[6]専門的スキルは主にどこで獲得したのですか?
オペレーション上のHRやビジネスのスキル、チームマネジメントであれば、NECで広く学んだのですが、もっと経営に直結するようなもの、例えば、チェンジマネジメントや組織開発、タレントマネジメント、リーダーシップ開発はマースに転職してから学びました。コンピテンシーなど、日本企業では形骸化しそうなツールも、HRのプロセスにしっかり組み込まれており、私自身が日々それを促進する立場にいたために、その過程でCHROにつながる専門性を得ていったと思っています。
[7]リーダーシップやマネージメントに関する経験やスキルは、いつ、どこで獲得したのでしょう?
前の質問への返答と重なりますが、マース、トリンプを通じて現在も進行中です。「経営の一部としてのHR」というものを新たに学びました。マースの幹部からは「経営7、HR3」という割合の重要性を何度も聞かされました。HRがどう企業経営に関わっていくのか。そのノウハウと同時に、醍醐味も覚えていったのです。エグゼクティブコーチをつけてもらったのも非常に良い経験でした。
現職のトリンプでも、自分でファシリテートするリーダーシップトレーニングやチームビルディング、キャリア面談、コーチングなどがアウトプット型の学習になっています。自己投資もしてきました。産業カウンセラーやキャリアコンサルティングの資格取得やネットワーキングを通じて継続学習しています。[8]キャリア形成上の転機があったとすれば、それはいつのことですか?
圧倒的に40代初めのマースへの転職です。それまでの自分の認識が次々と上書きされていく感覚でした。HRのビジネスにおける役割、ビジョンや戦略の組織展開、変革リーダーシップ、エンゲージメント、原則による働き方など、ラーニングとアンラーニングの連続でした。英語も実は転職してから必要に迫られて学びなおしました。この頃の経験なくして今の自分は考えられません。[9]強く印象に残っている試練やストレッチの経験について教えてください
これまたマース時代ですね。転職翌年のリストラが終わった頃には、たかだか2年前に日系大企業の本社にいた自分が遠い昔のように感じました。その後、マネジメントチームに入り、会社が新たな成長軌道を目指して変革を繰り返していく過程で、HRがどう経営に貢献できるかを問われ続けたおかげで、成長を加速できたと思います。[10]影響を受けた先輩や、師匠といえるかたはいらっしゃいますか?
一連の返答でお察しいただけるように、マース時代のグローバル幹部に強く影響を受けました。単に頭脳明晰で優秀だというだけでなく、先ほど申し上げた「経営7、HR3」というような確固たる哲学を持っていて、その実現のための方法論も数々携えながら、実行に移していました。加えて、共感力のあるコミュニケーションができる経営者でした。誰かが書いたような原稿ではなく、自分の言葉で発信をして、聞く者のエンゲージメントを高めていくことのできる人たちでした。[11]座右の銘や、独自の哲学などをお持ちですか?
特に座右の銘はないのですが、仕事をするうえで普段から心がけていることが3つあります。課題と向き合うときの姿勢として、1つめは事象をぼんやり眺めるのではなく「見立てる」こと。2つめは、自分のポジションをとること。そして3つめが何事も意図をもって取り組むことです。[12]感動し、影響を受けた本や映画などがあれば教えてください
私はジャンルを問わずにたくさん本を読んで影響を受けてきたのですが、最近人によく薦めている本は、バルミューダ創業者の寺尾玄さんの自伝『行こう、どこにもなかった方法で』(新潮社)と、植村直己さんの『青春を山に賭けて』(文春文庫)の2冊です。時代や立場など、まったく違うお二人の本なのですが、共通している価値は「可能性を信じ続ける」ことです。非常に勇気づけられます。[13]CxOというキャリアの将来性や、今後期待される役割について、どうお考えですか?
CHROはHRというフィールドに軸足を置きつつも経営の一部なので、その成功の鍵はHRを超えたビジネス視点をもつことに尽きると思います。若い人たちには、どんな仕事に就いていても、ビジネスをより高い視点で俯瞰しながら働くことを心がけてほしいと思います。HRの専門性はCHROを志す前提条件でしかなく、また後からいくらでも強化できます。私もまだ修行中の身ですが、経営視点をもって専門領域をリードするCxOが増えていけば、CxOという役割がどんどんプレゼンスをあげていくことになるはずです。
[14]ご自身の今後のキャリアビジョンについて教えてください
3年後あるいは5年後に自分がどうなっているのかはわかりません。どんな立場になっていようと、そこに至るまでの道筋を自分の言葉で語り、納得できるようなものにしていきたい、と思っています。
キャリアは目指すゴールに向かって一直線に突っ走っていくような道程ではありません。山あり谷ありの道なき道を進み、様々な出会いやライフイベントが複雑に絡み合い、好むと好まざるを得ず方向転換や小休止もあります。パスが目の前に開かれているわけではなくて、登山用語で言う「縦走」を続けていった結果、振り返ったら自分のユニークなパスができているのがキャリアだと思っています。前に進むことで過去が初めて意味づけられるようなものです。これからも、どうして今ここにいるのか、を自分の言葉で語れる人間でありたいと思います。