか?
簿記については学校で勉強をしましたけれども、本当の意味でファイナンスの専門的スキルを獲得したのはP&Gに入社してからです。
当時のP&Gの現場は、どの部門もハードワークが当たり前。仕事に必要な知識やノウハウはOJTで得ていきましたが、その後、日本にアジアのHQができる頃になると、本当の意味でグローバル企業のカルチャーになりました。
キャリアを向上させる学びに対しても積極的に推奨され、ファイナンス領域ではUSCPA取得が推奨されていたので、私もチャレンジすることにしました。当初は勉強する時間もなかなか取れなくて苦心していたのですが、一人目の子を出産した時に育児休暇をとることができたので、育児をしながらではありますが、仕事を休んで勉強して受験する時間を確保できました。
それまで、仕事を通じて学んできた私にとって、この時のUSCPA取得に向けた勉強は非常に役立ちました。正直なところ「なんだそうだったのか。早く教えておいてくれれば、あの時あんなに苦労しなかったのに」と思うようなことがいくつもありましたけれども(笑)、実際のビジネスの経験を知見として整理していく最良の機会になったのは確かです。
レノボ・ジャパンに移ってからは、当時合弁をともに進めていたNECパーソナルコンピューターの経理財務の方から中小企業診断士の勉強を推奨されたのがきっかけで、資格取得の勉強をしました。この時に得た知識も、その後の私にとって非常に役立っています。
また、下の子どもが中学生になって子育てが一段落してきたこともあり、来月からは国内のビジネススクールに通ってMBAを取得する予定になっています。2つめの質問でお答えしたように、今私が担っている役割を果たす上でも、MBA取得で得る知見は必ず役立ってくれるだろうと思っています。
[7]リーダーシップやマネジメントに関する経験やスキルは、いつ、どこで獲得したのでしょう?
約18年をすごしたP&Gで得たものが大きかったと思います。ここは非常に昇進の早い会社で、私の場合も入社3年目には部下を持っていましたし、20代後半で管理職になって、自分のチームを率いて部下を育てる責任を持たせてもらいました。
おそらく日本の企業だったら得られなかったようなこれらの経験によって、リーダーシップやマネージメントに関わるスキルを身につけることができたのだと考えています。
また、以前の質問で「OJTが大部分だった」と答えてしまいましたが、P&GにはP&Gカレッジという充実した研修プログラムがあり、専門知識やソフトスキルのトレーニングに活用することが可能でした。早くからマネージメントを任せる会社ですから「いかに部下を育てて、チームで結果を出しているかどうか」が評価対象にもなります。おのずと積極性をもって学ぶようになっていました。
一方、社内には「管理部門の誰でも経営の領域に入っていって構わない」という価値観も浸透していたので、私としては様々な会議に呼んでもらえるよう、日々心がけていました。「ファイナンス担当なんだから、この会議には出る必要がない」と自分で決めてしまえば、それまでのこと。
しかし、冒頭でも言いましたが、単に数字を管理できればいい、という役目ではありませんでしたし、CFOを目指そうという気持ちがかなり早い時期から芽生えていたので、部門や役割に関係なく多くの人に働きかけて、会議に呼ばれるようにしました。声をかけるだけでは呼んでもらえません。「あの人は呼ぶだけの価値がある」と思ってもらえるよう、結果も出していきました。[8]キャリア形成上の転機があったとすれば、それはいつのことですか?
望んでいた役目とタイトルを獲得できたのはレノボ・ジャパンの時です。これも大きな転機でしたが、もとはといえばP&G時代に花形だった洗剤部門のファイナンスヘッドを担当した時が契機となりました。
P&Gの家庭用洗剤部門のファイナンスを取り仕切るとなれば、かなりの規模のビジネスと向き合うことになります。本当に充実感や達成感を強く感じる仕事でした。そうして抱き始めたのが「外資系企業の日本子会社全体のファイナンスヘッドを務めることができたら、さらに醍醐味があるのだろうなあ」という期待です。
今回のこの記事を読んでくださるかたの中に女性もいるでしょうから、お伝えしたいのですが、ダイバーシティの進んでいるグローバル企業の中でも、特にファイナンス分野は女性で活躍している人が多い領域です。今後、日本企業でも国際化やそれに伴うダイバーシティが進展するでしょうし、ぜひともCFOという役割や機能、その面白味に注目してほしいと思います。
ファイナンスは「男性に好都合で女性に不都合」という要素が極めて少ない場です。だからこそ多くの女性が世界的に活躍しています。私の場合も、子育てをしながらここまでくることができたのです。[9]強く印象に残っている試練やストレッチの経験について教えてください
試練は何度も経験してきました。例えばP&Gに入社して3年目で、日本子会社の予算管理と米国本社への報告を実施する役目に就いた時。1995年に神戸が震災に遭った時にも、大阪に急きょ設置した仮オフィスでその役目をマネージャーとして果たしました。
また、日本子会社を米国支店から日本の株式会社に変換するミッションを任されて成功させたこともありました。レノボに移って数年後にはアベノミクスによる急激な円安の影響があり、業績確保に苦心しました。
以上のような複数の試練で私が得た最大の教訓は、チームの力の偉大さです。1人ではどうしようもない試練も、周囲にいる人たちの協力を得て、難関突破のためのプロジェクトチームとして機能していくことができれば、乗り越えていける。それを痛感しました。[10]影響を受けた先輩や、師匠といえるかたはいらっしゃいますか?
