コンサルティング業界におけるデジタル組織の立ち上げは2013~14年ごろから急激に進んできたが、BCGは戦略系コンサルティングファームの中でも早い段階で取り組みを始め、1990年代にITプラクティスを立上げ後急速に成長し、2014年にテクノロジーアドバンテッジ(TA)プラクティスへと拡大、2016年にBCG Digital Ventures東京センターを設立、2017年にはDigitalBCG Japanを設立し、一気にその存在感を増してきている。今や、BCGジャパンのデジタル関連のコンサルタント・エキスパートは200名を超え、さらに拡大を続けているという。まず初めにそのきっかけから話を聞いてみた。
デジタルはもはや、経営戦略の根幹に関わる課題になった
高部氏はこう語る。「デジタルは既に、全てのビジネスから切り離せない存在です。デジタルの台頭により、ビジネス環境の変化は急激に加速し、これまで業界の壁や既得権益で守られていたものですら、簡単に壊されてしまう時代になってきました。当然、競合として意識しなければならない会社も様変わりするし、ビジネスモデルの寿命が短くなり、立案した戦略が有効に働く期間も短くなるわけです。我々のビジネスは、クライアントに寄り添って日々戦略を練り直し、ビジネスモデルを作り直すことですが、これをより短いサイクルで素早く実行していくことが求められています」。
「デジタル化というと、AIやクラウド、RPAといったデジタル技術の導入を推進することと考えてしまう方が少なくありません。しかし、本質的には、デジタルを活用することで既存のビジネスモデルを変革させ、また、戦略を環境変化に合わせてアジャイルに練り直すことができる企業に変わっていく、それこそが『デジタル・トランスフォーメーション』であるとBCGは定義しています」。
従来の戦略立案のように、正しい問いを設定し、ロジカルに最適解を見つけることだけでは、クライアントが抱えるデジタル化の経営課題に対応することはできない。このような経営課題に適応するため、BCGはどのように自社のデジタル・トランスフォーメーションを進めたのか。
「出島」でイノベーションを創出し、それを本体に波及させる
そう話を向けると、「BCGは、デジタル・トランスフォーメーションが非常に上手い会社なんですよ」と平井氏は言った。平井氏は、BCGでデジタルイノベーションを手掛けるBCG Digital Ventures(以降、Digital Ventures)東京センターの立ち上げに奔走してきた中心人物だ。Digital Ventures東京センターは2016年に、BCG本体とは切り離す形で、世界で6ヵ所目に設立された。いわゆる戦略コンサルタントとは異なる専門性を有する、アントレプレナー、プロダクトマネージャー、エンジニア、そしてデザイナー出身者などの異能集団を率いている。
「Digital Venturesは、言ってみれば「出島」です。BCGとは価値観も働き方も異なる、才能豊かなユニークな集団が、BCGとは離れた場所で、自由に新しいものを生み出している。もちろん、適宜、クライアントの戦略を熟知した戦略コンサルタントや、テクノロジーを熟知したテクノロジーアドバンテッジグループの戦略コンサルタントとも協働しながら活動します。海外のやり方をそのまま踏襲すればいいという訳ではないので、立ち上げ当初は苦労することも多かった。それでも、クライアントと一体になって乗り越え、新しいものを生み出すことでさらに結束を強めていく。いわばクライアントとDigital Venturesの運命共同体的なプロジェクトスタイルです。
BCGでは、その成功や失敗全てを糧に、次につながるノウハウとして進化させています。イノベーションに成功パターンはありませんが、「BCGとであれば是非一緒にチャレンジしたい」と思って頂ける程のクライアントとの深い信頼関係、共同出資での新規事業創出というリスクの大きなチャレンジでも受け入れてくれるカルチャーの双方がBCGには備わっています。その土壌を最大限に生かし、Digital Venturesという全く別の「出島」の良いところを活かし、専門性有するDigitalBCG、TAとマージして、BCG本体とも一緒にデジタル・トランスフォーメーションも提供していく、というやり方は非常に有効であったと実感しています」。平井氏は、そう語った。
