はじめに
他ファームからの中途応募者から、これまで数えきれないほどの転職理由を聞いてきました。
時期によっては、まるでテンプレートのように転職理由が似通っていることがあります。
例えば、10年以上前は「システムコンサルから上流のビジネスコンサルティングの領域を見ることで、決められたことを粛々と対応する以上の価値を出したい」という理由が多く聞かれました。(ビジネスコンサルティングという言葉は、業界の人にとっては久しぶりに聞く言葉かもしれません)
また、数年後には「これからはデジタルが分からないと経営に真の価値を提供できないから、DXコンサルティングの領域をやっていきたい」という理由が多くなりました。以前はシステムが嫌だと言っていた人が、看板を掛け替えただけでデジタルに取り組みたいと言い始めたのです。冗談のような話ですが、多くの方がこのように語っていました。
最近では、「デジタルや戦略といった1つの企業の改革ではなく、社会や産業に貢献できるコンサルティングをしたい」という理由をよく耳にします。しかし、数年後には「1つの企業に寄り添って長く付き合っていきたい」と言う方が増えるかもしれません。
このように、転職理由のうち「なぜこのファームを志望するのか?」という点は似通っているため、採用側はあまり重視していません。一方で、転職理由に至った背景、つまり候補者のキャリアのストーリーや原体験といったエピソードは重視しています。
評価で見ている点
キャリアのストーリーや原体験を重視する理由について少し補足すると、面接官はストーリーの面白さや原体験のインパクトを重視しているわけではありません。
当然、聞いたこともないような話の方が面白く聞けますが、インパクトの尺度は当事者次第であるため、そこは評価対象とはしないようにしています。
一方、重視しているのは
● 話の論理的整合性
● どういう話の運び方をするのか
● 掘り下げた質問に対してどこまで回答が来るのか
といった事前の準備する力や深い思考力、あるいは前時代的かもしれませんが質問に対する反応やストレス下におけるメンタルの安定具合という点です。
つまり、コンサルタントとしてのファンダメンタルな部分に注目しています。
また、業界内での転職の場合、役職があがればあがるほど、知り合いをたどれば候補者を知る人物と出会えることから、実態としてはコンサルタントが採用に関与する度合いが高いほど、リファーラルの情報を収集しています。なお、人事部が主導でコンサルタントの関与が少ないファームにおける採用ではあまり裏取りはしていない模様です。
評価されやすいコンサルの転職理由
ただし、あまり気にしてはいないというものの、評価されない、警戒される転職理由も存在します。
● 長く定着しないジョブホッパーを想起させるような転職理由
● 狭い視野に基づく現状への不満を匂わせる転職理由
● 入社後に自分自身のことしか考えずチームの輪を乱す可能性を感じさせる転職理由
...といったように、一緒に働く可能性のある未来の同僚や上司を不安にさせる話は避けた方が良いでしょう。言い換えると、この点に気を付けておけば、結局は紋切り型の転職理由に落ち着く可能性は高いかもしれませんが、マイナス評価をつけられることはありません。
そのような中で、よりポジティブに受け入れられやすく、また前向きに聞こえる転職理由をご紹介しておきます。
1.世の中をどうにかしたい系
何度も聞いていますが、筋は通って分かりやすいです。基本は、親が小さい会社を経営しておりから始まり、日本の産業を良くしたいといった結びで終わります。
2.将来、起業したい系
こちらも何度も聞いています。ジョブホッパー感や個人プレイ感を出さないように注意。何パターンかありますが、例えば大学ではこういった分野を研究しており、今の会社ではプロジェクトアサインの幅が少なく、成長のスピード感ややれることの限界からといった理由。
3.よりクライアントに貢献したい系
こちらも珍しいものではありません。現職の不満に聞こえないように注意。この理由もいくつかありますが、基本形は意思決定された戦略をHOWのレベルから関わるのではなく、WHYやWHATから関わりクライアントへ貢献したいという説明となる。
4.更に自己成長したい系
3の「よりクライアントに貢献したい系」と実際は説明される転職理由は同様ですが、目的が異なるパターン。若いうちに難しいイシューにチャレンジしたい、CxOと相対する修羅場を潜り抜けたいといったように、現ファームのポジションでは経験できないことや成長スピードへの物足りなさと共に語られることが多い。
5.本当は転職したくないけど仕方なく系
組織内での体制変更や方針が変わった、事業としてたたむことになったというように、志がある中で本人とは関係のない構造的な理由で転職を叶えることになったという理由。受け身に聞こえないように志と共に語るのが評価のポイントです。
最後に
もちろん、前向きに聞こえる転職理由は他にも存在します。しかし、どのように話しても経験豊富な面接官には既視感を与えることがあるでしょう。そのため、再度強調しますが重要なのはマイナス評価を避ける理由を述べないことです。
転職理由の質問は、基本的にはファンダメンタルな点での評価の前に行われる一次選考のようなものと考えてください。転職活動においては、ケース問題を解く練習や、日常的に自分ならどうするかという脳内シミュレーションを繰り返し行うことで、しっかりと対策することをおすすめします。