P&G時代にお世話になったファイナンス部門の複数の外国人上司たちです。28歳の頃の上司はフィリピン人女性でしたが、夫と4人の子どもを連れて日本へ赴任し、妻としても母としてもしっかり務めを果たしつつ、成果を上げていました。
ほかにも部下の良いところをねばり強く引き出す方法を教えてくれたインド人男性上司、わたしをアジアHQの職場で活躍できるように導いてくれたフィリピン人男性上司、世間の荒波をどう切り抜けていけば良いのかを身を以て示してくれたベトナム人女性上司もいました。若い時に、ロールモデルとなってくれる上司たちとの出会いに恵まれたことを、私は今でも幸せに感じています。[11]座右の銘や、独自の哲学などをお持ちですか?
「"できたらいいこと"はたくさんあるけれど、"できない方がいいこと"なんてないよ」......ということを以前にわたしが娘に言ったらしく、娘はこの言葉が印象に残っているそうです。自分自身も気に入っています。
大学入学の折りに、明確な目標を持たなかったために、適切な努力もできなかったことを残念に思ってきましたので、社会人になってからは「努力すればできそうなこと」には挑戦するようにしてきました。昇進も、資格取得もそうですし、仕事と子育ての両立もそうです。目標を定めて、それに向けて挑戦するようになってから、とても気持ち良く暮らせるようになりました。ですから今後もこの姿勢を貫いていきます。
[12]感動し、影響を受けた本や映画などがあれば教えてください
最近感動したのは2015年に公開された日本映画の『ビリギャル』です。学年で成績がビリだったギャルが、2年足らずで成績を上げ、目標大学に入学するまでを描いた映画で大ヒットしましたけれども、私としては「褒めて伸ばす」ことの素晴らしさを教えられ、大いに感心しました。[13]CxOというキャリアの将来性や、今後期待される役割について、どうお考えですか?
CxOという役割を「スペシャリスト」だと安直に決めつけないほうがよいと思います。例えば私のようにCFOの職ならば、ファイナンスの専門性は持っていなければいけません。そういう意味ではスペシャリストなのでしょうけれども、何より求められているのは社長や経営陣のビジネスパートナーとして貢献していくことです。
今後、多くの作業が機械化され、アウトソースされていくわけですから、なおのこと専門性の価値をベースとした「考える力、まわりを動かす力」が要求されます。この要求に応えていける人であれば活躍できますし、非常に将来性のある仕事だと考えています。[14]ご自身の今後のキャリアビジョンについて教えてください
ケロッグは大好きな会社なので、今私が担っている日本と韓国でのビジネスに貢献していくのはもちろんのこととして、さらにアジアでのビジネス展開にも携わり、貢献していけるようになりたいと願っています。
一方、社外では日本企業・日本社会のグローバル化の助けになるような貢献をしたいと思い、これまでもGAISHIKEI LEADERSという集まりに参加し、大学生向けセミナーなどで講演を行ったりしてきました。外資系企業で私が得てきたものをお伝えすることで、企業幹部や若手社員や学生のお役に立ちたいと思います。
P&Gの私の後輩の人たちの中には、アジアHQや、アジアの子会社のCFOとして活躍している日本人がたくさんいます。日本人は優秀なアジアのビジネスリーダーたちに負けずにやっていけるはずなので、もっと自信と希望を抱いてほしいと思っています。
また、私自身が女性で、働くお母さんをやってもいますので、女性管理職を増やすことや、働く母の数を増やしていくような活動にも力を注ぎ、貢献していきたいと考えています。