SDGsやサステナビリティは経営アジェンダ
モニター デロイトは先駆者として市場を開拓する
SDGsやサステナビリティの領域は、少し前まではCSRとして語られ、大企業がコーポレートブランディングを強化するために行ってきた。2014年から本格的にCSV/Sustainability案件に取り組んでいるモニター デロイトによると、ここ数年はそういった状況に変化が起きているという。
【藤井】「社会課題の解決に関しては、以前はCSR部門や一部の関心のある企業からのご相談に留まっていました。しかし、SDGsが採択された2015年以降、特に2018年に『SDGsが問いかける経営の未来』という書籍をモニター デロイトで出版してから、経営トップや経営企画部門から直接案件のご依頼を頂戴することが多くなりました。その中では、SDGsやサステナビリティが経営アジェンダとして語られ、経営計画や全社改革の主軸に据えられることが多くなりました。プロジェクトの規模も数か月ではなく年単位/億単位になることが当たり前の状況まで規模が拡大してきています。また、SDGsやサステナビリティに関して、パーパスやパーパスドリブンな全社改革といった全般的なテーマもそうですが、気候変動やサーキュラーエコノミー、人権といった個別テーマだけでもコンサルティングビジネスが確立してきているので、こうした状況からも、この市場は非常に拡大してきていると感じています。」
CSVおよびSDGsに関するマーケットについてお聞きしたところ、モニター デロイトのアソシエイトディレクターとして、社会課題やサステナビリティを軸としたコンサルティングやブランディングを推進している藤井氏はこう答えてくれた。
では、その拡大しているCSVおよびSDGsに関するマーケットでモニター デロイトがなぜ強いのか?その理由を藤井氏と同じくCSVおよびSDGsをリードしている加藤氏にうかがうと、
【加藤】「私たちはSDGs採択前から専門チーム(CSV/Sustainability Strategyチーム)をデロイト トーマツ コンサルティングの戦略部隊の中に作ったというのが1つの特徴です。ポーターの流れを汲むモニター グループと一緒になる以前から専門チームとして活動してきた歴史があります。もう1つはモニター デロイトになってからの話で、グローバルであらゆるベストプラクティスやメソトロジー(方法論)が共有され、私個人としてもアジアやヨーロッパのチームとプロジェクトを進めることも増えてきました。当然、競合他社も力を入れていると思いますが、比較してもかなり強くアクセルを踏んでいる、という自負があります。また、社会課題の最前線にいるNGOや国際機関、国連機関との連携も早い段階から行っています。例えば、前職が国際NGOというバックグラウンドを持ち、SDGsを作る側にいた山田のような人間もチームに在籍していることから、本当の意味で社会課題の最前線と経済活動を両立させに行く、という体制が整っていると思っています。」
山田氏は大手国際NGO オックスファムにて国連のSDGs策定交渉に深く関与した後、2016年からデロイト トーマツ コンサルティングに参画したスペシャリストだ。
【山田】「私がこのチームにジョインした頃はまだクライアントからの依頼はCSR部門からの依頼が多く、 SDGsとは何か?という講演やワークショップというものが多く、また、どういったところがNGOから批判されやすいのか?という問いが多かった。それに対して最近は、全社改革的な話――たとえば気候変動による脱炭素化が蓋然性の高い未来であると考え、事業ポートフォリオをどう組み替えていくのか?といったことや、そういった大きな変革を行うために自社のビジョンやパーパスをどう位置付けるのか?という経営トップラインからの問い合わせが増えていると感じます。また、デリバリーフェーズでの話になりますが、企業がいざSDGsに取り組もうとすると、NGOや国際機関などの非営利セクターとエコシステムを組んでいく場面が訪れるわけですが、SDGsに対する理解が異なるがために上手くいかないケースもあるので、私のようなSDGsを社会的ステークホルダーの立場から語ることができるメンバーがいることで、デロイト トーマツ コンサルティングのサービスに厚みを与えている側面はあると思います。」