岩渕氏も同意するように頷きながら、「私の所属は、BCG本体なのですが、そのことにも大きな意味があると思っています。デジタル関連のコンサルタント全員がBCG本体を離れて別組織として関わるのではなく、私のようにデジタル活用に知見があるが、あくまでも所属はBCG本体という人間もいた方がいい。プロジェクトを通じて得た知見を本体にも還流することで、BCG本体のデジタルに関するナレッジの蓄積にも寄与できますから」と語った。
そしてこうも続けた。「私は最近BCGに入ったのですが、入る前のインタビューの時から多様なタレントが揃っており、特に風通しが良くフラットな組織だと感じていました。実際にプライベートで、同僚と一緒の時間を過ごすこともあります。入社してみると、組織としても成熟しつつあった。平井さんのDigital Venturesが確立され、DigitalBCG Japanも立ち上がってきている今のタイミングだからこそ、新しいアプリケーション(デジタル)と旧来のOS(戦略コンサルティング)をつなぐ、「ミドルウェア」として自分の能力を最大限に活かすことができるタイミングだと気づきました」。
デジタルのような新しい専門性を組織機能のラインナップとして揃えるだけでなく、戦略コンサルティングと融合させることにこそ意味があるという考えが、BCGの強さの本質だということだろう。
BCGのデジタル変革は、第二フェーズに来ている
「BCGのデジタル・トランスフォーメーションは第二フェーズに入っています。」と岩渕氏は切り出した。
第一フェーズが、Digital VenturesやDigitalBCG Japanを立ち上げ、エンジニアやデザイナー、データサイエンティストなど専門性を持ったメンバーを集めて、デザイン思考やアジャイルなどの新しい手法に取り組み始めたフェーズとすれば、第二フェーズとは、それを組織で体現する段階である。
「今や、BCGの手掛ける案件の4割はデジタル関連の案件になっており、今後も増えてくると思います。まず、戦略コンサルタントがクライアントの経営層と議論して経営課題を突き詰める。新規事業を手掛ける場合は、Digital Venturesに繋ぎクライアントと共同で事業の立ち上げを行う。デジタルの知見が必要な場合は、DigitalBCG Japanのエキスパートをチームにアサインし議論を深める。デジタル関連のコンサルタント・エキスパートが増えたことで、こういった組織的なプロジェクト運営が、様々な業界の多くのクライアントに提供できるようになってきています。」
そして更にその次のフェーズでは、戦略コンサルタントとは異なる専門性を持った人材が当たり前に存在し、戦略コンサルタントの定義自体も変わっていくようなイメージを抱いているという。
「今はあえて注力すべきテーマとしてわかりやすくするため、 『DigitalBCG』を掲げていますが、近い将来デジタルはコンサルティングスキルの大前提になると考えています」とは、高部氏の言葉だ。「デジタル組織が拡大することで、いつか従来型の戦略コンサルタントとデジタル組織の規模感が均衡する時が来る。そうなってくると、戦略コンサルタントの定義自体を見直す必要が出てくる。デジタルを経営戦略の一環として語れる人が戦略コンサルタントと呼ばれ、業界の知見に特化した従来型の戦略コンサルタントがむしろエキスパート人材という位置づけに変わってくる可能性もあると思っている。いずれにせよ、戦略コンサルタントとデジタル領域のエキスパートが完全に融合した形でクライアントに付加価値を提供する世界は、そう遠くないと見ている」のだと言う。
BCGだからこそ、手掛ける案件にはこだわる
ただ「デジタル」に取り組んでいるというだけなら、どこのファームも同様だ。だからこそ、会計系ファームや戦略ファームを経てBCGにジョインした岩渕氏に、BCGならではの「デジタル」への取り組みについて聞いてみた。
「クライアントから相談を受ける中で、特に難しいテーマがデジタルへの対応でしょう。しかし、その難しいテーマに対して、チームで真摯に取り組む姿勢は、私が知る他ファームと比べてもBCGがずば抜けています」と岩渕氏は言う。前例がない困難なテーマに対して、「ファイナンシャルインパクトとして成功を約束できないから、手を出さない」とか、「誰かが方向性を出してくれるのを待ち、それを実装する側に回る」という受け身なスタンスをとることは全くないと言う。
