[1]自己紹介をお願いします
私が就職活動をしたのは1980年代の半ば。多くの学生が商社や金融機関などを目指していた時代でしたが、私は技術力の強みを活かしてグローバルで将来成長していきそうなメーカーに魅力を覚え、そういう企業で働くことを希望していました。そうして入社したのが日本電気(以下、NEC)です。当時、通信やコンピュータ、半導体で躍進していたNECで、海外関連の部署に就くことを志望していたものの、配属されたのは国内工場。そこで労務管理を中心に人事の仕事をしていくことになり、以来、一貫して人事分野を歩むことになりました。
こつこつと地味な職務を国内でこなしていく日々が続いたものの、運よく巡ってきた転機が海外留学制度への選出でした。米国パデュー大学のビジネススクールでMBAを取得したことで、グローバルとの関わりが始まったのです。帰国後は本社の国際人事部門で外国人採用の仕事を担い、1991年には米国で立ちあがった基礎研究所に人事責任者として赴任しました。言葉の壁とは、留学時代から格闘していましたが、この赴任によって欧米のカルチャー、とりわけ働き方に対する価値観の違いと格闘する日々もスタートしたのです。また、20代でチームをもてたこと、スタートアップの組織においてガバナンスをいちから整えていくという貴重な経験を得たことなど、恵まれていました。
その後、帰国すると本社の人事マネージャーとして再び国際人事に関わっていったのですが、大企業の本社機能に長くいると、どうしてもビジネスとの間に距離感が生じてしまいます。「もっとビジネスに直接かかわる場で成長感をもって働きたい」という気持ちが強まる一方で、2000年代に入ってからは日本の電機産業全体がグローバルにおいて収縮傾向に入ったことも手伝い、転職の可能性を少しずつ考えるようになりました。
そういうタイミングに、知人が紹介してくれたエージェントからマースの話をいただきました。BtoCマーケットで消費財を扱うこの企業の名前を、当時の私は知らなかったのですが、聞けばペットフードのペディグリーやチョコレートのM&M'sなど、世界市場を席巻するような商品を扱っているとのこと。興味がわいて、同社の役員数名に話を聞かせてもらいました。実に不思議な面談でした。ほとんどの方が「大変ですよ、本当にいいんですか?」と心配してくれるのです。私自身、40代での初めての転職、しかも畑違いの外資企業への転身でしたから迷いましたが、どういうわけか根拠もなく「なんとかやれそう」という直感もあって、決断をした次第です。
マースには英国人HRヘッドの後任候補として入社したのですが、すぐに多くの役員が「大変ですよー」と言ってくださった意味がわかりました。意思決定やアクションのスピード、必要とされる英語力が違うだけでなく、入社翌年には、日本を含む多くのマーケットで大規模な組織再編とリストラクチャリングが実行されました。自分の身の上さえ案じた時期もありましたが、とにかくHRの人間としてこのタフなミッションを乗り切り、会社を成長軌道に復活させる変革マネージメントに携われることによって、成長することができたと思っています。
こうして、結果的に「ザ・日本企業」に20年、「ザ・グローバル企業」に7年在籍し、国内外のHR分野の仕事を経験してきた私のもとに、ある日、トリンプ・インターナショナル・ジャパン(以下、トリンプ)からお話が届いたわけです。前の転職も、BtoB中心のハイテクからBtoCの消費財というチャレンジでしたが、今回もまたアパレルという未体験領域であり、同じBtoCといっても女性を対象にしたリテールビジネスということになります。ただし、前回同様、私にとっては「まったくの畑違い」という要素は「興味やチャレンジ心をそそられる」というポジティブなものでした。しかも、日本を最重要市場の一つとし、多くの消費者に日本企業と思われるくらいこの国の市場に浸透しているトリンプが、グローバル企業としての強みにレバレッジを効かせることで、さらに成長を目指そうとしているというお話を聞き、大いに心動かされたのです。まさに自分が得てきた経験を活かすことができそうだし、非常にダイナミックな変革に携わることができる。そう感じて、お話をお受けし、今に至っています。
[2]現在の社内での役割について教えてください
取締役人事本部長として他の役員とともに日本法人としての意思決定や執行を行う立場にあると同時に、トリンプのグローバルHRBPの一人でもあり、ホールディングやビジネスユニットの幹部と協働して日本のビジネスをサポートし、変革を推進していくミッションも担っています。トリンプが日本で築いてきた資産や強みを大切にしながら、新たなチャレンジを行っていくのが私の使命。これまで、いわゆるHR業務のみならず、お客様相談室や販売スタッフトレーニングにも携わる機会もいただきました。エンドtoエンドを網羅する製造小売業は消費財に比べてはるかに複雑です。HRの観点でもチャレンジが大きく、それを実感しながら、成長感をもって仕事をしています。
トリンプ・インターナショナル・ジャパンは、消費者認知の非常に高いブランドや製品をもちます。それらを心から愛し、誇りに思っている人が集い、オープンかつカジュアルでフラットな環境や働きやすさを実現しています。女性向け商品の会社ですが、男性や外国籍社員も多数在籍していて豊かな多様性も備えています。これらの強みをしっかりと継承しながら、どうすればMake a difference できるか、そのための組織や仕組み、人をどう育てていけるか、というテーマに取り組んでいるところです。