デロイト トーマツ コンサルティングは元来この領域の先駆者であったわけだが、モニター デロイトという名前を使い始めた2018年頃から、SDGsやサステナビリティが経営や戦略コンサルティングに求められることが急速に増えたこともあり、モニター デロイトといえば、サステナビリティストラテジーやCSVおよびSDGs領域のオファリングを有する、というブランディングが確立された部分はある、と藤井氏は語る。そういったブランディングに加え手掛ける案件の豊富さ、グローバルな情報共有、国連/国際NGO等とのネットワークなどが相まって、モニター デロイトが第一人者として存在感を高めているようだ。
モニター デロイトがプロジェクトの最上流を担い、デロイトグローバルのネットワークを駆使して実行まで伴走する
SDGsやサステナビリティはテーマがあまりにも広いので、守備範囲をどうしているのか?という素朴な疑問がわいてくる。
【藤井】「サステナビリティが扱うテーマは多岐にわたり、深くなればなるほどより専門的な知識が求められますので、そこはオールデロイトでカバーをしています。私たちモニター デロイトはSDGsやサステナビリティに関連する戦略コンサルティングを提供していますので、SDGsやサステナビリティが企業に求めていることを経営言語に翻訳してパーパスや経営ビジョンに落とし込むことや、パーパスドリブンな事業ポートフォリオに組み替えていくなど、いわゆるコンサルティングの上流部分、戦略領域を担うことが多いです。例えば、ある総合商社とのプロジェクトでは、気候変動問題が各事業に与える影響を分析しシナリオプランニングを立てるというプロジェクトを実施しています。商社は様々な事業をお持ちなので、それぞれの事業が取り扱う商材の深い専門知識が必要な場面では、デロイト トーマツ コンサルティングのインダストリーチームと協働するという体制を取ります。全体を俯瞰したポートフォリオの観点やサステナビリティな領域は我々が担当し、個別の商材の具体的な商流の見直しなどの議論になる際には、その専門のインダストリーメンバーと一緒になってチームを組んでいきます。」
加藤氏からは別の案件として小田急電鉄とのプロジェクト事例についても語っていただいた。
【加藤】「小田急電鉄とのプロジェクトはとても象徴的でした。同社はイノベーティブな企業変革を推進されており、SDGs起点で新規事業を考えていくというミッションを持ってプロジェクトが始まりました。いくつかあるプロジェクトの中でサーキュラーエコノミーの領域では、ゴミや資源を徹底して回収・リサイクルし、新たな資源の使用や廃棄物を減らす循環型の経済システムを確立する、ということを目指されています。経営戦略部の執行役員の方を含めたチームで、日々廃棄物業界に寄り添い、自治体やNGOとも協力して事業化を進められる、という非常に小田急電鉄らしい事例です。このプロジェクトで特徴的なのは米国のユニコーン企業であるルビコングローバルとアライアンスを組み日本で実験を進めていくことになりましたが、このアライアンスはモニター デロイトのグローバルネットワークを駆使することで実現できました。このサーキュラーエコノミーの事業化は日本でも初めての取り組みであるだけでなく、世界循環経済フォーラム(World Circular Economy Forum)において、主催団体のSitraから世界的にも先進的なサーキュラーエコノミー事業として表彰されました。同社とのプロジェクトは長い時間をかけて構想からご一緒し、モニター デロイトのグローバルの知見も借りながら実行まで伴走させていただいています。」
未来が「アンノウン」な状況下であるからこそ、社会課題起点からの変革を支援する
他にも最近では、全社改革系や長期ビジョン策定などの案件が増えており、SDGsやサステナビリティといった社会課題起点から始まるプロジェクトをいくつも手掛けているという。