「中長期的な視点からみてやること自体に意義がある」、「チャレンジすることに意味がある」という前のめりのスタンスこそが、BCGのカルチャーなのだ。続けて、「それをなせるのは、東京オフィスを立ち上げて以来、50年以上にわたりクライアントのトップマネジメントと深く長い信頼関係を構築してきたBCGのパートナー陣の層の厚さと人間力に寄るところが大きい」と力を込めた。
高部氏は、新規事業プロジェクトに着手するにあたり、「3つの視点が揃って、初めてそのプロジェクト(案件)にBCGが取り組む意味があると考えている」と言った。それは、「尖りがあって面白いかという、ベンチャー視点」、「自社のアセットや歴史を踏まえて取り組む意味があるのかという視点」、「業界に風穴をあけるなど、新しい仕掛けでグロースさせられるのかという視点」だ。そこにBCGにとっての収益性やリスクといった受け身な観点がないことは、岩渕氏の話にも通ずる所がある。
更に岩渕氏は「BCGに来て強く感じたのは成長戦略案件が多いことですね。それも主要産業のメジャークライアントから、コスト削減や効率化といったテーマに加え、トップラインの向上を目的とした案件の依頼が多い。クライアントと合弁会社を作っての新規事業創出や、業界を超えた戦略的業務提携の相談など、多様な業界の担当パートナーが個々に経営トップと深い信頼関係を築けているからこそ頂ける相談が多い」と補足した。
高部氏もこう続ける。「例えばAIを使ったプロジェクトで、マーケティングの効果を高めるためのプロジェクトでは、カスタマーニーズのスコアリングまではどのファームも行います。ですが、さらに踏み込んでエンドユーザーに対して、どのようなチャネルでコミュニケーションをすると一番気持ちよく商品やサービスを受け取ってもらえるのか。さらに、どのようなコンテンツをどのように届ければフィットするのかまでコンサルタントが見極めます。定量面と定性面をバランスよく見て、分析のエキスパートとビジネスを熟知した戦略コンサルタントが有機的に融合して、実際に現場が動くところまでどう作り込むかが最も重要なところなのです」。
それは、戦略を立てるだけではなく、クライアントが成果を出す実行部分の支援までが自分たちの仕事であるという姿勢そのもの。コスト削減をはじめとする結果が数字に表れる成果連動プロジェクトにだけ目を向けるのではなく、組織が持つ良いカルチャーやそこに紐づく人の動きも決して損なわせない。「カルチャーをはじめとしたソフト面も含めて、成果を出す。これが我々のこだわりだと思います」。
人間がどう動くのか、ハード、ソフト、システムはどう作動するのか。そしてオペレーションはどう変わり、実際に店舗がどう変わっていくのか。フィジカルな領域にこそBCGは介入する。それはつまり、戦略の提言にとどまらないBCGの徹底力なのである。
BCGはデジタルコンサルティングファームではなく、戦略課題を解決するファームである
最後に改めて求める人材像について、高部氏に聞いた回答はこうだった。「エンジニアやUI/UXデザイナー、それにデータサイエンティストにデジタルマーケティングのエキスパートなど、様々な方にBCGに入社して頂いています。これからも、ただ専門性を磨くだけではなく、磨いたスキルをどう活かせばクライアントや世の中が良くなるか、それをどうチームでクライアントにインパクトを出すか、そういったことに強い関心がある方に来て頂きたいと思っています。」
BCGでデジタルプロジェクトをリードする醍醐味とは何か。岩渕氏の「実際、解が出せるのだろうかと悩んでしまうアジェンダばかりです。非常に難しい。でも、だからこそ我々がやるしかないのですから。解を出す以外の選択肢はない」という言葉には、BCGのコンサルタントとしての矜持が垣間見える。
「だから、Digital Venturesには競合はいないよね」という平井氏の言葉からも、この世に未だない、新しい価値を創り出していくことを使命と捉えているからこその、自分たちだからこそできることをやろうという意志が伝わる。
