[3]小中学生時代はどんなお子さんだったのでしょう?
物心がついた時分から、「人が好き、平和が好き」という価値観があり、その基本は今も変わっていません。小学生のころは「皆が仲良くできるよう、何でもいいから貢献したい」という気持ちから、学級委員になってクラスをまとめたり、同級生でも先生でも、誰とでも分け隔てなく接したりするタイプでした。
中学に入ると、私のこういう言動が誤解され、気づいたら仲間はずれにされていたという経験をしました。今まで仲が良かった友達から急に無視され、グループに入れてもらえなくなったことで、最初はとまどって「ごめんね」と言っていました。ところがある日、ふと思ったんです。「何で私は悪くないのに謝っているんだろう。」その瞬間からスッキリ割り切れたんです。
私についてネガティブなことを言う人がいても、気にしなければいい。もちろん意見は聞くけれども、本当に好きな人や尊敬している人以外の声や態度は受け流そう。万人に好かれる人はいない、と開き直った途端、ぶれなくなったように思います。
自分は自分である、ということが大事なんだと、子どもながらに気づいたわけです。実はこれ、ユニリーバの基本理念である「Be Yourself」そのものなんです。自分らしくあることの意味を感じた最初の瞬間でした。
[4]高校、大学時代はどのような学生でしたか?
中学時代のこの大事な経験により、高校生活が更に楽しくなったのだと思っています。入学した高校がとてもダイバーシティのある学校だったおかげで、私はBe Myselfな日々を謳歌することが出来ました。全く違うタイプの子たちが、当たり前のように仲良くして、共存できていたんです。
そこには、それぞれを尊重する、という暗黙の了解がありました。これもユニリーバの醍醐味でもあるダイバーシティを最初に肌で感じた体験でした。そんな3年間を経て、今の私とほとんど変わらない人格がすでに高校時代には出来上がっていたように思います。高校時代の友人とは今も交流が続いていますし、彼女らからは「由香は本当に変わらないね」と言われています(笑)。
大学に入ってからのことは冒頭でお話をした通りです。組織論の授業がきっかけとなって専攻を変え、花田光世先生のゼミに参加しながら組織のこと、人のこと、モチベーションのことを学んでいきました。[5]ご自身の専門性をいつごろ決めたのでしょうか? その理由についても教えてください
前の質問にお答えした通り、大学2年生の時に組織というものの面白さ、そこに参画している個人を元気にしていくことの価値に気づき、面白いと思った時に、その後の自分の道筋を決めたのだと思います。
父はジャーナリストという専門性を軸に個で活躍する存在でした。それゆえ家庭内にサラリーマン的な文化や価値観はなかったのですが、だからこそ「世の中の会社には組織というものがあって、そこにルールや文化があり、それにもとづいて個々が行動している」ことに面白味を覚えたのかもしれません。[6]専門的スキルは主にどこで獲得したのですか?
GEに入社してHRLPというプログラムに参加してからの日々が、私にとって最初の専門的スキルとの出会いになりました。もちろん、パソナ時代にも企業の組織や人材のあり方に触れてはいましたが、あくまでも外部から関わるコンサル的なポジションでした。
正面からHRというものと向き合うことができたのはGEのおかげ。実務経験のない私にHRという仕事を提供し、しかもビジネスパートナーとしてリーダーとして携わっていく機会を提供していただけたことで、成長していくことができました。
そのうえでユニリーバ・ジャパンに来たこともスキル獲得に役立ちました。CHROとしての役割を担えたのはここが最初でした。部門の責任があるということ、ひいては取締役として会社の責任があるということは、実際に体験することで理解できるのだと分かりました。この会社で実際に経験をしなければ今の私はなかったと思っています。[7]リーダーシップやマネジメントに関する経験やスキルは、いつ、どこで獲得したのでしょう?
これもまたGEとユニリーバ・ジャパンの双方を経験したことが大きかったと思います。どちらの会社もグローバルで大きな成功をおさめていますが、米国企業と欧州企業との違いもありますし、リーダーシップに関する発想や価値観も異なります。
「こうあるべき」という確信のもと、一気呵成にアクションをとっていくGEと、「違い」を尊重しながら意思決定を行いリードしていくユニリーバの両方を知っていることが、今の私の仕事に大いに役立っているんです。どちらの会社でも、心から尊敬できるリーダーと出会えたことも大きかったと思います。[8]キャリア形成上の転機があったとすれば、それはいつのことですか?
