先日公開した「第1回 PEファンドの実態 ~ファンドマネージャーに聞いた5つの質問~」の後篇を公開致します。是非ご一読下さい。
前編はこちら
お話は引き続き、独立系PEのアソシエイトとして活躍するAさんに伺っております。
■Aさん 独立系PE/アソシエイト 投資銀行出身
Q4.面接官としてどういったポイントで候補者を見ていますか?
【INQ 佐竹】Aさんは自社採用の面接官も行っていらっしゃると思います。面接では、どういったポイントで候補者を見ているのでしょうか。
【Aさん】面接で見ているポイントは大きく2つです。
1つ目は、成長ポテンシャル。2つ目はとコミュニケーション能力になります。
成長ポテンシャルは、言われた事をやるのではなく、自分で仕事を作れる人かどうかという点で見ています。指示待ちの人はPEには向いていないと思います。
また、PEのファンドマネージャーには、情報収集能力や周りを巻き込む力が欠かせません。面接時点で全てを備えている事は求めませんが、できるようになれそうかどうかというポテンシャル面は見ています。例えば、PEを希望しているなら業界の事をしっかりと理解して、面接に挑む、など基本的な事です。
本を読むだけではなく、業界関係者にインタビューするとか、エージェントに話を聞くとか色々やりようはあると思います。その上で自分自身の見解や仮説を持って面接に来られる方が良いと思います。
【INQ 佐竹】やはりPEの選考はハードルが高いようですね。2点目のコミュニケーション能力について、もう少し詳しく教えて頂けますか?
【Aさん】コミュニケーション能力と言ってしまうと誤解されるかもしれませんが、相手が話をしたくなる人間的魅力を持っている事が重要だと思います。もちろん主観的な要素が大きいとは思いますが。
面接でも、ロジカルに物事を整理する事が得意な人はたくさんいます。ただロジカルばかりで、「この人とずっと話したいと思う相手ではないな」という人もたくさんいます。面接の場でさえ、そうなってしまう方は、投資の際に対象会社から情報を引出すという事は出来ないと思います。ロジカルに物事を整理できても、元々の情報を引出せなく、内容が薄ければ意味が無いですからね。
【INQ 佐竹】ロジカル一辺倒でもダメなんですね?
【Aさん】もちろんです。ロジカルでない人は無理ですが、ロジカルな上で、相手としっかり対話できる人。相手の立場に立って話ができ、人間的魅力が無いとだめですね。
Q5.投資銀行出身者がバリューアップ、コンサル出身者がエクセキューション(M&A)をすぐにできるようになるものでしょうか?
【INQ 佐竹】これも候補者から聞かれる事ですが、投資銀行ではビジネスの中身まで踏み込んだ分析をしていないから、バリューアップができるのかという疑問です。このあたりは如何でしょうか?
【Aさん】この問いには、「なぜPEが投資先の企業価値を上げられるか」という事からお答えした方が分かりやすいと思います。
PEの価値創造は大きく3つ、レバレッジ効果、マルチプルアービトラージそしてEBITDAの成長です。ここでは、EBITDAの成長に絞って話をしたいと思います。
EBITDAの成長は、簡単に言うとコストを減らすか、PLのトップラインを伸ばすかの2通りの方法があります。ミッド、スモールの企業は、そもそもコストダウンの余地はあまり大きくなく、費用構造の改革と言っても限度があります。ではどうやってEBITDAを伸ばすかというと、基本的にはPLのトップラインを伸ばすことを考えます。
【INQ 佐竹】そうですね。ただ、投資先の経営者の方々は、会社経営を何十年もやっている方々だと思います。PEがそういった会社の株主になったからといってそんなに変わるのでしょうか?
【Aさん】その点に関しては、はっきりと変わると言えると思います。
PEが株主で入った場合に一番違う事は、過去のしがらみや慣習は抜きにして、ゼロベースで考えるという事です。
通常、物事を合理的に考える際には、漏れが無いようにオプションを網羅し、一つ一つ選択肢をつぶしていくと思います。われわれが対象会社と物事を進める時、例えば戦略オプションを考える際には、全戦略オプションを漏れなく洗い出し、一つ一つのオプションについて、対象会社の人たちと討議していくスタイルをとっています。そうすると、対象会社自身ではあまり気にかけていなかった有効な戦略オプションが意外と出てくるんです。
だいたい、選択肢にあってもやらないという意思決定の裏にはそれなりの理由はあります。しかし、これだけ事業を取り巻く環境の変化が激しい時代なので、こちらからゼロベースで質問すると、対象会社の人たちが「今改めて考えると、有効な戦略オプションになるな」と言って下さるケースがあるのが実体験です。
【INQ 佐竹】ミッド、スモールの企業ならではの面白みにも通じそうですね。それ以外に体験談としては何かありますか?
【Aさん】そうですね。あとは、株主が変わった事を機に、改めて事業計画を作り直して気づく事もあると思います。
例えば、最近投資をした会社に、労働集約的なビジネスモデルの会社があります。その会社は今までは、そのビジネスモデルから、「売上伸ばすには人を一杯取った方がいいよね」程度にしか考えていませんでした。
弊社が株主となり、一緒に事業計画を作って行くと、このビジネスモデルの要は人材を確保するだけでなく、人の生産性も重要であることを対象会社の人たちと共有したことにより、対象会社の人たちが、確保した人材をどのように育てていくのかということにも焦点を当てて考えるようになりました。
事業計画作成を契機に事業構造を整理していくと、注力すべきポイントが明確になり、何をどうやればよいかが見えてくる。それが対象会社への意識付けになり、結果トップラインが上がっていくという循環ですね。
【INQ 佐竹】そうなんですね。では質問に戻りますが、投資銀行出身者にバリューアップはできるのでしょうか?
【Aさん】結論はできるとなります。もちろん色々と学ぶべき事項は、たくさんあると思いますが、外部の専門家、それこそコンサルタント等を巻き込みながら、ロジカルに考えて目標を掲げ、対象会社の人たちを巻き込んでその目標を達成すること事ができれば、投資銀行出身者でもバリューアップは可能と思っております。
肝は、目標達成に向けた施策を投資先の人たちと協働してやり切れるかどうかだと思います。
余談ですが、投資銀行でもDCFの時に数値計画を作ったりしますが、投資銀行の数値計画は魂がこもってないですよね。投資銀行の人が作る数値計画は、価格の設定があって逆算するとこういう計画になりますよねと作るものだと思います。対象会社の人たちと討議しながら事業シナリオを構築し、その事業シナリオに沿った数値計画を作成していく点はPEで学びましたね。
【INQ 佐竹】では、コンサル出身者の人にエクセキューションができるのか、という点に関しては如何でしょうか?
【Aさん】それは、最初は投資銀行出身者のようにはできないと思います。
ただそんなに難しいことをやっているわけではないので、一通り経験してしまえば、誰でもできるようになると思いますよ。投資銀行も新卒を採用して、彼らがやっているわけですから。
【INQ 佐竹】Aさん今回はいろいろと詳しいお話を伺わせて頂きありがとうございました。最後にPEを希望している、候補者の皆様にメッセージを願いします。
【Aさん】PEの業務は非常にダイナミックで、プレッシャーも大きいですが、やりがいも同時に大きい仕事です。自分自身でリスクを負って、勝負したいという人がいらっしゃいましたら、是非PE業界を目指してください!
※「PEファンドの実態 ~ファンドマネージャーに聞いた5つの質問~」は今後も不定期でお送りする予定です。「こういった話を聞きたい」というリクエストがございましたら、遠慮なくご連絡下さい。
(佐竹)
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