そして、高部氏の言葉はこうだ。「業界のトップ企業の経営者を相手に、『世の中がどう変わっていくのか?』という議論ができる。これは、経営者であれば四六時中考えているテーマですから、当然気は抜けません。それでも彼らの最大の理解者としてリアルな話ができることは、一番の醍醐味と言えるでしょう。私がコンサルタントを続けるのも、様々な経営者の悩みを解決することが、日本や世界のためになると信じているから。シンプルにこんなに面白い仕事はなかなか無いですし、だからこそ、このような機会を色んな方に提供したいと思うんです」。
最も新しく困難とされるデジタルの領域において、自身もトランスフォーメンションを続けながら、これまで世の中に存在しなかった価値を創造し続けるBCG。デジタル領域への深いコミットメントが表すのは、「自分たちこそが、解を導き出すのだ」という、世界有数の戦略系コンサルティングファームの使命感なのかもしれない。
プロフィール
高部 陽平 氏
BCGマネージング・ディレクター&パートナー
DigitalBCG Japan 共同リーダー
IBMビジネスコンサルティングサービス(旧プライスウォーターハウスクーパーズ)を経て、2005年にBCGへ。BCGミュンヘン・オフィスを経て現在に至る。BCGジャパンのデジタル&アナリティクスリーダーとして、様々な業界の企業に対して、デジタル・トランスフォーメーションを手掛けている。
平井 陽一朗 氏
BCG Digital Ventures マネージング・ディレクター&パートナー ジャパンヘッド
三菱商事を経て2000年にBCG入社。その後、ウォルト・ディズニー・ジャパン、オリコンCOO(最高執行責任者)、ザッパラス社長兼CEO(最高経営責任者)を経て、2012年にBCGに再入社。メディア、エンターテインメント、通信業界を中心にアライアンス、成長戦略の策定・実行支援、特にデジタル系の新事業構築などを多く主導。また、BCG Digital Ventures東京センターの創設をリードし、開設後はジャパンヘッドとして、デジタルメディアやコマース等の新規事業創出、立上げ、出資など幅広く手掛けている。
岩渕 匡敦 氏
BCG マネージング・ディレクター&パートナー
ソフトバンク、複数のIT・ベンチャー企業のマネジメントを経験後、Deloitteのデジタル戦略プラクティス責任者、外資系戦略ファームを経て2019年にBCGに入社。BCGテクノロジーアドバンテッジグループ、ハイテク・メディア・通信グループ、およびコーポレートファイナンス&ストラテジーグループのコアメンバー。大手企業に対するデジタル戦略・トランスフォーメーション及び事業創造支援を手掛けている。
この企業へのインタビュー一覧
- [デザイン/デジタルコンサルファームインタビュー]BCG digital ventures
パートナー 東京センター・ヘッド 平井 陽一朗 氏 / 島田 智行 氏 / 山敷 守 氏 / 花城 泰夢 氏 / 堀口 綾 氏 - [コンサルティング業界ブログ]DigitalBCGとBCG digital venturesの違いとは?(2018.5.30)
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- PwCコンサルティング合同会社 Technology Laboratory | 所長・上席執行役員 パートナー 三治 信一朗 氏 / 執行役員 パートナー 岩花 修平 氏(2024.3)
- BCG Digital Ventures | Lead Product Manager 伊藤 嘉英 氏 / Lead Product Manager 丸山 由莉 氏(2021.8)
- NTTコミュニケーションズ 「KOEL」 | デザイン部門「KOEL」クリエイティブ・アドバイザー 石川 俊祐 氏/デザイン部門「KOEL」UXデザイナー 金 智之 氏/デザイン部門「KOEL」 Head of Experience Design 田中 友美子 氏(2021.4)
- NTTデータ Tangity | Tangity ADP Service Designer 村岸 史隆 氏(2020.11)
- BCG Digital Ventures | Engineering Director 山家 匠 氏(2020.6)