【山田】「大手エンジニアリング会社のケースでは、これまでの稼ぎ頭の事業がオイル&ガスということもあり、長期的にこの事業がどう推移するのか、市場がどう動くのかを真剣に見極めなければいけません。この先5年位であれば大丈夫かもしれませんが、いずれくる20年後など長期で見た際には足元がすくわれかねないので、勇気をもってきちんと見つめようと。その結果、今まで通りのやり方では事業が先細ってしまう可能性があるので、そうであれば脱炭素化する社会というものをしっかりと正面から受け止めて、その中で自社の保有する技術や強みというアセットを活かせる事業ドメインの再定義をしなおそう、というようなプロジェクトが走っていました。企業経営が「アンノウン」な状況下である現在では多くの企業が抱えている課題であり、これらを解決するために我々は勇者としてクライアントをサポートしなければいけません。」
SDGsやサステナビリティへの取り組みは比較的綺麗事のように考えていたが、アジェンダによっては企業の生命線にかかわる問題のようだ。こうした外部環境の変化は強烈に企業変革を後押しする。
【山田】「傾向としては、B2Cのビジネスでよりサステナビリティに感度の高い層がお客様となる業界――例えばアパレルや食品、そして最近ではそれを陳列するショッピングモールやそれらをB2B2Cで紹介するプラットフォーマー企業なども含まれます――が、SDGsやサステナビリティを重視するようになっています。その他、自動車業界はエンドプロダクト自体も環境負荷が高く、また製造過程でも裾野産業が広く、やはり環境負荷や社会負荷が高くなるので、NGO側から見るとわかりやすいターゲットになり得ます。こういった業界は叩かれ易い産業なので、全世界的にも言えますが、日本でも真剣に取り組まれている業界といえます。」
業界ごとの温度差は当然あるとして、個社ごとの温度差はどうなのか?クライアントを巻き込んでプロジェクトを進めるにはどうすればいいのだろうか?
【藤井】「環境省からの委託事業で気候変動のシナリオ分析を民間企業に対して行う、というプロジェクトをパブリックセクターのチームと共同して過去3年にわたり数十社の民間企業へ提供してきました。環境省とのプロジェクトということで、各社ごとに検討チームを組成していただき進めていますが、主管している部門と、社内から集められた、それまで気候変動問題から距離があった事業部門や役員層では温度差が当然あります。経営トップや経営企画であれば5年10年先のビジョンや経営計画を検討するという視点で考えられますが、現場の事業部門では四半期や1年で成果を出すことがロールとして設定されていることが多いので、どうしても考え方にギャップは出てきます。他にも経営トップがコミットしている会社と、世の中がそういう動きになっているのでまずは勉強してみようというステージで取り組んでいる会社でも当然トーンは変わってきます。」
【加藤】「SDGsやサステナビリティ起点からの変革というのはある種新しいコンセプトなので、変革を推進するには、私たちが「着火」と呼んでいることが大きなポイントだと思っています。これまで多くの企業変革などに携わってきた経験やグローバルの事例でいうと、社内の先進的な人たちを「着火」し、社内外で成功体験を積み重ね、対話を重ねていくことが、広範囲に影響力を強めていくことに繋がります。プロジェクトを進めていると、中には、SDGsって何?という方も当然いらっしゃるわけですが、プロジェクトを進めていく中で社外からビジネスパートナーがやってくる、NGOが褒めてくれる、資本市場から好反応が返ってくる、となるとやっていることに自信がつき、「着火」されていく。そうなると内部と外部の好循環が発生してくるので変革は加速していきます。」
【山田】「コロナ禍において、感染率や重症率、ステイホームの可否などという非常に深刻な形で、社会的・経済的な格差が露見し、最も脆弱な立場にあるステークホルダーへの企業の姿勢が厳しく問われたことから、今後は環境領域に加え、人権の領域においてもクライアントの意識が高まってくるだろうと予想しています」
社会価値と経済価値の両方を追求していく
そのためには未知なる領域の市場開拓者であれ
モニター デロイトのパートナーである藤井氏や神山氏のインタビューでは、MD(モニター デロイト)プリンシプルという行動原理による "勇者"であれ、と話されていたがモニター デロイトが求める人材とはどういった人材なのか?