これまでに2度の転職を経験しましたが、最大の転機はコロンビア大学への留学だったと捉えています。組織心理学という、自分の興味そのものを扱う分野を勉強できたことばかりでなく、多様な人種の仲間に囲まれ、多様な価値観の中にいながら学べたことが、その後の私のキャリア形成でも役に立ちました。[9]強く印象に残っている試練やストレッチの経験について教えてください
ユニリーバ・ジャパンへ来てからの私が最もストレッチしたように思います。先にも申し上げたように人事部門のマネージャーとしての経験はGEでも積んできましたが、会社経営にもダイレクトに携わるCHROとしての経験則のほとんどは、ここで経験させてもらえたものだからです。
人事部長としてのロールと、取締役としてのロールは当然違います。そして、その違いはやはり任され、実際に経験してみないとわからない。その機会を与えてくれたこの会社に感謝をしています。[10]影響を受けた先輩や、師匠といえるかたはいらっしゃいますか?
多くのかたがたに影響を受け、教えを授かってきましたけれども、特に挙げるとすれば慶応義塾大学時代の花田光世先生と、GE時代の上司だった八木洋介さん(現LIXILグループ副社長)です。[11]座右の銘や、独自の哲学などをお持ちですか?
私なりに信念としている事柄が3つあります。1つは「不可能なことなんてない」、もう1つは「どうせやるならば最大限の効果を出す」、そして3つめが「どんな人にも幸せになる力とチャンスがあり、幸せになるための種(タネ)を持っている」です。[12]感動し、影響を受けた本や映画などがあれば教えてください
『アルケミスト―夢を旅した少年』(パウロ・コエーリョ著)という本に出会った時は、非常に感銘を受けましたし、仕事の上でも影響を受けています。物語ではあるものの、そのストーリーの随所に「どんな時にだってチャンスは必ずある」のだということや「どんな物事にでも意味はある」のだということを教えてくれるんです。
映画では2014年に公開された『ダライ・ラマ14世』というドキュメンタリーが心に残っています。厳しい状況にあるチベットですが、ここで暮らす方々の心の豊かさに感動しました。[13]CxOというキャリアの将来性や、今後期待される役割について、どうお考えですか?
CxOはチーフ・オフィサーですから、当然のようにリードしていくロールを担うことになります。加えて、CxOは文字通りその道の専門性を駆使することが必須になります。リーダーとして方向性やビジョンを指し示していくばかりでなく、自分自身がLead by exampleとなり、体現して見せるだけの力が求められる。
「引っ張る」人だけれども「そこにいる」人でもあり、「そこにいる」ことで周囲が幸せになるような機能を示していかなければいけません。CHROやCFO、CTO、COO、さらにはCEOも含めて皆がこの役割を果たしていくことで、これからの企業経営は成り立っていくのだと思っていますし、当然、必要不可欠な存在だと考えています。[14]ご自身の今後のキャリアビジョンについて教えてください
私のこれまでのキャリア・ヒストリーの中でも、今まさに最高の幸せを実感しながら毎日を送っています。ですから今後のビジョンとしても、こういう毎日を続けていきたいし、そのために解決が必要な課題が現れれば、その都度マインドフルに対応したいと思っていますし、社員が、そして社会の全ての人たちが、より心豊かになれるような 在り方、行動をしたいと思っています。[15]若い方々へメッセージ、アドバイスをお願いします
「毎日を楽しくすごしてください」が、私からのメッセージです。単純に思えるかもしれませんが、実はこれって難しいですよね。どんな仕事に就いていても、どんな会社にいても、悩みや不安は誰しもが持っているものだと思うのです。けれども、私は以前から「どんな出来事もどんな難問もチャンスだし、それと向き合えることは幸せ」なのだと信じています。
だからこそ、ポジティブに「楽しい」と感じ取りながらチャレンジをしてほしいと思うんです。苦難だと捉えるのでなく、チャンスだと捉える意識を持つだけで、結果は必ず変わってきます。CxOを目指すうえでも、チャンスとなって返ってくるのだと私は考えます。