引き続きポストコンサルティングファーム、ポストIBDとして人気の高いPEファンドですが、「実態がよくわからない」「今と比べ何が違うかわからない」という声も変わらず聞こえてきます。
そこで、「PEファンドの実態 ~ファンドマネージャーに聞いた5つの質問~」と題し、現役PEファンド(以下「PE」)のファンドマネージャーに、キャンディデイトから良くある質問に答えて頂き、その内容を発信していきたいと思います。(忌憚ない意見をお話頂きたいため、あえて会社名、個人名は伏せた形を取らせて頂きます。)
それでは記念すべき第1回です。今回は独立系PEのアソシエイトとして活躍するAさんにお話を伺いました。
■Aさん 独立系PE/アソシエイト 投資銀行出身
Q1.転職時にPEを選ぶ軸はありますか?
【INQ 佐竹】よく候補者の方々にどういう軸で、皆さんはPEを選ぶんですかと聞かれます。Aさんはどのように整理し、今の会社を選ばれたのでしょうか?
【Aさん】私が転職した際は、まず大きくラージキャップかミッド、スモールキャップかという点で業界を分けて考えました。個人的な感覚では、この2つの領域は同じPEでも大きく異なり、それぞれ違った面白みがあると思います。詳細は割愛いたしますが、私はミッド、スモールにより強い興味があったので、ミッド、スモールのファンドを中心に見ていました。
ミッドスモールの中では、独立系か大手資本系かという分け方があると思います。もっと分解すると、大手資本系も金融系か商社系かに大別されると思います。
この3つの区分では、一般論として意思決定のプロセスが異なります。
私は、元々メガバンク系の証券に在籍しており、日頃から意思決定がフレキシブルでない事をフラストレーションに感じていました。そのため、独立系の方が転職後に同じような悩みを持つ可能性が低いだろうと考え、弊社を選択しました。
【INQ 佐竹】そうなんですね。実際働いてみてどうですか?良い所、悪い所があれば教えてください。
【Aさん】良いところは当初の仮説通り、独立系は自由が利くという点ですね。これは独立系という特性なのか、弊社の特性なのかは分かりませんが、裁量は大きく意思決定もフレキシブルです。悪いという事ではないのですが、ファンドレイズという点に関しては、大手資本系の方が強いのではないでしょうか。
Q2.他のPEと案件で競合した際に差別化のポイントはどういった点になりますか?
【INQ 佐竹】売り手から見た際に他PEとの差別化ポイントはどういった点になりますでしょうか?候補者から見た際は、PEファンドを選ぶポイントにもなると思いますが。
【Aさん】正直bidを除いて他のPEと競合した経験が少ないので、競合した際の差別化という事を強く意識した事はありません。現状はbidに関して、本気で取りに行くという事もしないので、参考になる実体験の話はできないです。
弊社では、「オーナーが売りたいという案件をどう取るか」より「どうやって売りたいと思ってもらうか」を重要視しているため、PEの競合というのはあまり意識していません。
【INQ 佐竹】そうなんですね。それでは基本的には相対で案件を進めるという事でしょうか?
【Aさん】基本的に相対で話を進めます。売却を検討しているものの、買い手の具体像を想像できておらず、ましてやファンドを買い手と想定していないオーナーに対して、私たちは対象会社の課題について仮説を立て、提案していく。そして案件を作って行くというイメージです。そのため、会社の看板やトラックレコードではなく投資チームが「対象会社の本質的な課題を抽出してその解決策を提示できるか」、「オーナーの心をどれだけ掴む事ができるのか」そして「オーナーの心に響くいい提案をできるのか」が重要です。もちろんまったく看板やトラックレコードが関係ないとは言いませんが。
「あなたのファンドに売るよ」という事では無く、「○○さんにだったら任せるよ」と言ってもらえる信頼関係が重要だと思います。
【INQ 佐竹】少し話はそれてしまいますが、その信頼関係を構築するために心がけている事はありますか?
【Aさん】まずは、兎にも角にも相手の事をとことん理解する事です。
そのための前準備として、オーナーと面談する前には、その会社の事や業界の事をできる限り調べます。共通言語でコミュニケーションが取れるように専門用語も学びます。その上でオーナーに色々と教えて頂き、理解を深めていく。
そのプロセスで、気を付けているのは、当たり前かもしれませんが、同じことを2回聞かないという事です。もちろん理解が不足していれば確認はしますが、毎回面談で同じ質問をしていると「真剣に考えているのだろうか?」「任せて大丈夫か?」と思われてしまいますからね。
Q3.PEと投資銀行での業務の違いは?また実際の労働時間はでどうでしょうか?
【INQ 佐竹】Aさんは、前職で投資銀行のM&Aアドバイザリー部門にいらっしゃったかと思います。PEの業務もM&Aをやる事になると思いますが、エクセキューションでの違いはありますか?
【Aさん】PEは、投資銀行から見るとお客さん側になるので、そもそもの立ち位置が違います。投資銀行は、お客さんがM&Aをやりたいという時に、専門家としてアドバイスをするというのが基本です。つまりお客さんのニーズが先にあります。
投資側は全くスタンスが違い、どういう投資をするのか、どういう案件を作って行くのかという主体的な仕事になります。
【INQ 佐竹】実際の業務内容に違いはありますか?
【Aさん】業務内容も、少なくとも私の経験では大きく違います。端的に申し上げますとPEの方がより本質的な仕事にフォーカスできます。
例えば、PEの仕事は外部の専門家と協力し進めていきます。私自身の仕事は投資シナリオを構築し、投資の意思決定をすることです。その意思決定に際して、税務、財務、法務、人事等専門家が得意とする領域は、私自身が各専門家に何を検証してほしいのか明確にしてその検証作業はお任せするスタンスで行っています。
また、実体験からすると投資銀行の業務は「必要になるかは分からないけど、お客さんに言われそうだから準備しておく」という資料が山のようにあります。特に勘どころがよくないPMと案件が一緒になると、お客さんの目にも触れないし、目に触れたとしても感謝されない資料を大量に作らなければならなく徒労感があると思います。しかしPEは主体者側なので、必要でない分析はしないですし、もちろん不要な資料も作りません。
【INQ 佐竹】そうすると、業務時間も投資銀行と比べると少ないのでしょうか?
【Aさん】他のPEは知りませんが、弊社では業務時間は投資銀行比では格段に短いです。
一般的概念の普通の生活です。夜も普通に帰りますし、土日も休みます。ただ、投資先に何か問題が起こったりすると休みは一気に無くなることもあります。投資先で起こった問題は、自分自身にとっても一大事ですからね。
(後編に続く)
※「PEファンドの実態 ~ファンドマネージャーに聞いた5つの質問~」は今後も不定期でお送りする予定です。「こういった話を聞きたい」というリクエストがございましたら、遠慮なくご連絡下さい。
(佐竹)
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