【藤井】「アスピレーションを共有できる人だと考えています。社会価値と経済価値の両方を追求していきたい、CSVやサステナビリティの先進企業を日本発で数多く生み出していきたい、と思っていますので、企業経営のコンサルタントとしてだけでなく社会価値を生み出していきたいという想いを持っている方とは是非一緒に働いていきたいです。また、そういうアスピレーションを持っている方であれば、モニター デロイトは外部への発信は推奨されているので、自分の興味ある領域を深めたいということであれば市場開拓から進めていくことも可能ですので(例えば教育格差、児童労働、動物の権利、などをテーマに掲げているメンバーがいます)、コンサルティング会社にいながらも特定分野の市場開拓を行うことができる、そういうフィールドがあります。」
【加藤】「2つあると思っていまして、1つが経済価値と社会価値のバイリンガルであるということ。入社時はどちらかに偏っているかもしれませんが、戦略コンサルタントを経験されているような方であれば後々社会価値をアドオンすればいいですし、社会課題の知見を持つ方であれば経済価値や経営の能力を高めていけばよいのかなと思います。もう1つは、サステナビリティはまだまだ未知な領域ですし、クライアント自身も答えを持っていない領域でもあるので、自分が先頭にたって開拓していく、という起業家精神――まさに"勇者"に近い気持ちを持っている人の方が合っているという印象があります。私も例えばサーキュラーエコノミーの知見は、モニター デロイト ジャパンはもちろん、デロイト フィンランドなどを巻き込みプロジェクトを進めていく中で力を蓄えてきました。最近では市場を創造していくという意味でエレン・マッカーサー財団(サーキュラーエコノミー推進団体では世界トップクラス)と共同でセミナーを開くなど"勇者"たる行動を心がけていますが、そういう動きが好きな人がフィットすると思います。特に年齢やランクに良い意味でとらわれない文化で、やりたいことがある方は特にチャンスは大きいと思います。」
【山田】「ただ経営コンサルをやっている、というだけでなくその先に社会を変えたい、という目的意識やパッションを持っている方が良いと思います。コンサルというと「冷徹」な印象を持つ人もいるかもしれませんが、頭は冷徹でも心は熱い必要があるのかな、と思っていますし、幸いなことにモニター デロイトにはそういうメンバーが集まっていると感じます。」
最後にモニター デロイトの働き方について山田氏からこう付け加えていただいた。
【山田】「働き方やDiversity&Inclusionの取り組みが非常に進んでいると感じます。私も小さな子どもがおり育休も取らせていただきました。また、メールや電話対応不可の時間帯を設定するワーキングプログラムを組ませていただいていますが、そういう制度があるだけでなく、それを使うことに後ろめたさを全く感じないでいられます。同じことは育児をしている社員だけでなくセクシャルマイノリティや外国籍の方々であってもしっかりとバリューが発揮できるような取り組みもまさにon goingで進んでいるところです。」
プロフィール
藤井 麻野 氏
デロイト トーマツ コンサルティング
モニター デロイト アソシエイトディレクター
新卒でDeloitteに入社後経営・事業戦略を中心としたコンサルティングに従事。社会課題やサステナビリティを起点とした経営ビジョン策定、中期経営計画策定、全社改革、新規事業開発やブランディングなどを専門とする。
加藤 彰 氏
デロイト トーマツ コンサルティング
モニター デロイト マネジャー
東京大学法学部及び公共政策大学院卒。モニター デロイトでは、国内外の企業をクライアントとした全社改革、中期経営計画立案、Go-to-Market Strategy 等の経営戦略案件に加え、サーキュラーエコノミー、ジェンダー、人権等の社会課題を起点とした長期戦略、グローバルの新規事業戦略立案・実行支援を多数経験。Monitor Deloitte Japan Circular Economy Strategy Co-Leader。SDGs研究/教育にも従事。
山田 太雲 氏
デロイト トーマツ コンサルティング
モニター デロイト スペシャリストリード(サステナビリティ)
2002年から2015年まで大手国際NGO Oxfamにて、国際保健、税・財政と貧困・格差、気候変動などの分野で政策アドボカシーを担当。2015年に国連で行われた「持続可能な開発のための2030アジェンダ」(SDGs)交渉では、Oxfamの国際チームを率い、成果文書に提言内容を一部反映させることに成功。2016年から現職。サステナビリティに関わるステークホルダーの動向などに関するインサイトをクライアントに提供。
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